杏/臆病な愛
約2年ぶりです。ゆっくりとですが更新していきたいと思います。
今日初めてのお客様に、いっとう美しい薔薇を見繕います。鮮やかに深紅に咲いた薔薇を。そういえば姫様は、名前に薔薇が入っていたのにどちらかというと百合のような静かな美しさをもった方でした。いつも下を見ず前を確りと見つめる芯をもった方。それが姫様でした。あぁ、懐かしい。姫様の視線はいつも私の内側を見通すような……、あれ、姫様のお顔ってどんな顔だったっけ。
「あの、リボンは黒でお願いします」
「あ、はいかしこまりました」
嘘だろ、私が姫様の顔を忘れるはずがない。そんなはずないです。なんでだよ、姫様の髪色は淡い金だった。そうだ淡い金髪です。1番大切な人だったのに、ど忘れした? そんな馬鹿なこと。
「恋人にですか?」
「はい、彼昇進して隊長になったからその祝いに」
「すごいですね、お若いでしょう?」
「21になるわ。騎士団に入って5か月で小隊を任されたの」
「流石に早くないですか!?」
そんな、姫様のあの視線は覚えているのに、なんで、思い出せない? 前は毎日嫌でも顔を合わせていたのに。なんで、なんで、なんででしょう? いつも話していたのに。そう、鈴のような軽やかな……、違う。姫様は静かに話す。なんだこれは。
「……なんか最近人手が足りないみたいで」
「なるほど、行方不明者が沢山出ているという話ですか。最近は物騒ですからね」
「そうですね、本当に大丈夫かしら……」
おかしい、私が私ではないみたいだ。私は姫様付きの騎士だったエルージュ、そうだろう? 騎士が仕えていた主人の顔、声を忘れるなどそんなことなどない。えぇ、そうです、ありえない。私は、エルージュは、姫様の様々な癖や仕草、顔の黒子の数でさえ覚えていたのだから。
「それに私の仕事が最近忙しくて、彼から離れないといけなくなったの……」
「そうなんですか、遠距離になってしまうんですね」
「……いえ、もう別れようかと思っているんです」
「なぜですか? 話を聞いていると仲は良いのでは?」
「いいえ、私の都合なんです。このままだとこっちに戻ってこれなくなるから、彼には他にいい人を見つけて欲しくて。待っててほしくないんです」
「それは……」
「だから、今日の花も、お祝いとお別れの意味を込めて渡すの」
「…………」
「私の勝手なんですけどね!」
とうとう私は馬鹿になってしまったのでしょうか、姫様のお姿を忘れてしまうなんて、そんな。
……あぁでも、お客様の綺麗な漆黒の髪を見ていると、姫様がいつも着ていたドレスの色を思い出します。それに紅い目、いつも髪に着けていた薔薇のコサージュの色と一緒です、姫様の色です。
「はい、お待たせしました50センです」
「ありがとうございます、このお店が開いていて良かった」
「店を休もうか悩んでいるんですよ」
「お店しまっちゃうんですか? 嫌だなぁ。……そうだ店員さん」
「なんでしょう?」
「来週の始めの夜は絶対に外にでちゃ駄目ですよ」
「え?」
「忠告です、最近物騒ですから。いろいろ噂を聞くんです」
「そうなんですか」
「えぇ、それでは」
「あ、ありがとうございました」
…………まいどありでーす。
私疲れているのでしょうか。あぁ、姫様申し訳ありません。
とても 愛していたのに。
エレンのセルフSANチェック。
本当のことをいうと、この話は自分が気分が超絶鬱だった時に書き始めたので、今では書き方や表現が変わっているかもしれないです。