↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色と紋なしの少年  作者: 北田シヲン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/24

24話

仮想空想OP

水曜日のカンパネラ 『シャルロッテ』

「母、様…?母様っ!!」


 そんなこと…起こるはずないと思ってた。

父様と母様が愛し合って、孕(みごも)って、その先に生まれている4人目のきょうだいが…こんなことになるなんて。


・・・


 近頃は、母様の妊娠も順調に進んで、赤ちゃんがいつ産まれてきても良い状態になってきた。姉弟(きょうだい)で私だけが女の神(こ)だから、次は女の神(こ)がいいなー。なんて、思いを巡らせていたっけ。


 でも、産まれてきた神(こ)は、男の神(こ)で―――――母様の腹を、突き破って出てきた。母様のものなのか、弟のものなのか分からないほどに混じり合った血が、辺り一面に勢い良く飛び散った。


 溢れ出た血が空気に触れると、な(・)ぜ(・)か(・)そこから炎が立ち昇り、燃え始めた。気付けば、辺り一面火の海に。


 だけど、そんなこと気にならないぐらい燃えていたのが、母様だった。母様の破れたお腹の中から、大きな火柱が上がっている。


 私は、何もできなかった。

ただただ、その場に立ち尽くし、何もできず、何も考えられず…。


 燃えたぎる血が母様を焼いている。

母様の聞いたことのない声が、絶叫が、片方の耳から入っては反対の耳から抜けていく。


 滲(にじ)む視界の中で、父様が赤ちゃんを母様のお腹から取り上げ、床に投げ捨てた。


 怒り狂った父様は、腰に携えた鞘から勢い良く刀を抜き取り、地面に横たわっている赤ちゃんの首目掛けて振り下ろした。


 なんとも言えない鈍い音が耳の中に残る。

勢い良く振り下ろした刀の力に乗って、首が飛ぶ。


コロコロ…コロコロ…コツン。


 赤ちゃんの首が、私の足に当たって止まる。

泣きじゃくった顔のまま、そのままの顔で止まって、絶命していた。


 ―――その日の夜、私は、岩の中に閉じ籠った。

母様を亡くした喪失感と悲しみ。

亡くなった赤ちゃんへの罪悪感と怒り。

そんな負の感情が入り混じった状態のまま、外にいたせいか、太陽は雲に隠れ、大雨と雷と暴風が一緒にやって来て、暴れ出した。


 川は氾濫寸前。片方の山では雷が落ちて山火事が起き、片方の山は土砂崩れを起こす一歩手前。藁の屋根は風で飛んでいき、家はミシミシと軋んでいる。


 私は、気持ちの整理がつくまで、自分の意思で岩の中へと閉じ籠った。


 外からの光が全く入らない岩の中、涙はとめどなく溢れ出てくる。拭っても拭っても出てくるものだから、やがて手で拭うのをやめた。


 …気持ちの整理なんて、つけられるわけがない。

昨日のあの光景がずっと瞼の裏に張り付いて離れないのだから。


 なんであの時…

 もっとこうしていれば…

 他にやりようはあったはず…


 何時間も、何日も、何週間も、閉じ籠り続けた。

やがて時間の感覚がなくなり、自分の感覚さえなくなって、地面と同化し始めた―――そんな時だった。


 岩の外から、なにか楽しそうな笑い声と太鼓や笛の音色が聞こえてくる。


 歌も聞こえる…すごい上手。歌ってるのは誰だろう。少し岩の間から覗いてみようかな…


 ほんの少し。ほんっとに少しだけ岩を開けて、その隙間から見てみよう。誰にもばれないように。そう思い、岩を動かした。


 そしたら、その僅かな隙間に指がぐわっと入り込んできた。見覚えのあるふっとい指。きっと、姉弟(きょうだい)の中で一番身体が大きく、ガサツなあの次男坊の指だろう。


 そして、岩の扉が、思いっきり開けられた。ガシャンと音を立てながら、扉を全開にした張本人は、晴れやかな笑顔で、


「姉ちゃん!!やっと出てきた!!」


 ほら、予想通り。

次男坊で私の弟―――須佐之男命(スサノオノミコト)。


 元気と体の頑強さが特徴的な弟。元気に振る舞ってるけど…目の下は少しだけ赤く、腫れぼったい。


 そう…貴方もまだ、母様のことを想って…


「姉ちゃん!!こっち来てよ!!早く!!」


 まだ岩の中にいる私の手をぐっと引っ張り出して、弟は私の手を引きながら、早足で向かう。地平線から登ってきた朝日が、とても眩しくて、つい目を瞑ってしまった。


 力強く引っ張る弟。岩から少し歩き、止まった。

目を閉じながら、久しぶりの太陽の温もりを肌で感じる。


「姉ちゃん!!目、開けてよ!!」


 情緒に浸っているのに。はぁ…本当に元気な弟くんだこと。そう心の中で愚痴をこぼしながら、忠告通りに目を開けた。


―――――母様が、そこにいた。


「―――え…うそっ…?かあ、さま…なの?」


「ええ、そうよ―――おいで」


 私は無我夢中になって、腕を広げた母様の中へ飛び込んだ。枯れたと思っていた涙がまた溢れてきて、もうどうにも止まらない。声を抑えることもせず、「母様ぁ!母様ぁー!」そう何度も呼びかける。その度、「うん。うん。ここにいるよ」と答えてくれる母様の優しい声。もう聞けないと思っていた母様の声に、私の涙はとめどなく溢れた。


・・・


 ―――ようやく落ち着いてきた。

呼吸も涙もやっとこさ落ち着いてきて、話せるぐらいまで回復。最後に深呼吸をして、少し残ったその他もろもろを吐き出し、目の前に座る母様へと視線を向ける。


 母様は、なんだか、小さくなっていた。

横に座る父様と比べると、まるで大人と子ども。

なんでそうなったのか、なぜ母様が生きているのか、そんな疑問が頭の中を飛び交う中、父様が話を始めた。


「月詠(つくよみ)と須佐男(すさのお)にはもう既に話したが、天照(あまてらす)よ。其方(そち)にも聞いて欲しい。なぜここに、母様がいるのかを」

月・木 更新

30話完結

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。