12話
仮想空想OP
水曜日のカンパネラ 『シャルロッテ』
それから一晩が経った。
母の作る料理に似た味の見慣れない夕飯を食べ、小さな浴場に入り、歯を磨いて、ゆるい寝巻きに着替え、畳と呼ばれる床の上に敷かれた布団で眠った。いつものフカフカのベットとの違いに驚きながらも、疲れていたのだろう、すぐに寝てしまった。
翌朝、日課であるランニングへと向かう。
母には内緒で鞄に忍ばせておいた、普段走る時に着る服に着替え、持参した靴も鞄から取り出し、家を出る。
秋晴れの朝日を浴びながら、少し冷えた空気を肺いっぱいに吸い込む。いつもとは少し違う空気に新鮮さを感じながら、軽くストレッチをし、走り出す。
周りには、色んな形の家があり、そんな住宅街の中にある舗装された道の端っこを走る。こっちに来る前、母に口酸っぱく言われた。
道路には、車って言う馬のいらない馬車のようなものが通るから、走るなら端っこを走りなさい、と。
その話を聞いた時は、なんだそれ?と思っていたが、実際に目にすると…驚いた。本当に馬がいない。馬車のような中に、ひとりぽつんと人が乗っているだけだ。あれでどうやって動いているのだろうか?興味を持ちながら、すれ違い、追い抜かしていく車へと思いを馳せる。なぜか馬がいないのに、ブルンッと音が聞こえるし、本当は中に小さな馬が乗っているんじゃないのか?
30分ほど経っただろうか?
額から流れる汗を拭いながら、家へと帰る。
玄関を開け、家の中に入ると居間の方から、おかえり、と言葉が返ってくる。どう返せばいいんだろう?
「ただいま、って言えばいいよ」
寝床から起きてきたばかりのパジャマ姿の母と遭遇。玄関の土間に立ったままの状態だが、そう言われたので、「ただいま」と返す。なんか良いな、これ。
靴を脱ぎ、手を洗い、顔を洗って、そのタオルで身体を拭く。昨日の晩に、母が用意してくれていた服に着替え、居間へ。
味噌汁の匂いがする。
向こうで母がよく作ってくれた汁物だ。
何か手伝おうかとキッチンの方に向かうが、「居間で座って待っとりん」と言われ、大人しく座って待つことに。母も既に待機している。
それから少しして出てきたのは、白いご飯と味噌汁に、焼き魚だった。それと、見たことのない容器に入ったしわしわの赤い実のような物と細くて黒い何か。
「そっちの赤いのは梅干しで、黒いのは海苔。梅干しは、向こうの世界にあったメアノの実を干したのだから、食べられると思うわ。どう?食べてみる?」
母の問いに、頷く。
用意された小皿に、赤い梅干しが一つ置かれる。
箸で持つとぐにゃりと柔らかく、鼻に近付け匂いを嗅ぐと、確かにメアノの実と似た匂いがした。メアノの実は、ちょっと甘くて酸っぱいのがクセになる果実だったけど、これはどうなんだろう…?
そう思いながら、恐る恐る口の中に入れる―――!!!酸っぱい!!メアノの実より全然酸っぱい!!なんだこれ!!?
「あっははは!酸っぱいでしょ?」
笑う母を軽く睨みつける。
「そう言う時は、白ごはんを口の中につっこむ!」
母の指示通り、箸を使い、多めに米を取り、口の中に入れる。さっきまで口いっぱいに広がっていた酸味が中和され、まだ酸味の残る舌に、米の甘みが寄り添ってくる。
「目がキラキラしてるってことは、美味しかったのね。良かった良かった。お母さんの故郷の味を気に入ってくれて。あ、こっちの海苔もどうぞ。梅干しと違って、こっちも美味しいよ?白飯が…消えちまうぜ」
こうして、朝食の時間は過ぎていった。
月・木 更新




