9話
仮想空想OP
水曜日のカンパネラ 『シャルロッテ』
異世界転移装置完成の吉報は、すぐさま、当主であるシャルの父親に伝わった。
父はシャルを連れ、母のいる大学のような教育機関へと急ぐ。
馬車を走らせること20分。
馬が止まるやいなや、父はシャルの手を強引に引っ張りながら、装置のある建屋へと走った。
建屋の玄関では、そわそわしながら母が二人が来るのを待っていた。
「マユカ!」
「あっ!来た来た!」
「転移装置が出来たというのは真か!?」
「ええ…本当よ!ようやく完成したわ!」
「よしよしよーし!!シャル!これで助かる見込みが立ったぞ!!もう誰もお前のことを馬鹿にしたりしない!」
父は心底嬉しそうに喜びながら、シャルを抱き締め、次いで、母を抱き締めた。
「ありがとう…マユカ!学のない私では無理だった。君がいてくれて、君がシャルの母で…私の妻であることに、本当に感謝している!!」
「私こそ…!」
両親ともに涙を流しながら、抱きしめ合っている。それ程までに素晴らしいことなのだ。
その後、全員が建屋の中に入り、装置の前へと。
巨大な砂時計を彷彿とされる形状。
前後左右 あらゆる方向から配線や管が繋がっており、時折、プシューと蒸気が噴き出す異様な装置が、シャルの目の前にある。
既に入念な準備を済ませていた母の荷物が、装置の正面にある扉の前に置かれている。
「母様。それは何ですか?」
シャルは扉の前に置かれている箱を指差す。
この世界には存在しない珍しい物だ。
(本作始まって以来、シャルが発した(記した)初めての言葉である)
「これは、アタッシュケースと言って、旅行の時に荷物をいっぱい入れられる箱よ。これは…私の元いた世界の物なの」
シャルは幼い頃から、母が異世界から来た異世界人であることを教えられていた。
「成程。あ、其方もですか?」
「ええ、そうよ」
扉の前には、シャルが初めて見る物ばかりが置かれている。リュックや肩掛け鞄、それに上質な生地で作られた服が机の上に畳まれて置かれている。
「シャルちゃん。こっちにいらっしゃい」
母に呼ばれ、シャルは服が置かれている机の方へと。
「これは、私の世界の服をイメージして作ったの。もう30年も前の話だから、朧げな記憶で作ったのだけれど、案外良い感じじゃないかしら?シャルちゃんの分もあるから着替えてくれる??」
シャルは頷く。
パーテーションで区切られた簡易的な部屋で着替えを済ませる。
母は、黒のハイネック・バーバリーの台形スカート・厚底ニーハイブーツ。
シャルは、大きめのパーカー・デニムのパンツ。
1990年台のファッションだ。
普段のポロシャツのようなきっちりとした服と違い、だぼっとした服装に違和感を覚えながらも、シャルはどこか嬉しそうだ。
「うんうん!バッチリね!シャルちゃん!♫」
これで準備は整った。
近くにいる研究員に後のことを任せ、母と父は抱きしめあった。強く、ただ強く。そして耳元で呟く。
「シャルのことは、任せた」
「うん、任された」
腕を解き、次に、父はシャルを抱きしめる。
「気をつけて行っておいで」
「はい」
別れを告げ、母はシャルの手を握る。
そして、空いているもう片方の手で、装置の扉を開けた。
扉の向こう側は極彩色のモザイク状。何があるかまるで分からないその中へと、二人は足を踏み入れる。
突如、水の中に落ちたような感覚に襲われる。どっちが上でどっちが下かも分からない 上下左右の方向感覚が狂った世界で、パニックになりそうなシャルを落ち着かせたのは、右手に感じる母の温もりだった。
そして、モザイク状の景色がぐるぐると回り始め、徐々に形を成していく。ようやく脳の処理が落ち着いたらしく、そこに何があるのか、目を通した視覚情報から脳が認識を終える。
シャルは、あちらの世界〝地球〟へと転移した。
母が異世界転移してから、およそ、30年。
高校3年の受験を控えた時期に転移し、30歳でシャルロッテを産み、それなら17年が経っていた。
立花真夢華
1995年18歳で転移
30歳でシャルロッテ出産(12年経過)
17年後に再転移(29年経過)
西暦2024年。47歳で日本へと帰ってきた。
月・木 更新




