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第7話 異世界の力



 カルディアの南門を出ると、大街道を西に進むとお目当ての小さな森がある。


(ついたぞ)



 小さな林があり、二組の冒険者が戦っていた。

 得物はなんと木刀である。


「トォォォ」

「ヤァァ」


 ブゥン、ガッ


 空振りだ。

 はぐれゴブリンはキャッキャと跳ね回っている。


(大丈夫かな、あれ。剣技としてはお世辞にも褒められたもんじゃないぞ)


 あっ、もう一匹現れた。まずいんじゃないか。

 僕は思わず身を乗り出し、加勢に入ろうとしたが。


(待て、手を出すな)

(でも、あの腕じゃ、やられるぞ)


 そう思った瞬間。


 キアァァァァ

 ザン、ズズン


 力任せに殴った一撃で、魔物は事切れていた。

 まるで動画のコマが飛んだような動きだった。


(何が起こった)

(あれが冒険者の力だ)


 なぜだ。目の前にいるのは本当に初心者で間違いない。

 急にスピードが上がった。

 確かに相手は弱かったけど、それでも一撃で即死なんてそうそうできるもんじゃない。



 そんな僕の驚きをフィンは感じ取っているようだ。


(やはり先に対魔成長補正値を説明しておくべきだな)


 やれやれという感じはあるもののバカにした響きはない。

 僕が本当に知りたいのはそれなのだから。


 それからフィンが語ったのは思いもよらぬ話だった。



 冒険者はなぜ一般の人たちより強いか?

 一般の腕っぷし自慢では倒せない魔物をひよっこ冒険者がなぜ倒せるか?


 それは冒険者が持つ特有の力のせいである。


 剣士はライオンなどより遥に強い魔物をロングソードで一刀両断する力を持っている。

 魔法使いは当たり一面を火の海にできるほどの火力を出すことができる。


 その力を手に入れることができるのは ”魔物を倒した時にのみ”。

 この時に手に入る力は通常の戦闘の数十倍に達する。


 これが対魔成長補正値の正体である。

 力を手に入れた冒険者は地球人からすれば超人だ。



(とても真似できないな)

(何を言っておる。優馬も昨日一日である程度の力を得ているのだぞ)

(そうなの!?)


 自分のステータスを見てみると、この世界に来た時とは一桁違う数値が並んでいる。

 昨日一日だけで、ここまで実力が上がるのか。


 どおりで今日は体が軽い。

 軽く走っただけなのにやけに早く着いたのはそのせいか。



(わかったら次だ。あそこのグループを見てみろ)


 そこにいたのは四人。

 さっきの二人組とは違い、先頭の男はきちんとしたロングソードを構えている。

 そこに大ネズミ六匹が同時に襲いかかる。



 バシィィィ

 ザン


 一振りで猫より大きな大ネズミを払い飛ばした。しかもその中の二匹はすでに事切れている。

 あんなものがまとめて飛びかかってきたら、大怪我を負いかねない。一般人ならば。

 ところが彼らは、それをもろともしない。平然としている。


(あれでよく手首とか痛めないな)

(ああ、体幹も強化されているからな。それより、ネズミども。ターゲットを変えたようだぞ)


 ネズミたちは分が悪いと思ったらしく、後衛に向かって行く。

 ローブ姿に長い杖。典型的な魔法使いである。


「ファイヤーボール」


 ゴオォォォ

 ギュアアアアアア


 デカい火の玉が浮かび上がる。

 飛び込んできたネズミたちには避ける術がなく、断末魔の悲鳴をあげて火葬されていく。


(スゲェ)

(あれが魔法だ。よく見ておけ)



 なるほど。これを見せたかったのか。さっきの初心者より遥に練度が高いパーティーらしい。



 と、そこに。

 中年六人のパーティーが現れ、やあやあ、と声をかけて大袈裟に手を叩き近づいて来た。


「見事見事、若い割に随分腕がいいな。ニールもそう思わないか」

「ああ、剣も魔法も見事なもんだ」

「そいつはどうも……」


 若いグループは戸惑いながら返事を返す。

 明らかに警戒している。



(リーヴァス・アルタ)


 のっぴきならない雰囲気だ。

 中年グループのステータスを見てみると……


 正邪率 -70、善性度 -60……陰湿度85%、強奪回数102回……そして、ウィンドウの外枠は真っ黒だ。


(フィン、あの中年の連中ヤバいぞ!)

