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第五十五話:折り重なる巨漢たちと、帝都の勘違い

部活予算倍増を狙う運動部連合の猛烈なスクラム突撃!

怪我人を出すわけにはいかない生徒会ですが、手加減の仕方が完全に異次元でした。

壁やロッカーを縦横無尽に跳び回るセナの残像ステップに翻弄され、ワイヤーに引っかかって派手なドミノ倒しをキメるラガーマンたち!

さらにセリアの『多幸感お花畑ハーブ』を吸い込み、猛者たちが「タンポポきれいだなあ……」と集団で爆睡・完全沈黙!

平和的に(?)第一波を完封した生徒会ですが、帝都では「妹が暴徒千人に包囲された!」と勘違いした白銀の筆頭騎士が出撃態勢に入っていて――!?

ドタバタ迎撃劇と、不穏すぎる最強助っ人の動向にご注目ください!


幅4メートルの直線廊下をぎっしりと埋め尽くし、時速30キロ近い猛スピードでスクラムを組んで突進してくる巨漢集団。

先頭の筋骨隆々の巨漢のラグビー部主将が「予算倍増!」「生徒会室へ雪崩れ込めェッ!」と雄叫びを上げ、後続が地鳴りのような足音で追従する。

生徒会室の扉の前、タクトが偏向障壁の出力を構える中、セナがヒョイと一歩前へ躍り出る。

「どけェ小娘! 怪我したくなきゃそこを空けろォッ!」

小柄な体躯を揺らし、ニカッと八重歯を見せて指をパチンと鳴らす。

「いっくよ~! 捕まえられるもんなら捕まえてみな! アタシの特製残像ステップ、目が回っても知らないよーっ!」

タクトが思わず止める。

「ちょ、セナ先輩!? いくらすばしっこいからって、あの質量に正面から突っ込む気っすか!?」

私は腕を組んで不敵に笑う。

「いいのよタクト、見てなさい! ウチの潜入調査官の足技をね!」

セナが床を強く蹴り、突進してくるスクラムのど真ん中へ向けて一直線にダッシュ。

激突のわずか1メートル手前、セナの姿がブレる。

踏み込みの瞬間、右足で壁面のスチールロッカーを蹴り上げ、重力をあざ笑うかのように斜め上方へ垂直跳躍する。

先頭のラグビー部主将の頭上を木の葉のようにふわりと飛び越え、背後のアメフト部員のヘルメットをトントンと軽やかに踏み台にして宙を舞う。

まるで床と壁の区別がないかのように、廊下の左右の壁とロッカーをジグザグに三角跳びで跳躍連打。

一般生徒たちが困惑に包まれる。

「なっ……!? 上を跳んだァ!?」

「頭を踏まれたぞ!? どこ行った!?」

「右だ! いや左! 上の梁にもいるぞ!? えっ、何人いるんだ!?」

セナは天井の配管に片手でぶら下がり、舌を出してウインクする。

「ほーらほら、どこ見てんの筋肉モリモリさんたち! アタシはこっちだよ〜!」

頭上や壁際から浴びせられる挑発に、血気盛んな運動部員たちが一斉に釣られる。

「捕まえろ!」「上から引きずり下ろせ!」と、数人が同時にセナの残像へ向けて飛びつく。

だがセナは身を翻して軽やかにすり抜け、飛びついた巨漢同士が正面から「ゴッ!!」と頭を激突させる。

さらにロッカーを蹴って急降下したセナが、柔道部員の視界の死角をすり抜けるようにステップを踏み、バランスを崩した部員が隣のアメフト部員を巻き込んでドミノ倒しのように転倒する。

