表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

第9話 偽りの盾

 腰の具合は二日ほどで良くなり、仕事に復帰。

 早速ギルドに顔を出したのだが、急な仕事があると言う。


「ああ、優馬さん。緊急の仕事があります。この前、猪を討伐した牧場なんですが、行ってもらえますか」

「えーと、どんな仕事ですか」


 急病の牛が出て、人手が足りないらしい。

 前回、お世話になったところだし、二つ返事でOKを出したいところだが、そこは流石に冒険者仕事。


 内容詳細を確認する。


「これならやれると思います」

「わかりました。前回同様、急ぎで申し訳ありませんがお願いします」


 早速、ギルドを出てカルディアの南門へ。

 町の外に出たところで冒険者が声をかけてきた。


「よう、優馬。これから仕事か?」

「おお、ベイルか。近くの牧場で牛飼いの手伝いさ」


 剣士のベイル。初級冒険者仲間だ。

 討伐を中心に仕事をこなしている。


「そんな仕事よくやるな。もう少し実入りのいい仕事あるだろ?」

「声をかけてくれる人がいるんだから、大事にしようと思ってな。初級冒険者は信用が命だろ」

「殊勝なこって」


 恐らく狩りに行くのだろう。

 気になるのはその軽装。左手には、申し訳程度の小さな鉄板が。


 “また、鉄板か” そう吐き捨てたくなるのを我慢して、優馬は話しかける。


「そっちは狩り?」

「ああ、実入りがいいからな」

「それじゃあ、頑張れよ」

「おー、そっちもな」


 走って森の方に向かって行った。

 一声かけようかと思ったのだが、もう姿は見えない。


 ベイルの自慢はロングソードだが、負担を減らすために防具を軽量化しているのだ。

 “重い剣を使うなら、体を鍛えろよ。鉄板を小さくするんじゃなくてさ” と、優馬は思う。


(あの若者はちょっと焦っているように思える)

(あー、やっぱり。フィンにもそう見えるか)

(まあ、人のことを心配しても仕方あるまい。牧場に急ぐぞ)

(そうだった)



 牧場に着いた。

 何か様子がおかしい。


 ほとんどの牛が牛舎に引き入れられている。

 天気が良い今日のような日は自由に放牧させて、草をたくさん食べさせているはず。


 それとも、僕を待っていたのかな? ……いや、違うみたいだ。

 ヘルマンさんが腕を組んで口をへの字に曲げている。


「どうしたんです?」

「ああ、優馬か。さらに急病の牛が出てな。二人ほどつきっきりで、隔離してあっちの厩舎に入れてるんだが……」

「ええっ!? さらに調子の悪い牛、増えたんですか」

「ああ、せっかく優馬に来てもらったが、もっと人手が必要になってしまったんだ。ギルドには無理を言って、以前から牛の世話を得意としている人を急遽追加でお願いしたんだが、どうやらその冒険者は怪我を負ったらしく仕事を受けられないみたいでな」


 と言うことは……。


「今日の仕事はなしだ。もちろん、報酬はちゃんと払うよ」

「そんな……悪いですよ」

「気にするな。ギルドから補填費用が出てるんだから」


 結局、牛を牛舎に戻す作業をちょっとだけ手伝っただけで、今日の仕事はおしまいになった。


 しかし、怪我とはどうしたんだろうか?

 最近、冒険者の怪我がやたらに多いと思う。

 

「せっかく来てもらったのに悪いな。今度また頼むよ」

「それはいいですけど。……その冒険者の怪我について何か聞いてますか?」

「魔物と戦っている時に盾が壊れたと聞いている。そういえば優馬は会ってるんじゃないか。イアンってヤツだよ」


 あいつか。


 猪相手に鉄板を振り回していた若い冒険者だ。

 あの時はかすり傷程度で大したことはなかったはずだから、また別の怪我をしたと言うことになる。


「それは、どんなものですか」

「詳しくは知らないが、ギルドが『不良品の盾もどき』がどうとか言ってような気がするな。まあ、優馬も気をつけろよ」

「ありがとうございます。それでは、今日はこれで」

「おう。また頼むな」


 牧場を後にした。急いでカルディアの町に戻る。


(フィン。嫌な予感がする)

(ああ、確認してみた方がいいな)



