23話
仮想空想OP
水曜日のカンパネラ 『シャルロッテ』
「ダメっ!!!」
どこからともなく、声が聞こえてきた。聞き覚えのある少女の声だ。
その声に助けられ、理性が本能を制圧。身体の主導権を奪い返し、伸ばそうとしていた腕をどうにか止める。
息を吐きながら一息つく。
…ん?なぜか、ズボンのポケットがほんのりと温かい。不思議に思いながらズボンの方を見ると、生地越しでも分かるぐらい光っている。
おもむろに、ポケットに手を入れ、光っている物を取り出す。出てきたのは、いつの間にか手に持っていたあの 多賀大社 と書かれたお守りだった。
発光するお守りの光が、薄暗い空間をほのかに照らす。
太陽に照らされたような程よい温かさが、恐怖で固まっていた心を溶かす。
その光に照らされてか、周りを取り囲む狐面の人たちがたじろいだように感じた。
今なら―――いや…状況は好転していない。
恐怖心はマシになったが、周りを取り囲む人は依然多く、強行突破するのは流石に無理だ。
どうしようかと悩んでいると、手に持っていたお守りが1人でに動き出し宙に浮き上がり、目線の高さで静止…するやいなや、一際強く光り出し、辺りを照らした。
目を開けていられないほどの明るさに、目を瞑る。
少しして光が収まり、まぶたを上げると、そこには、あの日、不思議な空間で出会った 麦わら帽子を被った白いワンピースの少女が立っていた。
「お久しぶりね。突然で悪いのだけれど、ここは私が受け持つから、貴方は早くここから出て。分かった?」
有無を言わせない迫力に、ただただ頷く。
「うん、いい子。
やーちゃん。その人のこと、お願い」
光の中から現れた少女の両肩には、1羽ずつ鳥が乗っている。
左肩には、赤い鶏冠に真っ白な羽毛の長鳴鶏(現代のニワトリ)。
右肩には、青い瞳と真っ暗な羽毛に三本足の八咫烏。
あの日、あの時、夢で見たあの折り紙の二鳥だ!大きさは全然違うし、見た目もリアルだけど、間違いない!
少し感動していると、右肩の八咫烏が羽ばたき、僕の右腕をその三本の足で掴んだ。そして、折り紙の時とは明らかに違う圧倒的な膂力で、僕を持ち上げた。
ありがとうと少女に感謝を述べる暇もなく、八咫烏は狐面の肉壁を越え、出口の鳥居まであと数歩の所で、僕を降ろしてくれた。流石に鳥居は越えられないようだ。
「あの子に、ありがとうって伝えといてくれるかい?」
僕の言葉に、八咫烏が頷いたような気がした。
八咫烏は一際大きく翼を羽ばたかせ、飛んでいった。目視で確認することは出来ないが、あの少女のところへ帰っていったに違いない。
僕は、大きく、息を吸い込んだ。
多賀大社に来てから起こったさまざまな出来事を思い出しながら、息を吐く。
あと少し。あと5歩も歩けば、目の前のこの鳥居から出られる。呼吸を整え、前へと一歩、踏み出した。
一方、出口に迫る勢いの異世界の少年のはるか後方では、白いワンピースの少女と狐面が睨み合っていた。
「父様の時は駄目だったみたいだけど…私はあの子を、絶対に助けてみせる。なーちゃん。ここで母様を…止めるよ!」
コケッ!
長鳴鶏は元気に鳴き返す。
一触即発の空気が流れる。
白いワンピースの少女と長鳴鶏を取り囲む狐面の人々。
お互いに動く機会を狙っているようだ。
ジリジリと空気が鳴っているような緊張感の中、少女の目の前に、空から人が降ってきた。
すとんっ―――音もなく着地する。
黒いスーツに銀縁のサングラスをかけた群青の髪色の男性は、サングラスを指でくいっと上げながら、ため息混じりに少女へと話しかける。
「はぁ…駄目だよ、姉さん。母さんの邪魔しちゃ」
「あら、珍しい。まだ日が出てるっていうのに貴方が来るなんてね?つくちゃん?」
「もう夕方ですよ。そろそろ姉さんの方がお暇した方がいいのでは?ちっ…それに、いつまでその名前で僕を呼ぶんですか。もう子どもじゃないんですから」
「私にとっては、いつまで経っても弟だもの。泣き虫のつくちゃん」
少女は腕を組みながら、誇らしげに頷く。
そんな姉の様子を見て、弟は再度ため息を吐いた。
少女は問いかける。
「それで?今回はどうするつもり?」
「どうするも何も、僕はもともと母様側ですよ。月が出るのは夜と相場が決まっています。ならば、死を支配する闇の女王―――伊弉冉尊に味方するのは当然かと」
「ふふっ」
「…なんですか、その笑いは」
じと目で姉を見る。
「ううん。何でもないのよ。ただね?母様が亡くなった時、あんなにわんわん泣いてたのに、強くなったなーって」
「はぁー…それもいつの話ですか。もう何万年も前の話をぶり返さないでいただきたいものです」
久々に会った姉弟。
太陽と月 昼と夜を司る二柱の神の仲が良かったのは、まだ母神がありのままの姿で―――1柱の伊邪那美大神であった頃。母神が別れる前。
そして、あの事件が起きてから、数万年ぶりの再会だった。
月・木 更新
30話完結




