旅人と騎士団と過去
「それで、その先生は今はどこに居るんだい?」
リアンは街の石畳を歩きながら二人の騎士の背中に向かって話しかけると、黒髪の騎士が少しだけ振り返る。
「あぁ……今は騎士団の支部で他の子どもたちと一緒に待っていて貰っています。そんなに遠くないのですぐ着きますよ!」
「そうか……良かったね、アイラス。すぐに会えるって」
リアンがアイラスに声をかけると、アイラスはパッとリアンの方を見上げて笑う。リアンの腕にしがみ付くようにして歩いている彼女の足取りは、もうすっかり軽くなっていた。
そうしてしばらく歩いて行くと、綺麗に白く塗装された石造りの立派な建物と塀が見えてくる。周りの家屋と比べてもずっと敷地は大きく、門の前には鎧を着た二人の騎士が槍を持って立っている。こちらを見つけると、二人は門の扉をゆっくりと開けてリアン一行を中へと通した。
中に入ると、どこかで騎士が訓練をしている掛け声や固いもの同士がぶつかり合うような乾いた音が風に乗って響いて来る。初めて騎士団の施設の中の景色を目にしたアイラスは、興味深そうにあたりを見回している。
一行は一際大きい建物へと向かいながら、晴天の下で石畳の道を進んでいく。
「おや……ここの様子は今でもあまり変わらないね。前より綺麗になっている気もするけれど」
「えっ!? リアンさんここに来たことあるんですか?」
リアンの前を歩いていた茶髪の騎士が驚いてパッと後ろを振り返る。黒髪の騎士も歩みを少しだけ遅らせてちらりとリアンの方へ視線を向けた。
「ふふ……もうずいぶんと前だけれどね。興味本位で、この街で騎士をしていたことがあってね」
「すごい! リアンって騎士さんなの?」
「はっ! そう言えば騎士の真似事をして楽しんでたこともあったっけな」
「ははは……真似事だなんて、そんな風に言うなよ。これでもそこそこ頑張ったはずだろ?」
リアンとヴェイグの会話に、黒髪の騎士がぴたりとその歩みを止める。顎に手を当てて何かを思い出すように考え込む。
その一方で茶髪の騎士は、ただ驚いて目を見開いているだけだった。少し目を細めて俯いていた黒髪の騎士は、そんな茶髪の騎士をよそにゆっくりと顔を上げると口を開く。
「……そういえば、私たちの隊について面白い噂を聞いたことがあります。今の隊長の役職は実は"隊長代理"……正式な隊長の席は、ここ1000年程ずっと空席のまま残っているという話。確か、正式な隊長も今の隊長と同じ精霊だったと……」
「え、僕の籍まだ残ってるの? それ知らなかったんだけど……」
「おいおい、なに馬鹿言ってんだ。団長の爺さんが言ってたろ」
「あれ、そうだっけ? いや……そう言えばなんか徽章を押し付けられてずっとポーチに入れっぱなしにしてたような……」
「え!? 待って下さいよ……それってリアンさんが私の上司ってことじゃないですか! ……さっきリアンさんの事怪しんじゃったけど、私怒られませんよね?」
目の前で繰り広げられる会話に、茶髪の騎士は視線を黒髪の騎士とリアンの間で忙しく往復させる。
茶髪の騎士は思ってもいなかった話の展開にすっかりと慌てている。アイラスは、そんな茶髪の騎士の様子をよそにリアンを見上げたまま憧れで目を輝かせていた。
「それは……別に気にする必要はないよ。それに僕だって、今更また戻るつもりはないさ。まぁ……必要がなければね。そんなことより、今は先生に会いに行くのが先だろ? 首を長くして待ってるよ、きっと」
「そうですね! それじゃあ行きましょう!」
茶髪の騎士は少し安心して息を吐くと、いつもの元気な様子でまた歩き出す。
リアンはアイラスの手を引いてその後ろを付いて、目の前の建物に向かって歩みを進める。
日の光を反射してきらりと光る窓の向こうから、一つの視線がリアンたちの姿を見つめていた……