 冒険者ギルドに駆け込み、事情を話す。


「今日の牧場の仕事がなくなりました」

「ああ、やっぱりそうなのね。イアンが怪我をしたから、牛の世話に慣れていない優馬だけでは厳しいとは思っていたのよ」


 フィオナはこの状況を予想していたようだ。


「それでイアンはどうなんですか」

「幸い怪我は大したことはないのだけれど、本人は『バルカンから不良品の盾を買わされた』と言っているのよ」


 あの盾もどきはダメだと言ったので、別の盾を買ったのだろう。

 しかし買った相手がバルカンとは……


(フィン。確か初日に俺に悪態をついた後、盾で儲けると言ってたのは)

(ああ、バルカンだ。金になると思って粗悪品を新人に売って回ってるんだろう)


 なんてこった。

 一体どんな粗悪品を売りつけているんだ。あの小悪党は。


 フィオナにその盾について教えて欲しいと頼むと奥の棚から持って来てくれた。

 イアンが怪我した時に使っていたものだそうだ。


 早速見せてもらう……そこにあるのはあまりにも貧弱な鉄の板切れだった。


「これは……盾としては使えないと思います」

「わかっているわ。こちらでもガルスが検証を済ませて盾として使うのは危険だと断定したところ。今後、この盾の使用を禁止することにしたわ。今、新人冒険者に声をかけているところ」

「ガルスと話をできますか?」

「ええ。解体窓口にいると思う」


 僕はフィオナに礼をいい、ガルスの解体窓口に移動した。


「おう。優馬か」

「ガルスさん。このイアンの持ってた盾ですが……」

「こいつはとても盾なんて呼べるもんじゃねぇ。一目見た時からロクなもんじゃないと思ってはいたが、改めて手に持って見るとその酷さには呆れるぞ」


 そう言って、ガルスはイアンが使っていた盾を机の上に乗せた。

 形状としては鉄板の下部分の両側をアーチを描くように三角に切り取ったものだ。確かに見た目はちょっと盾っぽい。


 元々30cm四方しかない鉄板を切り取っているので防御範囲はさらに小さい。

 厚さもそうだが、面積が圧倒的に足りない。


 だが、問題はそれだけではない。


「問題は切り取った鉄板の切れ端についてだ。鉄板の裏に曲げて貼り付けて持ち手にしてるんだが、全く掴みやすくなってない。ロクに面取りをしていないのでそのまま持つと手を切ってしまう恐れがある」

「でも、一番まずいのはそこではないですよね」

「ああ、そうだ。イアンが怪我をした原因は魔物の攻撃を受けた瞬間に取っ手が外れたことだ」


 机にある盾には取っ手がついている部分に接着剤のようなものがこびりついている。

 触れてみるとガビガビになっていて、すでに鉄同士を接合する力はない。


「はい。そこが一番の問題だと思います。普通なら金槌でリベットを打ち込むところですよね」

「その通りだ。だが、こいつは接着剤を使っている。問題はそれが何かってことなんだが……どうやら、ダークスライムの体液らしい」

「まさかっ!」


 ありえない話だった。

 ダークスライムの体液はまとわりつくと酷い悪臭で大変なことになる。

 ベトつきも凄いが、接着剤として使えるものではない。


「これ、二日で剥がれますよね」

「ああ、全く意味がない。こんなもんで新人相手に荒稼ぎする輩がいるとはなあ」


 さぞボロい商売だったことだろう。


 一見しっかりしていて衝撃にも強く、売値は鉄板の八倍だが、普通の盾からすれば半額。

 新人にとってはさぞかし安くて頼もしい防具に見えたはずだ。


 それが魔物との交戦中であったとしたら、冒険者にとってこんな恐ろしいことはない。

 バルカンが『鉄板で儲けられる』と言っていたことの意味に気づいていれば……。


「これ、僕のせいですよね」

「いや、そんなことはねーよ。金のない冒険者が工夫することが悪いはずはない。問題は防具軽視の風潮とそれ付け込んで粗悪品を売ってるヤツだ」

「ありがとうございます……。僕、帰りますね」

「ああ、またな」


 帰りがけに「気にすんなよ」と声をかけられたが、何も答えることができなかった。

 僕はギルドを後にして宿に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