(ああ、だが能力自体は大したことはない)


 なぜ、そんなに落ち着いてるんだ。


「ちょっと獲物を見せてくれないか」

「断る!」

「そうか……黙って言うことを聞いていればいいものを」



 中年のグループは、あっと言う間に三人を囲むように陣取る。

 やっぱりこうなったか。


(どうするんだ。助けに入るか)

(今の優馬が入ったとして何の役に立つ? 黙って見ておれ)


 なぜか余裕のあるフィン。

 その理由が知りたくて、周りを見渡してみると……



 一人の男が、ゆっくりと近づいてくる。


(良く見ておけ。今から面白い見せ物が始まるからな)


 何を言ってるんだ? と思ったところで、その男が声をかけた。


「何かトラブルか?」

「なんだお前は」

「俺か。俺のことはどうでもいいだろう。それで、どうした」


 中年の男が脅しにかかるが、歯牙にもかけていない。

 若いグループに向き直って笑顔を見せている。


「この人たちが俺たちの獲物を持っていくと言うんです」

「おいおい。若い連中の上前を跳ねるとは穏やかじゃないな……。ん? お前、ギルドで見たことあるな。冒険者くずれ、か」

「うるせぇ」


 中年男のグループはいきなり襲いかかる。

 それに対し「ちょっと借りるよ」と言ってそばで見ていた初心者グループの木刀を手にすると軽く振った。


 ブォン


 一陣の風が吹く。

 中年の男たちはゆっくりと倒れ伏していった。


(あいつは何をやったんだ。どうしてあの連中は倒れてる)

(剣技だな、威圧の力も使っておる。あれでも本来の力の百分の一も使っていない)


 駆け寄る冒険者たち。


「助かりました。お名前をお聞きしても? あっ、もしかして『暁の守護者』の」


 そう言いかけたところで、シーと手を唇に当てそれ以上は言うな、と。

 そのまま男は歩き去っていった。


(すげーな。同じ冒険者でこんなに差があるんだ)

(ああ、あれが本物だ)


 男の強さは一線を課していた。



 その帰り道。


(あそこまで強くなれと言われても無理だよ。せめて魔法ぐらい使えたらなあ)

(そこまでは言わん。それに、修行次第ではいくつか魔法を使えるようになるだろう。何にしても冒険者は強くないとな)

(ああ、それは身に沁みた)




 ほどなく森を出るところで、小さな魔物の群れに遭遇する。

 大型の猫ほどの大きさがある大ネズミを二匹、はぐれゴブリンが一匹。


 ヂューヂュー、ギィィ

 ザン、ガシッッ。ザザン


 おおぅ。剣が軽い。

 あれだけの質量を斬り飛ばした後、即座に剣を切り返して一気に勝負がついた。



 だが、剣が――


(折れたか。力任せに剣を振ればそうなる)

(少しは力がついてきた、ってことじゃないのか?)


 何かが引っ掛かっている。

 あの初心者はどうだったか。


 あっ。


(どうやらわかったようだな。使う武器の限界を知る必要もあるのだ)

(そうか)


 剣をダメにしてしまった。

 異世界の力を適切に使うことが必要なのか……。


(そう落ち込むな。少しは力がついてきたのも事実だ)

 僕は頬を掻きながら「まあね」と呟いた。



 町に戻りギルドに立ち寄る。

 獲物は小者の魔石と帰り際に拾った薬草程度。

 稼ぎは小銀貨二枚と大銅貨四枚。


(これでは宿代にもならないな。あの拙い剣技の冒険者よりも弱いんだから当たり前か)

(まあ、そう卑下するな。明日からだ。何も魔物退治だけが冒険者じゃないぞ)


 そうだった。

 この異世界の力を知った。すぐに追いつけることなど叶わない高みがあることも知った。

 だが、それが冒険者のすべてなんかじゃない。


 地道に頑張ろう、できる仕事は何でも受けようと思った。

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