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半死の時間—魂の緒—  作者: 説人


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4/5

◆異変◇

 今回もお越しいただきありがとうございます。

「私?ないですね……」

 彼女は自分の身体を捻って左右に首を動かし、背後に視線をやるが、どこにも糸はなかった。

「どうしてだろう?」

 そこで初めて奇妙な違和感があった。しかし、その違和感の理由を追求するよりも、彼女との関係を壊したくない気持ちが勝っていた。


「触ってもいいですか?」


 予想外の申し出に驚いた。


 気づいてしまった違和感のせいで、躊躇う気持ちがあったが、その屈託のない表情から悪意は読み取れなかった。俺は良い人キャラを維持するためにそのまま受け入れた。


「どうぞ、どうぞ」


 彼女は糸を手に巻き、糸を見つめて目を輝かせていた。


「細い、本当に糸ですね」

「そ、そうだね。引っ張らないでね」

「引っ張りませんよ。だって、糸が切れて地獄に落ちたら大変ですもん」

「じ、地獄に落ちる?」

「もう、喩えですよ」

「はは、そうだね」


 そう言った次の瞬間、彼女はこれまで見せたことのない表情をした。うっとりとした目、片方の口角が上がったような口元、微笑んだ表情が歪みに見えて不気味だった。


 驚いて瞬きをすると、先程と変わらない美しい純粋な笑顔に戻っていた。彼女はいつまでも糸を触り続けていた。


 そこからも楽しい会話は続いた。そうこうしているうちに、彼女が飛ぶのに慣れてきたようなので、途中からは手を離して並走して飛んでいた。やがてある一軒家の前まで行くと、少し俺の先を飛んでから振り向いてこう言った。


「ここです。私の家」


 住宅街にある二階建ての一軒家だ。


「田所さん、空飛ぶの上手いですね」

 彼女はそう言うと、飛ぶのに慣れたようで、その場でくるりと回転した。


「俺も初めてなんですけどね。優美さんはずいぶん慣れましたね」

 そう俺が言うと、彼女は目の前から忽然と消えていた。


「田所さんのおかげです」

 急に真後ろから声がしたので振り向くと、彼女は一瞬にして背後に移動していた。どうやって移動したか全く見えなかった……。


「今日は、突然なのに親切に家まで送ってくれてありがとうございます。今度、このお礼は必ずします」

 彼女は空中で頭を下げた。


「……優美さん、お礼だなんていいよ。また、困ったら声かけてよ。いつでも力になるよ」

 瞬間移動の方法も気になったが、これをきっかけに仲良くなるチャンスを逃したくない。気になることはもっと仲良くなってから訊こう。今はいい人でいよう。


「あの、いや……はい。では、失礼します」

 どこか名残惜しそうにしてくれているのが妙に嬉しい。馬鹿な考えとは分かっているが、これも男の性――もしかして、俺のこと好きなんじゃないの?一目惚れした?

 子供の頃から幾度となく感じてきた馬鹿な『自惚れ病』だ。


「あの……その……」


 失礼しますと言ったのに、なぜか彼女はその場から動かないで身体をもじもじと動かしていた。これは本当に自分を好きになってしまい、チューでもしたいのでは?と、我ながら馬鹿すぎる考えが頭をよぎった。いくつになっても男の性はしょーもない。


「ちゅっ!」


 え?……大袈裟に言えば青天の霹靂。


 哀れな男の妄想が叶うような展開だった。彼女は瞬間移動するように距離を詰め、俺に軽くキスをした。頬を赤らめ、恥ずかしそうに潤んだ瞳で俺を見ていた。


「あ、あの、ごめんなさい!今日はありがとうございました!」


 そう言って背を向け、一軒家の二階の窓に身体を泳がせて中に吸い込まれていった。


 これが僥倖(ぎょうこう)ってやつか……久しぶりの感触。


 柔らかく、ポンという柔らかい弾力。体温を感じない冷たい違和感だけが気になった。魂の状態だから?すぐに自分も同じ感覚を優美さんに与えていた可能性を感じ、それ以上は気にしなかった。


 また会いたい。それが本音。しばらく余韻に浸っていると、すぐに彼女が外に出てきた。まさか、チューの続きをしにきたのか?と、ボケが過ぎる思いつきが脳裏に浮かんだ。


 見る限り彼女はとても怯えているようだった。彼女は震える声でこう言った。


「田所さん、家に、誰か知らない人がいます」


 耳を疑った。


 こんな夜中に強盗?俺は窓に近付いて窓越しにベッドに寝ている優美さんのパジャマ姿を確認した。誰もいる様子はない。あまりマジマジと女性が寝ている姿を見るのも気が引けたので、すぐに振り向いて「誰もいませんよ」と言った――しかし、なぜか優美さんは忽然といなくなっていた。


 周囲に目を配るが上にも下にも誰もいない。


 ふと、優美さんの寝顔を見ようと思い、窓に顔を突っ込んでベッドを見て驚いた。最初に見た時は布団を被っていると勘違いして気にもしなかったが、彼女の顔には布がかけられていた。


 彼女は半死じゃない?

 だからオレンジの糸がない?

 そもそもこれは本当に優美さんなのか?

 次々と疑問が湧いた。


 寝ているだけなら誰が布をかけた?……この家で何かがあったのは間違いない。それが犯罪なのか、儀式なのか、優美さんと思われる女性はよくないことに巻き込まれている?……そう考えると気持ちが焦り始めた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!


 次回で最終回です!またのお越しをお待ちしております!

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