魔法を一切使っていないにもかかわらず、あまりの身軽さと視線誘導の巧みさに、運動部連合の足並みが完全にバラバラになり大混乱に陥る。

「痛ぇっ! てめぇどこ見てタックルしてんだ!」

「違う、あいつを掴もうとしたら急に消えたんだよ!」

「どんな身体能力してんだよあの子! サーカスの曲芸師か!? 人間業じゃねぇぞ!!」

セナは着地と同時にクルリとターンする。

「あははっ! 味方同士でハグしてどうすんのさ〜!」

セナの攪乱によって先頭集団がもつれ合い、直線廊下の真ん中でラグビー部と柔道部が団子状態になって密集する。

「ええい、構うな! 押し通るぞ!」と力任せに体勢を立て直そうとする主将たち。

その密集陣の足元を横目に、セナが制服のポケットから素早く「ある物」を指先に引っ掛ける。

キラリと照明を反射する、極細の物理ワイヤー(テグス糸)の束。

生徒会室の前に立つタクトと私へ向けて、セナがニヤリと合図を送る。

リサは眼鏡のブリッジを押し上げ言う。

「見事な視線誘導ですね。敵の突進エネルギーを完全に相殺し、一点に密集させました」

タクトは呆れつつも感心する。

「魔法なしでラガーマン50人を手玉に取るとか、あの先輩マジで忍者か何かっすね……」

私は得意げに言う。

「ふふん、これで舞台は整ったわね! セナ、一気に転がしちゃいなさい!」

セナはワイヤーの端を天井レールへ引っ掛けながら言う。

「ラジャー! 筋肉ドミノ倒し、いっくよ〜!」

体勢を立て直して再び突進しようとする運動部連合の足元へ向け、セナが早業で蜘蛛の巣状の物理ワイヤートラップを張り巡らせる。


頭をぶつけ合って混乱していたラグビー部主将や柔道部員たちが、荒い息を吐きながらスクラムを組み直す。

「ええい、すばしっこい小娘に構うな! 目標は生徒会室の机の上だ! 突撃ィィッ!」

その密集集団の足元数センチの空間を、セナが床すれすれの低空スライディングで音もなくすり抜ける。

セナはスライディングの勢いのまま起き上がり、生徒会室の扉前へ滑り込んで言う。

「はーい、お疲れサマー! 足元、気をつけてね〜!」

すれ違いざま、指先に絡めた「高強度テグス(極細の物理ワイヤー)」を、廊下両脇のロッカーの脚や巾木の隙間へ電光石火の手さばきで引っ掛けていく。

わずか3秒の間に、床から高さ10センチの至近距離に「目に見えないクモの巣状のロープトラップ」が完成する。

タクトは呆然と見つめて言う。

「うわ、あの先輩、走り抜けながらワイヤー張り終えてやがる……完全にプロの仕業だろ」

「うおおおおっ!」と雄叫びを上げて一斉にダッシュを踏み出した先頭の巨漢5名。

勢いよく踏み出した脛と足首が、ピンと張られた透明なテグスにまともに引っかかる。

「ぶべっ!?」と情けない声を上げ、ラグビー部主将が空中で前のめりに水平回転。

そのまま床ワックスの効いた廊下を、ヘッドスライディングの姿勢でズザザザザーッ!と派手に滑走していく。

「ぎゃあっ!? な、なんだ足が――引っかかっ――ぶべらっ!?」

「うわあああ止まれねぇぇぇ! 主将の上に落ちるぅぅぅ!」

「ぐえぇっ! 重い! 誰だ俺の背中に乗っかってるやつは!」

時速30キロの勢いで後続の部員たちが次々と前のめりに突っ込み、足を取られてバタバタと折り重なっていく。

アメフト部のショルダーパッドと柔道着が絡まり合い、廊下の真ん中に巨大な「人間のピラミッド」がドミノ倒しのように組み上がっていく。

私はお腹を抱えて指を差す。

「あはははっ! 見事なストライク! 綺麗に重なったわね!」

50人分の質量が折り重なり、廊下を完全に塞ぐ巨大な筋肉の山。

しかし、さすがは屈強な運動部連合。下敷きになりながらも、腕章への執念で床を這いずり上がろうとする。

下から這い出てきた柔道部員が、生徒会室の扉へ向けて血走った目で手を伸ばす。

「ま、まだだ……! 合宿の遠征費……部活予算倍増を……諦めてたまるかぁぁっ!」

「這ってでも……生徒会室へ……!」

もう呆れ果てたタクトが

「うへぇ、あの状態から這い上がってくんのかよ……。部活の予算にかける執念、マジで怖すぎるっす」

と言う。

リサは冷静に言う。

「認めたくはありませんが、その不屈の闘志だけは評価に値しますね。……ですが、ここまでです」

ゾンビのように這い寄ってくる運動部員たちの前に、セリアが優雅に歩み出る。

白衣のポケットから取り出したのは、ガラスの中で淡いピンク色の光を湛える丸い薬品アンプル。

親指の腹でアンプルの封蝋を撫で、困惑する巨漢たちへ向けて慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべる。

