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第8話 鉄板の功罪

 朝、ギルドに着くと意外な仕事が待っていた。

 まず、報酬がいい。

 依頼内容に猛獣の撃退が含まれるからだが、これが討伐依頼だったらもっと稼げるだろう。



 だが、もし討伐依頼だったらこの仕事は回ってこなかったはずだ。

 未だに僕の討伐禁止は続いているからである。


 本当ならギルドもこの仕事を僕に回すつもりはなかったらしい。

 受けられる人がいないのでお鉢が回ってきたのだ。


 僕としてはこれを逃す手はない。


「わかりました。受けます」

「お願いします。優馬さん。無理は禁物ですよ」

「……わかってます」


 一礼してギルドを飛び出し、町を出て西に一kmぐらい走ると右手に大きな牧場が見えてくる。

 受けてすぐガンダしなくしゃならないのは、当初の依頼開始時間を過ぎているからだ。


「おーい、ギルドから来た人かぁ?」

「はーい。今、引き受けて来たところですぅー」


 はあはあはあ。

 運動不足と笑われるかも知れないが、朝飯も食わずに飛んできたんだ。

 息ぐらい切れるよ。


「あのー、走ってきたとこ悪ぃんだが、猪が出たんだ。急いで行ってくんねぇか?」

「わっ、わかりました」


 牧場の人が指差した先には牛の群れがいるが、その脇に駆けずり回っている人が二人。


(優馬、様子がおかしい。急げ)


 キツイ。また、走るのか。

 面倒なことにならなきゃいいが。

 へとへとになりながら近づくと……。



 確かに猪だ。しかもかなりデカい。

 冒険者が応対しているが苦戦中だ。


 一人は怪我をしてうずくまっており、もう一人は何かを振り回している。

 あれは……鉄板じゃないか!


 僕がエイデンシェールで使ったのと同様のただの鉄の板。

 取っ手がついているし、申し訳程度にペンキが塗りたくられていて多少体裁が整えられてはいる。

 しかも、下側が少しカットされていて大きくない防御面がさらに小さくなっている。


「おっ、お前は優馬。これは負けてらんねぇ。俺も一旗上げるつもりだからよ」

「やめろ。まず猪から離れるんだ」


 思わずそう叫んだ。


 あんなものが猪に通用するわけがない。

 怖いがこちらに注意を引きつけないと……。


 ええぃ、仕方ない。

 猪に近づいてナイフで牽制する。


 ブルゥゥゥ


 突進してきた!

 巨体の威圧感が凄い。


(右の柵によじ登れ。木に飛び移れるぞ。早く!)

(勘弁してくれよぉ)


 猪のヘイトは完全に僕の方に向いた。一目散に牧場の柵に向かう。

 追ってくる猪。柵を登って木に飛びつく。


 ズドーン


「うわっ、痛ぇぇぇ」


 僕は木から振り落とされ、強か腰を打った。

 猪は木にまともにぶつかったらしい。


 痛いのを我慢して無理やり立ち上がる。


(フィン。猪は)

(うしろだ。トドメを刺せ)


 ウゴォオオ


 振り向けば、苦鳴をあげる猪が。

 足が折れていて立ち上がれないようだ。


 となれば、首筋に一突き。

 グォォォ……ドォン



(どうなってる?)

(死んでいる。よくやった)



 今日の戦果、牧場の猪一頭。

 楽勝だぜ……と言いたいところだが、猪が動けたらやられたのはこっちだったはず。


 ホッとした瞬間、打った腰が痛み出した。

 痛てぇぇぇ。


  これ、新人冒険者の仕事か?




