20話
仮想空想OP
水曜日のカンパネラ 『シャルロッテ』
腹八分目。それなりに量のあった海老天蕎麦を食べても、まだ腹に何か入りそうだ。手を合わせ、食べた食材への感謝を済ませ、店を後にする。
参拝の前に見た、正面側の大きな鳥居から見える露天通りらしき方へと全員で向かう。
内側の鳥居と外側の鳥居の間にある急勾配の橋を手を使わずに渡り、外側の鳥居を抜ける。どちらの鳥居も、抜けた後に鳥居の方へ振り返り、ぺこりとお辞儀をする。
そして、回れ右をして、露天通りの方を見る。伊勢神宮にあったおかげ横丁と比べると見劣りするが―――人が少なく、あのなんとも言えない 人がごった返している時の威圧感、圧迫感はない。
鳥居を背にして正面に、糸切り餅と書かれた幟が立っている。横のお店も同じ幟が立っている…そうか。このお店同士は、隣同士で鎬を削っているのか。
「糸切り餅?なんやそれ?お伊勢さんとこの赤福と違うんか?」
「さあ?私も聞いたことない。でもどうせなら食べてみましょうよ。まだ食べれるでしょ?」
「まあそうだな。死ぬ前に食べとかんと」
「また出たよ、父さんの死ぬ前w」
笑いながら話す祖父母と母の会話を聞きながら、後ろをついて行く。どうやら、目の前のお店から先に行くようだ。
「いらっしゃいませ〜こちらでお茶と一緒にいかがですか〜?」
お店の左側に立っている店員さんと目が合い、話しかけられる。妙齢のご婦人だ。元の世界ではよく見る金髪。それを後ろで一本に束ねた見目麗しい女性。話し方に、少しばかり東方の独特の訛りがあるのがまた良い。
前を歩く母の袖を掴み、そこでお茶を飲みながらゆっくり食べるのはどうか、と耳打ちする。
「うんうん、良いよ良いよ。
お父さん!お母さん!ここでお茶しばきながら食べようよ!」
二つ返事で了承。営業スマイルと分かっているが、その笑顔はとても眩しい。どことなく、誰かに似ているような気もするけど…まあ気のせいだろう。
中に入ると、左側に机と椅子。右側とさらに奥には、小上がりの上に畳が敷かれたスペースがある。勿論、畳の方を選ぶ。こちらの世界に来てからというもの、畳に使われているいぐさの独特の香りが、どうしようもなく、好きになった。
靴を脱ぎ、小上がりを登り、席につく。
「何になされますか?」
店頭に立っていた金髪の女性が注文を取りに来てくれた。母の背に少し隠れながら、まじまじと見る。
整った顔立ち。
顎下に溜まった贅肉はなく、シュッとしていて、目と鼻と口の大きさや配置などのバランスが良く、特に目は大きく、くりっとしていて、全体的に可愛らしい印象を与える。
見惚れていると、いつの間にか注文が終わっていて、金髪の女性は奥の方へと消えていった。
「なになに〜?恥ずかしいのか〜?このこの〜」
母に茶化されながら待っていると、ものの数分で品物が出てきた。温かいお茶の入った湯呑みと糸切り餅の乗った小皿がセットで、一つのお盆の上に置かれている。1人一個ずつ。自分たちの前、机の上にお盆ごと置かれる。
たっぷりのあんこを白いお餅の薄皮で包み、その上に見栄え良く、赤と青の線が描かれている。中央を赤色、その左右を青色の線が走っていて、まるで川のようだ。ちょうど親指と人差し指でつまめる大きさで、ひょいっと、ぱくっと食べることが出来る。
ひょいぱく。ひょいぱく。
あっという間に、小皿の上から消えた糸切り餅。
程よいあんこの甘みと餅のもちもち食感が、口の中を幸せにする。次に、渋めの温かいお茶を啜る。甘みと渋みの組み合わせが非常にマッチしていて、後引く余韻を楽しめた。これが、糸切り餅…赤福とはまた違う食感と旨み。
こちらの世界の食文化は、元の世界と似て否なるところが、面白い。人族だけがいることも影響しているのだろう。人が食べることを前提とした食べ物が多く、味覚の違いによるヘンテコな味の料理(と呼べるか分からない物も多い)が出てくることがない。
糸切り餅に舌鼓を打ち、全員が食べ終わり、お会計を済ませて、その場を後にする。店を出る時に、自分たちに気付いた金髪の店員さんが手を振ってくれた。恥ずかしさを感じながらも、手をふり返す。
祖父母と母は、食べたところのすぐ横に置いてあるお土産物の物色を済ませ、結局、糸切り餅だけを買って、横の店の方へと向かう。
両店での買い物を済ませ、さっき来た正面の鳥居から多賀大社の中へと戻る。一瞬、強い風が吹いた。その風に乗って、何か声が聞こえたような気がした。
―――――お店の中から、少年たちを見守る金髪の女性。誰にも聞こえない声量で「頑張ってね」と呟いた。よく見ると女性の髪色は、麦わら帽子の色とどこか似ていた。
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