「ふふ、皆様本当に素晴らしいバイタリティですこと。けれど、無理はいけませんわ」

セナはセリアにウィンクを送る。

「セリア先輩、出番だよ! 泥臭い筋肉たちに、とびきりの安らぎをあげちゃって!」

「ええ。今日はお天気も良いですし……皆様、心地よいお花畑でひと休みなさってくださいな」

「な、なんだあのピンクの小瓶は……? まさか、毒気――」

セリアが親指でピンッとアンプルを弾き上げる。


重なり合って人間のピラミッドと化した廊下の真ん中。

下敷きになりながらも、先頭のラグビー部主将や柔道部員たちが床板を爪でガリガリと引っ掻き、生徒会室の机にある『黄金の腕章』へ向けて血走った目で這い寄ってくる。

「ま、まだだ……! 合宿費……! 誰か一人でも……生徒会室へ……!」

「うわぁ……あの体勢から腕力だけで這い上がってくんの!? ゾンビ映画よりホラーっすよ……!」

その凄まじい執念にタクトがドン引きする中、白衣の裾をふわりと揺らし、セリアが優雅な足取りで前へ進み出る。

「ふふ、皆様の熱意、とても素敵ですわ。ですが、これ以上の無理は筋肉の筋を痛めてしまいます」

私はタクトの横で腕を組んで頷く。

「そうよ! 怪我人は出さない方針なんだから、おとなしく寝てなさい!」

セリアが右手の親指で、ピンッ!と小気味よい音を立ててアンプルを天井へ弾き上げる。

回転しながら舞い上がったガラス瓶が、天井の空調給気ダクトの吹き出し口の真下でパリンッと美しく破裂。

中から噴き出したのは、綿菓子のように甘い香りを放つ、鮮やかな桃色のパウダースモーク。

空調の強力な送風に乗り、ピンク色の霧が廊下の端から端まで一瞬でモクモクと広がり、倒れ込んでいる運動部員たちの頭上へ降り注ぐ。

「なっ……!? なんだこのピンクの煙は!? 毒ガスか!?」

「息を止――ぐふッ、あまっ!? なんだこれ、イチゴ味のわたあめみたいな匂いが……」

セリアが優雅に微笑む。

「毒だなんて人聞きの悪い。わたくし特製の『鎮静安眠ハーブ(多幸感ブレンド)』ですわ。吸い込むだけで、心の中にとびきり平和なお花畑が広がりますのよ」

セナが生徒会室のドア陰から顔を出して鼻をつまむ。

桃色の煙を吸い込んだ瞬間、這いずり回っていた運動部員たちの動きがピタリと止まる。

血走っていた瞳のハイライトがふにゃりと溶け、険しかった表情が絵に描いたような緩みきった笑顔へと変わる。

ラグビー部主将が床に頬をすりすりと擦り付け、天を仰いでうっとりと呟く。

「……ふへぇ? あれ……? 俺たち、なんで走ってたんだっけ……? 風が……気持ちいいなぁ……」

「タンポポ……タンポポがいっぱい咲いてるよ母ちゃん……春だなぁ……」

巨漢たちが次々と脱力し、互いの背中や腕を枕にして、廊下で折り重なったままスヤスヤと安らかな寝息を立て始める。

タクトは顎が外れそうな顔で固まる。

「……おいおいおい、さっきまで鬼の形相で突っ込んできてたラガーマンたちが、全員ニコニコしながら実家の夢見て寝落ちしたぞ……」

リサが廊下を見渡し、冷徹に手帳へメモする。

「脈拍、呼吸ともに極めて安定。外傷ゼロ。……完璧な非殺傷制圧ですね」

50名もの屈強な筋肉集団が、廊下一面でピンクの煙に包まれながら平和にいびきをかいている異様な光景。

私は満足そうに腰に手を当てて高笑いする。

「ふふん! 第一波、完全撃退完了ね! どうよタクト、私の言った通り無傷で解決したでしょ!」

「無傷なのは結構っすけど、この光景は一般生徒から見たら完全に怪奇現象っすよ! 『生徒会室の前で運動部が謎の集団昏睡』って明日絶対ニュースになりますって!」

セナがすかさずスマホを取り出し、ラガーマンたちの幸せそうな寝顔をパシャパシャと連写。

「ギャハハ! 主将の寝顔、完全に天使の幼児じゃん! 超プレミア写真ゲット〜!」

ノアが生徒会室から換気ボタンを操作し、廊下の煙を屋外へ排出する。

ノアが生徒会室のデスクから淡々と言う。

「廊下の換気シークエンスを開始。気化ハーブを排気します。……ですが皆さん、喜ぶのはまだ早いです」

生徒会室内のメインモニターから、ピピピピッ!と鋭い電子警告音が響き渡る。

