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20話「チョコレートと偶然」

「椎奈、これちょっとひらひらしすぎじゃ……」

「このくらいしないとバレちゃいますよ!っていうかめちゃくちゃ似合ってます可愛いですよ!」

「あ、ありがとう……?」


遠い場所とはいえ人通りの多い場所に行くということで、ぱっと見ではわからないようにと椎奈プロデュースで着替えやメイクをしていた。

のだが、普段は動きやすさメインで着替えており、メイクも外に出ていけるほどの最低限しかしてこなかったので女らしい服装やメイクは私には可愛すぎる気がして落ち着かない。


(というか途中から椎奈の着せ替え人形みたいになってた気がするけど……)


「そうだ、矢木さんにも送ってあげよ〜っと」


パシャパシャと私を撮っていた椎名が突然そんなことを言い出した。


「え、ちょ、ちょっと椎奈?!」

「わ、既読はやっ!!?」


慌てて止めようとしたものの、もうすでに送った後だった。

いつの間に凰牙さんと椎奈が連絡先を交換していたのか気にはなったが、それ以上に既読がついたということの方が私には問題だった。


「先輩先輩、似合ってるな、だそうですよ〜」


にやぁっとしながらトーク画面を見せてくる。

恥ずかしさで顔に熱が集まっていくのを感じるが、さらに引っかかったのは今までのトーク履歴だった。


「し、椎奈!あなたいつも凰牙さんに送ってたの!?」


椎奈は近況報告とばかりに今までの出掛けた場所や写真を凰牙さんに送っていた。

少し大きい声が出てしまった私に、椎奈は全く悪びれもない様子だった。


「そっちの方が矢木さんも安心かなって思って」


漫画なら絶対てへっという字が書かれていそうな笑顔で椎奈はそう言った。

そういえば、最近は凰牙さんがあまり椎奈とのことを聞いてこなかった気がする。

前は今日はどこに行ったんだ?とか楽しかったか?とか聞いてきていたのに……

椎奈からの報告があったからだったのか。


「まぁまぁ!そんなことより早く行かないと売り切れちゃうかもしれないですよ!さっさと行きましょ!」


話を逸らすようにグイグイと私の背中を押しながら椎奈は玄関へと向かっていった。
















「うわーやっぱり混んでますね〜」


椎奈に導かれるままに電車に乗って訪れた先は行列ができているチョコレートのお店。

高級……というよりはオシャレのイメージの方がしっくりくるお店だけれど、私のような人には合わないオーラがあった。


「さ、並びましょ、先輩!」

「え、あ、う、うん」


できる限り身を縮めて椎奈の後をついていく。

するとその様子に気づいた椎奈がピッと背筋を正して見せて


「先輩、胸張ってください。じゃないと余計かっこ悪いですよ」


慌てて縮こまっていた体を伸ばした。

椎奈はそんな私をみて大きく頷く。


「うん。やっぱり先輩はそうでなくちゃ。最近ずっと下向いて歩いてましたからね」

「そ、そう?」

「そうですよ。仕事の時はいっつも背筋がこう、定規でも入ってんじゃないかってくらいピンってしてたのに」


確かに仕事の時は気を張っていたが、そんなにだったのだろうか。

少しあの頃を思い出しながら背筋を伸ばして長い列にならんだ。








20分くらい経っただろうか、私と椎奈はようやく店の中に入ることができた。


「先輩何にします〜?私は最近は気になってる人いないんで同僚の男共に買っていきますけど……」

「私は……」

「矢木さんにはもちろんあげますよね」

「え?」

「え?」


椎奈に当たり前のように聞かれて思わず素っ頓狂な声が出る。


「え、もしかしてあげないんですか?」

「あ、あげるけど……なんでわかったの?」

「だって先輩矢木さんのこと好きでしょう?」

「……えぇ!?」


きょとんとした顔で椎奈にそう言われ、顔に熱が集まる。

確かに凰牙さんには日頃のお礼も兼ねて渡そうとは思っていたが……


「ち、違うわよ!ただのお礼だもの」

「ふ〜ん?」


椎奈は信じていないような目でにやぁと笑いながら返事をする。


「ま、それならそれでいいです。後ろにもたくさん並んでましたし、ささっと買っちゃいましょう!先輩こういうのどうですか〜?」


さっと切り替えた椎奈はシンプルだけれど、美しいという言葉が似合いそうなチョコレートを指さす。


「そうね……」


そうして私たちは5分ほどで買い物を終えた。











帰り道。

また通ってきた長い道のりを電車に揺られながら戻っていく。


「んー、流石にちょっと遠かったですね〜」

「そうね。……でも楽しかったわ、ありがとう椎奈」

「そう言ってもらえて私は満足です……ってあれ?」


嬉しそうに笑っていた椎奈が何かに気づいて声を上げた。


「椎奈?どうしたの?」

「先輩、あれ矢木さんじゃないですか?」

「え?」


パッとその方を見れば、少し先に見覚えのある背中があった。


「仕事中ですかね?」

「そうね……」


普段車で移動しているので、わざわざ電車を使っているということはそういうことなのだろう。

吊り革に捕まっている凰牙さんは奥にいる誰かと話している様子だった。

と、電車が揺れて奥にいる人の顔が見える。


「……あ」


相手もこちらに気づいて、凰牙さんに声をかけてこちらに近づいてくる。


「あー!やっぱり來香ちゃんじゃん。こないだぶり〜」

「山崎さん」


凰牙さんと一緒にいたのは山崎さんだった。

親しげな私たちを見て椎奈が隣で「え?知り合いですか先輩?」とでもいいたげな目で見ているのを感じる。


「來香、轟。奇遇だな」

「はい、凰牙さんはお仕事ですか?」

「いや、帰りだ。こいつがたまには電車でとか言い出してな」


あぁ、それで……と頷くと、山崎さんが椎奈の方を覗いて言った。


「來香ちゃんはお友達とお出かけ?」

「あ、はい」

「初めまして、俺は山崎智也って言います!よろしくな〜」


軽く名乗った山崎さんに、なんだこいつはという目で見た椎奈だったが一瞬で切り替えて自分も名乗った。


「初めまして、轟椎奈っていいます。山崎さんって鈴音先輩たちとどんな関係なんですか〜?」


……なんだかそこに棘があるような気がしたのは多分気のせい。



「ん?あぁ、俺は凰牙の秘書兼親友なんだよ。んで、この間凰牙ん家に遊びに行ったからさ〜。椎奈ちゃんは來香ちゃんの後輩ちゃん?」


隣で凰牙さんが「親友じゃない」だの「遊びに来たんじゃなくてお前が酔っ払ったから仕方なく俺が連れ帰っただけだろうが」と睨んでいたが、山崎さんは気にも留めなかった。


「あぁ、矢木さんの。なら私は鈴音先輩の後輩兼親友です」


……親友……?

少し引っかかったが、まぁ否定はしないでおく。


(どちらかと言えば妹のような存在だけれど……)


「あ、私ここだ。それじゃあ先輩、また今度!」

「えぇ、またね」


そうして椎奈、次の駅で山崎さんも降りて凰牙さんと二人になった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

リアクションやブクマなどしていただけるととても励みになるのでよければよろしくお願いします!

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