第4章 偽りの勲章と双雄の誕生
一、致命の奇襲と限界の救済
その時。
クラウドの戦闘本能が狂ったように警報を鳴らし、突如として放たれた底知れぬ殺気が、周囲の空間ごと凍りつかせた。
「レイブンっ! 背後に気をつけろ――ッ!!」
ヒステリックなまでの警告が、暴雨の吹き荒れる夜空を切り裂く。
レイブンが衝撃から正気に戻る隙すらない。
魂まで凍てつかせる極致の死気が、すでに彼のうなじへと肉薄していた。瓦礫の影が狂ったように歪み、這いずる。死霊軍団の元凶――「死霊王」オシリスが、空間を破って姿を現したのだ。
その手に握られた、幽緑の毒光を滴らせる漆黒の長剣は、破滅的な死寂を纏い、レイブンの背中めがけて一閃された!
『レイブン――っ!!』
本能が、あらゆる思考と悲痛を完全に凌駕した。
長剣がレイブンの胸腔を貫こうとする、まさに千鈞一髪の瞬間。クラウドには、地面に落ちた大鎌を拾い上げる時間など一瞬たりともなかった。
彼は死に体の狩猟豹のごとく跳ね起きると、右脚を軸に猛然と身体を旋回させ、万鈞の勢いを乗せた左脚の蹴りによって、肉身をもってその漆黒の毒剣を数寸ほど力任せに弾き飛ばした――!
『カチャンッ!!』
骨の砕ける音と、耳をつんざく剣鳴が同時に爆ぜる。
長剣は軌道を逸れて空を突いたものの、刃に纏いついていた狂暴な死霊術が瞬時に墨緑色の劇毒の蔦へと化し、骨にへばりつく寄生虫のごとくクラウドの左脚へと狂乱して侵食を広げていった!
「くたばれ……死ねぇぇっ!!」
電光石火の間に稼ぎ出した、ほんの一瞬の隙。
それが、レイブンの瞳の奥に押し込められていた極限の怒りと殺意に火をつけた。
彼は両手で「電光杖」を死に物狂いで握りしめ、体内で燃え尽きようとしていた錬金魔力のすべてを、その先端へと叩き込む。
杖の先は刹那の間に闇を切り裂く眩い雷霆へと化し、破滅の咆哮を上げながら、死霊王オシリスの心臓を容赦なく撃ち抜いた!
レイブンがスライドレバーを限界まで押し込む。
槍先から隙間なく広がる紫青色の錬金陣が激しく爆ぜ、全城の死霊へと供給されていたオシリスの魔力ラインを、根本から強制的に切断した!
『グギャァァァァ――ッ!!』
死霊王は凄惨な絶叫を上げ、その巨躯は瞬時に黒灰となって崩れ落ちていく。
そして、周囲を埋め尽くしていた数万もの食屍鬼軍団もまた、まるで電源を引き抜かれたかのように、糸の切れた人形の如く『ドシャッ、ドシャッ』と地表へ倒れ込み、完全に生気を失ったのだった。
二、壮士の断腕
「クラウド――っ!!」
レイブンが勝利に歓喜する暇すらない。
振り返った彼の目に飛び込んできた光景は、魂を打ち砕くほどの絶望だった。
床の上に倒れ伏すクラウドの左脚は、すでに死霊術によって完全に侵食されていた。
灰黒色の死気が毒蛇のごとく這い上がり、皮膚は目に見える速さで潰瘍し、黒ずみ、傷口からは骨が剥き出しになるほど深く壊死している。この侵食を止めなければ、死霊の猛毒は数秒のうちに心臓へと達し、彼を理性のない食屍鬼へと変えてしまう!
クラウドの額には青筋が浮かび上がり、冷や汗が滝のように流れ落ちていた。
彼は歯を食いしばり、その唯一残された瞳に、見る者を戦慄させるほどの凄惨な決意を宿す。
『シュッ――!!』
躊躇は、微塵もなかった。
彼は右袖の隠しポケットから錬金短剣を逆手に引き抜くと、侵食された己の左脚めがけて、容赦なく刃を振り下ろした――!
「あぁぁぁぁぁぁっっ――!!」
鮮血が、噴水のごとく激しく吹き荒れる。
漆黒の毒血と鮮やかな赤血が、泥まみれの地面を真っ黒に染め上げた。
クラウドは自らの唇を噛みちぎりながら、自らの手で、己の左脚を根元から切断してみせたのだ!
凄まじい劇痛に全身が激しく痙攣し、視界が急速に真っ暗に染まっていく中、彼は滾る血の海の中へと完全に崩れ落ち、そのまま意識を失った――。
「クラウド――っ、クラウド――っ!!」
レイブンは泥の中に両膝をつき、裂けるような悲鳴を上げながら、クラウドの血が噴き出す傷口を必死に手で押さえつけ、狂ったように助けを求め続けるのだった……。
三、虚構の勲章と伝説の誕生
数日後。
ロンドン駆魔公安本部の絢爛たるサロン。
かつて「スラム街を見捨て、民を囮にしろ」と冷酷な命令を下した高層幹部たちは、今や華麗な礼服に身を包み、会場に満ちる貴賓たちの拍手の中で誇らしげに持論を語っていた。
まるで、全城を救ったこの偉大な勝利が、すべて彼らの英明な指導によってもたらされた奇跡であるかのように。
その頃、静まり返った病院の一室。
クラウドは顔色を蒼白にして、ベッドの上にぽつんと横たわっていた。
彼の左脚のシーツは虚ろにペチャンコに凹み、その冷徹な眼光は、ただ静かに窓の外の曇天を見つめている。
一方、表彰大会のステージ中央。
レイブンは凛とした純白の戦袍を纏い、眩いスポットライトの光を全身に浴びて立っていた。
壇下の幹部たちからの白々しい賛辞と、差し出される最高栄誉の勲章を前に、レイブンはただ力なく手を伸ばし、鬱陶しそうにボサボサの髪をかきむしる。
彼は真実を暴露することも、その場で怒鳴り散らすこともしなかった。
ただ静かに、その重々しい二つの金属の勲章を受け取る。
一つは自分自身のもの。そしてもう一つは、病室で横たわる親友の代理として――。
あの死闘の果てに生まれたのは、皮肉と血涙と裏切りに満ちた「血色の奇跡」だった。
その物語は、瞬く間に天下へと轟き渡る。
「ウロボロスの魔術師」レイブン。
――複雑怪奇な錬金陣によって死霊王を封じ込め、己の尾を噛んで循環し続ける無窮の頂点たる、孤高の天才錬金術師。
「白衣の死神」クラウド。
――白袍を纏い、片脚を失いながらも死霊軍団を踏みにじり平定した、血塗れの鋼鉄の戦士。
少年の無鉄砲な衝動から始まり、残酷な現実と絶望によって幕を閉じた伝説は、勲章の冷ややかな光のなかで、二人の胸に最も痛切な十字架を刻み込んだのだった……。