第一波の肉弾戦を完封した生徒会に対し、監視カメラの映像が次々と砂嵐へと切り替わり始める。


ノアの排気操作により、廊下に漂っていた桃色の煙がダクトへ吸い込まれて換気完了。

廊下には、折り重なったまま「むにゃむにゃ……タンポポ……」と幸せそうに眠りこけるラガーマンや柔道部員たちの山。

私は腕を組んでフンスと胸を張り、セナはスマホで寝顔の接写アルバムを作成中。

「ふふん! 第一波、完全撃退ね! 怪我人ゼロ、設備損壊ゼロ! これなら教頭も文句のつけようがないでしょ!」

タクトは腕甲の光を収め、廊下の惨状(?)を見渡して深いため息を吐く。

「怪我はないっすけど、一般生徒から見たら完全に集団催眠のホラー事件っすよ……。『生徒会室前で運動部が謎の集団昏睡』って明日全校の噂になりますって」

「構いません。演習規約上、腕章は無傷。生徒会の防衛ポイントは100点満点です。……毛布をかけて差し上げなさい」

「ふふ、皆様の寝顔、とても愛らしいですわね。あと30分ほどで心地よく目覚めますわ」

生徒会室内のメインコンソールから、ピピピピッ!と鋭い警告アラートが鳴り響く。

ノアが眼鏡の位置を正し、キーボードを叩いて立体ホログラムウィンドウを空中に展開。

「皆さん、一息つくのはまだ早いです。学内LANに外部からのクラッキング攻撃を感知。……仕掛けてきたのは、パソコン部、科学部、新聞部からなる【文化部知性派連合】です」

私は楽しげに言う。

「へぇ! 筋肉の次は頭脳派ってわけね!」

「校内の配電盤と防火扉をハックして生徒会室を孤立させ、カメラの死角からダクト経由で侵入を試みるつもりのようです。……僕のネットワークに土足で踏み込んでくるとは、いい度胸ですね」

タクトがあーあ……と呟く。

「ノアの目が完全にハッカーモードになった……。相手、ただの一般のパソコン部員だぞ……」


重厚なマホガニーの執務机が並ぶ、ヴァルハイト公爵家の執務室。

窓の外には夕暮れの帝都の街並みが広がっている。

白銀の甲冑を隙なく纏い、公爵家の領地報告書に目を通していた筆頭騎士・ギルバート。

そこへ、青ざめた老執事が通信用の魔導水晶を盆に乗せて慌ただしく駆け込んでくる。

「ギ、ギルバート様! 桐花学園の通信傍受班より、緊急の凶報が入電いたしました!」

ギルバートは眉一つ動かさず、冷徹に顔を上げる。

「……落ち着け。アイラがいる学園に何が起きたというのだ」

「は、それが……! 『千名を超える暴徒(※全校生徒)が生徒会室を包囲』『すでに第一防衛線にて数十名が倒れ伏す乱戦状態』……との断片的な通信が!」

ギルバートのカッと見開かれた双眸に、戦場以上の熾烈な光が宿る。

ガタァッ!と執務机が軋むほどの勢いでギルバートが立ち上がる。

机の脇に立てかけてあった、ヴァルハイト公爵家家宝の白銀の魔導大剣の柄をガッシリと握り込む。

ただの学内親睦行事(フラッグ争奪戦)であることを露ほども知らず、「愛する妹が反徒どもの凶弾に晒されている」と脳内で1000%の誤認を完了した。

「ギ、ギルバート様!? どちらへ!?」

白銀のマントをバサリと翻し、執務室の扉を蹴り開けるようにして出撃を号令する。

「決まっている。我が妹アイラを、暴徒どもの毒牙から救い出す! 天馬馬車《ペガサス・チャリオット》を最速で回せ!」

ギルバートは剣の鍔をカチリと鳴らし、鬼気迫る真顔で呟く。

「……待っていろ、アイラ。お前が掴み取った平穏な日常は……この兄が、我が剣にかけて死守してみせるッ!!」

夕暮れの帝都の空へ向け、轟音とともに飛び立つ公爵家の白銀の天馬馬車。

文化部との電子戦に挑む生徒会室へ向け、最大最強にして最悪の「勘違い助っ人」が急行する――


「ギルバートをなんとしてでも出したかった」と申しており。

お兄様学園絡むとネタ枠にならざるを得ない。


魔法バンバン使っております、最初の記憶処理はどこへやら、お祭り騒ぎなのでOKということにします。

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