「大丈夫かぁ」


 冒険者の二人と牧場主のヘルマンさんが走ってくる。


「大丈夫です。もう死んでますから」

「おお、討伐までしてくれたのか」


 おっかなびっくり近づいてきたヘルマンさんが、僕の手を掴み上下にブンブン振り始める。

 感謝は分かりましたけど、腰がぁぁぁ。


「うっ、痛てぇぇぇぇ」

「ああ、悪い。怪我してたのか」

「いえ、じっとしてれば大丈夫なので」

「そうか」


 改めて猪を見て驚くヘルマンさん。


「しかし、本当に一人でやったのか。スッゲエな。報酬も弾ませてもらう」

「あ、ありがとうございます」


 そばにいた冒険者二人も急いでやってくる。


「助かりました。それより大丈夫ですか」

「ああ、死に際に首を振られて一発もらったけど、なんとか」

「そうかぁ、それにしてもスッゲェなあ。お前、鉄板だけじゃなかったんだな」


 あー、僕ってそんな評価なんだ。まあ、いいさ。

 あのホーンラビットもこの猪も仕留めたのはまぐれに近いからな。


 結局、その日の仕事はここで終わりになった。脇腹は全治二日。

 今日はお役御免である。


 残りの仕事は牧場の人がやってくれるらしい。

 一緒にいた冒険者も怪我してたから無理はさせないと言っていた。


(いいのかなあ)

(十分だ。今日は休んでおれ)


 結局、あとは牧場の休憩室で寝てただけ。

 仕事は成功扱いになった。まるまる休んでいた分の報酬までもらっちゃうのはちょっと申し訳ない。


 とはいえ、懐に余裕はないから貰えるものはもらうけど。



 牧場主さんが依頼書にサイン。さらに討伐の件を一筆書いてくれた。

 これで、猪討伐のポーナスまで確定である。


「あとはやっとくから。先に帰っていいぜ。ありがとな」


 二人の冒険者も怪我をしていたが、僕より軽傷のようだ。

 お言葉に甘えて、そのまま帰ることにした。




 翌日、冒険者ギルドに行くと三人の冒険者に囲まれた。


「お前、猪をナイフ一本でやったんだってな。イアンとジーノから聞いたぜ」

「イアンとジーノ、って?」

「あのなあ。一緒に牧場で仕事したんだろ。名前ぐらい覚えとけよ」


 ああ、あの二人か。

 鉄板を振り回していたのがイアンで、怪我をしたのがジーノ。


「着いた早々、猪と戦う羽目になったもんでな」

「なんだ、そうなのか。でも、見直したぜ。お前鉄板振り回すだけじゃなかったんだな」

「まーな」


 やはりそんな印象なのか。僕は。

 それにしてもどうも鉄板にたたられる。あんなもんが広まるとは思わなかった。


「ところで君らの名前は」

「カイだ」

「レオンです」

「リュークって言います」


 そうか……こいつらって。

 昨日は僕のこといろいろ言ってたけど、話してみるといい奴らじゃないか。


「優馬だ。よろしくな」


 改めてリーヴァス・アルタで調べたらカイの好悪度数が20になっていた。

 これは嬉しい。なんか、やっとこの町に馴染んできた気がする。


(いいんじゃないか。組織の腐敗を正すためには人のつながりが重要だ)


 どことなくバカにされているような気もする。

 フィン。本気でそう思ってる?


「早く窓口行けよ。昨日の猪。討伐報酬が付くらしいぜ」

「そりゃ、ありがたい。……ところでイアンとジーノはあれからどうしたか知ってる」


 報酬が増えるのはありがたい。だが、それより昨日ケガしてたジーノが心配だ。


「何か聞いてる。レオン」

「二人とも仕事に復帰しているらしいよ。ただ、イアンの持ってた鉄板の出所が問題になってるみたいだ」


 鉄板か。

 これで成功したのはいいが、どうにも後を引いているのが気に入らない。

 安易に真似してケガまでされては……



 しかし、下辺を切り取って形だけは盾みたいにしていたが、わざわざあんなことするか?

 色も塗ってあったし、まさか商売している奴がいるんじゃないだろうな。

 

 僕の脳裏には「鉄板か……こいつは一儲け……」と言っていたバルカンのセリフが浮かんだ。

 このままでは終わりそうにない、という嫌な予感と共に。


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