旅人と迷子と騎士と
リアンとアイラスが声の方へ向かって歩いて行くと、二人組の騎士の姿がある。
一人は明るい茶色の短髪の小柄な魔人の女性。もう一人はリアンより一回り大きい体格で刈り上げた黒髪の魔人の男性。
ちょうど、道端の建物の影で通行人の女性を呼び止めて何か話をしていた後だ。二人の騎士の傍から一人の魔人の女性が立ち去って行くのをリアンは目で追いかけていた。
「あー!! 銀髪のちっちゃな女の子!」
リアンが手を上げて騎士に話しかけようと声を出す前に、リアンとアイラスに気が付いた茶髪の騎士がそちらを指差して大きな声を上げる。
少し驚いたアイラスがリアンの手を握ったまま其の影に隠れるように後ろに下がる。
黒髪の騎士が「馬鹿、あまり驚かせるな」と言って茶髪の騎士の頭を軽く叩くと、茶髪の騎士は「いてっ!」と間の抜けた声を上げる。
その様子を見ていたアイラスはリアンの影からゆっくりと出てくる。
「はっ! 随分とお転婆なやつだな」
「ヴェイグ、そんなこと言わないの。失礼だろ?」
「でも本当の事だろ?」
「それは……まぁ」
軽い口調で茶化すヴェイグと、それに肩をすくめるリアン。リアンの傍のアイラスも面白がってくすくすと笑っている。
当の茶髪の騎士は喋り出したヴェイグを見て一瞬目を大きく見開くが、すぐに不満そうにじっと睨む。ヴェイグはというと、茶化すだけ茶化して逃げるように黙ってまた静かになる。
「……それはそうと、もしかして騎士さんたちはこの子を探しているのかな? どうやらこの子は先生とはぐれたみたいなんだけれど」
「……その子を保護してくださっていたんですか? 確かに丁度、アイラスという名前の銀髪の女の子が迷子になったと、孤児院の先生から捜索願が出ていまして」
茶髪の騎士を呆れたように睨んでいた黒髪の騎士が、リアンの方を向くとそう尋ねた。
騎士のその言葉にアイラスの顔がパッと輝く。アイラスは自分をそっと見つめているリアンの方を向いて見つめ返した。
リアンは手を繋いでいるのとは反対の手でアイラスの頭を優しく撫でると、騎士の方に一瞬だけ顔を向け直す。
「そうか、それは良かった。それじゃあアイラス、騎士さんたちと先生のところに帰って先生を安心させてあげるんだよ?」
リアンはそう言ってアイラスの手を離そうと力を緩めるが、アイラスの小さな手がリアンのその手をぎゅっと少し強く握る。
アイラスは依然としてリアンの方をじっと見上げていた。
「……分かった、良いよ。先生の所に戻るまで僕も一緒にいてあげる」
少女はリアンの返事に安心して頬を緩めるとリアンにぴったりとくっつく。
そんな二人を見ていた茶髪の騎士がヴェイグを睨んでいた目をリアンに向けて口を開く。
「一応教えて欲しいんですけど、あなたって何の精霊ですか?」
「僕かい? 僕は『旅』の者だよ。もしかして興味を持ってくれたのかい?」
「別に違いますよ。最近、王国内にとっても悪い精霊がいるって騎士団で話題になってるんですよ。……念のための確認ですよ」
「リアンは違うよ! この人は先生とおんなじ……あったかく無いけどあったかいの!」
アイラスは頬を膨らませて一歩前に出る。彼女のその瞳は真剣そのものだった。
まさかアイラスがそんなことを言うとは思っていなかったリアンは、少し驚いて自分の手を握ったまま少し前に出ている彼女の事を見つめる。
「ふふ……そうか、あったかいか。それで騎士さん、この可愛いお嬢さんの証言で僕の疑いは晴れそうかな?」
「確かに……こんな感じなら大丈夫そうな気がする……」
「ほら、すぐに人を疑っちゃだめじゃないか」
リアンとアイラスを顎に手を添えながらじっと見つめていた茶髪の騎士に対して、黒髪の騎士が少しおどけた口調で声をかける。今度は茶髪の騎士が頬を膨らませる番だった。
「あー、ちょっと! 先輩まで私の事を悪者にするんですか? 真面目に仕事してるだけなのに!」
そのの不満げな抗議に、リアンとヴェイグ、そして黒髪の騎士は少し笑い声を漏らす。
そんな周りの様子にアイラスは固くしていた体の力を抜いて、一緒になって笑みをこぼした。
「さて……それじゃあ騎士さんたち、先生の所に案内してくれるかな?」
「もちろんです。行きましょうか……先生が心配して待っていますよ」
黒髪の騎士がアイラスに目を向けて微笑むと、ゆっくりと歩きだす。茶髪の騎士はそれを追いかけるように彼の隣に並ぶと、一瞬こちらを振り向いて手招きした。
リアンもそっとアイラスの手を引くと、二人の騎士の背中を追って歩き出す。建物の影から出ると暖かな日差しが差し込み、リアンの前を歩いている騎士たちの銀色の鎧に反射してきらりと眩しく光っている……




