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灰色と紋なしの少年  作者: 北田シヲン


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18/22

18話

仮想空想OP

水曜日のカンパネラ 『シャルロッテ』

 どうやら、自分たちが来た道(ルート)は、脇道だったらしく、社の正面から伸びる石畳の道とその先に見える一際大きな鳥居のある方が正道のようだ。平日の昼間だと言うのに、ちらほらとその正道を通って参拝者が来ていた。


 鳥居の向こう側には、もう一つ同じ大きさの鳥居が立っていて、その間を通すように橋がかかっている。そして更にその奥には、お店のようなものが立ち並んでるのが見えた。


 昨日行った伊勢神宮ほどの賑わいはないが、それでもしっかりと如実に、神様の気配のようなものを感じ取れる。


 石畳の外側に敷かれている砂利の上を音を立てながら歩き、道の途中から石畳の上に乗る。前に祖父母、横に母の2人×2列で並びながら、賽銭箱の前に。祖父母の財布から5円玉をいただき、投げ入れる。


 2礼2拍。目を閉じ、合掌の手のまま、願いを伝える。伊勢神宮の時と同じく、ただ加護を求めて。そして、目を閉じたまま、1礼。頭を上げ、目を開く。だが、伊勢神宮と同じ現象は起きなかった。


 てっきり、目を開ければそこに異世界・異空間が広がっているものとばかり思っていたから、少し拍子抜け…した気はするが、それは失礼な話か。


 みんなでお参りを済ませ、すぐそばにある御守りの販売所へと向かう。昨日どこかから手に入れた多賀大社のお守りと同じデザインのお守りがあるか見て回るが、似たような物はあっても同じ物はなかった。


 母と祖父母は、どのお守りにしようか悩んでいるようで、僕はお守りを手に持ちながら、少し離れて、大きな社を見ていた。


 時折吹く風が木々を揺らし、葉っぱ同士が擦れた時のささやかな音と水の流れる音が聞こえてくる。近くに水場があるのだろうか?そう思いながら、辺りを見ていると、近くの石畳の上を竹箒で掃除する 見るからにご高齢の神職(しんしょく)さんが目に留まった。向こうもこちらに気付いたようで、ニコリと笑い、頭を下げてくれた。その時、僕の手に持っているお守りが目に留まったのだろう。


「おやおや…それはまた古いお守りをお持ちで」


 神職(しんしょく):神様にお仕えし、お祭りや祈祷(きとう)を行う人たちの総称。神社で働く人全体を指す。


 突然声をかけられ、戸惑いながらも「このお守りをご存知なのですか?」と返す。


「ええ、勿論ですとも。そのお守りはこの社 多賀大社が創設された初めての年に作られたお守りでしょう。同じ物を保管庫で見たことがございます。どこで手に入れられたのか存じ上げませんが、どうか大切になさってください。

あ、それと。宮内にて御参りも出来ますので、もし宜しければ。そちらの扉のすぐ横に受付がございます。受付が済みましたら、そちらの扉から中に入っていただきまして、すぐ前に下駄箱が見えて参ります。靴をそちらに入れていただきまして、そのまま進んでいただきます。受付にてお渡しした番号札に書かれております番号でお呼びいたしますので、お部屋の中のお座敷や椅子でお寛ぎくださいませ。あちらの賽銭箱の前よりも更に近くでお祈りできますよ」


 うふふ、と笑いながら、ぺこりと頭を下げて、神職(しんしょく)さんはその場を後にした。商売上手なお方だと思いながら、お守りを見ているみんなに声をかける。


 神職(しんしょく)さんに言われた通り、お守り販売所のすぐ側にある両開きの扉の横にある受付へと。何種類かある御参りの中から、母が厄除けを選んでくれて、祖父母と母の分も合わせ、受付すると番号札を渡された。


 代表して、僕が持つことになり、番号札を持ったまま、大きな両開きの扉の方を見る。扉に取手がない。何を掴んで開けば良いのか?そう考えていると、後ろから来た別の組の人たちが不思議そうな顔でこちらを見た後、扉の方へと歩いていく。その人たちは別段何もするわけでもなく、ただ扉に近付いただけで、重厚そうな木で出来た扉が、自動で開いた!こちらの世界にも、物を動かす魔法 念動力(サイコキネシス)があるのか?


「魔法じゃないよ。あれは、自動ドアって言うの。上の方から目に見えない光が出ててね、そこに人や物が来ると、それを検知して自動で扉を開けてくれるの。こっちには魔法はないけど、それを補って余りある技術があるのよ!」


 母の話に、なるほどなと思いながら頷く。

技術と言っても、それが自分が知り得ない、想像できないものであれば、魔法となんら変わらないな、とも思った。


「よし。今度はシャルちゃんが行ってみよう。扉を開けてきて!」


 母から重要なミッションを与えられた。

恐る恐る前へと踏み出し、扉の方へと近付いていく。周りに人はいない。ふぅー。息を吐きながら、ズンズンと進む。あと10歩も歩けば、当たってしまう。9歩…8歩…7歩…6歩…5歩…4歩…3…


 ウィーン と自動ドアが開いた。

残り3歩の途中で検知されたようで、安堵のあまり、また息を吐き出す。


 扉が開いた先には、これまた大きな下駄箱群が現れた。その中から、気に入った数字が書かれた下駄箱を選び、中に靴を入れ、同じ数字の書かれた木の板を取って、ズボンのポケットに入れる。ちなみに、僕は27番にした。なんとなく好きな数字だ。


 下駄箱からフロアに行く前の小上がりを登る。

自動ドアや自動車、電車などこの世界に来てからというもの驚かされてばかりだったから、木で作られたこの建物の中はとても落ち着く。自分の予想を超えない物が、これほどまでに心の平穏を保ってくれるのか。そう思いながら、深く息を吸い込むと、木々の香りが鼻腔をくすぐる。肺いっぱいになるまで吸い込み、大きく口を開けて吐き出す。元の世界で嗅いだことのある匂いがした。


 くんくん。

この匂いは、ビリッシュの木の香りだ。領地の森に生えている木は大半がビリッシュの木で、簡単に手に入り、なおかつ加工しやすいことから重宝されている。あと、水や風に強いため野外でも使用可能であり、魔力を通せば強度を上げられることから、主要施設によく使われている。


 番号を呼ばれるまでは待機、という話だったので、ビリッシュの木の匂いをたどり、館内を歩く。祖父母と母は、下駄箱近くの畳が引かれた休憩室で休んでいるとのことだ。ここまで整備された世界であれば、野獣が出てくる心配もない。「番号を呼ばれたらすぐに帰ってくるのよ」と母に言われ、それに頷く。


 館内はビリッシュの木の匂いで充満していたが、どうやら、場所によって匂いの強弱があるようだ。僕は強い匂いのする方へと歩いていく。


 下駄箱を背に部屋を見ると、左側に奥へと続く道があった。進んでいくと、母たちのいる休憩室とよく似た畳の部屋がいくつもあった。その中の一つから、一際強い匂いを感じた。


 明かりだけがついた誰もいない部屋の中、四隅にいる大黒柱―――ではなく、正面奥にある小上がりに置かれた木彫りの蛇から匂いを感じる。


 木彫りの熊ならツヤ知らず、蛇の木彫り像は珍しい。畳の上を歩きながら近付き、間近で蛇を見る。目や身体の曲線、鱗に至るまで細かく丁寧に作られた像からは、職人の熱量が感じられた。どこか神々しささえ感じる蛇の像の頭に手を置く。


 なぜそうしたのか、後になっても分からない。でもこの時はそうしなければならない気がして、僕は、魔力を込めた。いや…込めようとした、が正しいのかもしれない。灰色+紋なしの魔力がビリッシュの木の中を流れるなんて聞いたこともない。自分自身の行動に失笑していると「呼ばれたよー!」と母の声が聞こえてきた。


 僕は急足で、母の元へと帰る。ぼんやりと淡い光を発し始めた蛇に、一瞥もくれることなく。

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