第5話 冒険者の毎日
ギルドに着いたのはお昼の少し前。
昨日は命懸けの初仕事、思わぬ戦果でチヤホヤされ、帰り道にはバルカンと戦闘に……。
気後れするのも当然である。
フロアを見渡してみる。
バルカンはいないな。隣にいたヤバいやつも。
さて、今日は仕事を受けられるんだろうか。
まあ、その前にフィオナさんに呼び出されいて、お小言で済めばいいのだが……。
「おはようございます」
「……おはようございます。優馬さん」
一瞬の沈黙。
めちゃくちゃ気まずい。
「えーと、昨日の今日でなんなんですが、冒険者資格は……」
「ああ、大丈夫ですよ。剥奪はしません。ですが、しばらく制限をつけさせていただきます」
まあ、仕方ない。
内容としてはあらゆる討伐依頼の禁止だそうだ。
「薬草採取もダメですか」
「いえ、それは一応許可しますが、やはり初心者としては危険区域への進入を禁止します。具体的には、エイデンシェール大草原、シェルノックスの洞窟、フェノメナの丘、ゾルタンの迷宮などになります」
最初のエイデンシェール以外わかんない。
だけど、それを聞く雰囲気じゃない。
コクコクとうなづき、きちんと制限を守ることを誓って窓口を離れた。
念話でフィンに報告する。
(あーあ、依頼受けられなかったよ)
(仕方あるまい、二、三日休んだとしてもすぐに困りはしないだろう?)
まあ、そうなんだけど、今日の食い扶持ぐらい稼いでおきたいところだったのだが……
ギルドを出ようとしたら、声をかけられた。
「おーい、優馬。暇ならバイトしないか? 酒とつまみをご馳走するぞ」
あれは、昨夜酒を奢ってくれた槍使いの人だ。
「あれっ、ベイルさん。冒険者じゃないんですか」
「いや、俺は兼業冒険者なんだよ。普段は酒場をやっててな。それで、どうする。まかないも付けるぜ」
「やります」
仕事なんて意外に簡単に見つかるもんだ。
フィンは不満のようだけど……。
(なぜ、そんな仕事を受ける。まともな依頼がないなら、修行でもしたらどうだ)
(そうだけどさ。僕はこの世界どころかカルディアの町についてもよく知らないんだ。人との繋がりは大事だし、近所付き合いもできないのでは、国の腐敗を正すための折衝もできないだろう?)
(フン、モノは言いようだな)
呆れたような波動が伝わってくる。
わかっちゃいるんだ。そんなの冒険者の仕事じゃないよ、ってのも。
やろうと思えばこの仕事も”冒険者の仕事”にすることはできる。
ギルド窓口に一声かければバイト仕事でも冒険者ポイントが稼げるのだ。ただ、ギルドとバイト先の両方に動いてもらわなきゃならないので、そんなみみっちいことをする奴はいない。
但し、相手から持ちかけてくれる場合は別だ。
昨日の酒盛りでもその手の話はいくつか聞いたしね。
「優馬、うちは牧場やってんだけど、手伝ってくんねぇか」
「あなたは」
「ここは肉や牛乳を卸してるんだ。夜は冒険者たちと飲むことも多くてな」
なるほどね。そういう人たちもいるのか。
まあ、ギルドにいる人が全部冒険者、ってわけもないか。
「で、どうする。ちゃんとギルド通すからよ」
「そうなんですか? 悪いですね」
「いや、最初っからそのつもりだから。今週末なんかどうだ? 明日にはギルドに依頼提出しとくよ。流石に指名依頼にはしないから他のヤツに取られんなよ」
「わかりました。明後日からは朝イチでギルドで依頼チェックします」
こう言うのはありがたい。
でも、みんながみんな満足しているわけじゃない。
便利屋か何でも屋みたいな仕事は本意じゃないという若い冒険者は結構いる。
冒険者の夢といえば
「凶悪な魔物を討伐して賞賛を受ける」「未踏破のダンジョンを制覇する」
──等々。
バイトなんかしてられないと言うわけだ。
しかし、現実は厳しい。
”夢の仕事を求めて、他の町のギルドに冒険者が流出” なんてことはないのかな?
(フィン。カルディアは雑用多いよな。魔物退治はあっても、商隊の護衛なんて見たことないし)
(いや、あるぞ。ただ、そういう仕事はベテランの冒険者に限られているから掲示板に張り出されないだけだ)
へぇー、あるんだ。
でもなんで知ってるんだ?
(どこでその話を聞いた?)
(私に読めない書類などない)
そうだった。姿を消して見放題か。
呆れたヤツめ。
話を戻そう。
確かにそういう仕事もいつかはしてみたい。
(不満を持つヤツもいるんじゃないか?)
(ああ、跳ねっ返りはどこにでもいるな。ここの連中はだいたい弁えているが、中にはそれがイヤでほかの町へ移る連中もいる)
フィンが言うには、このカルディアと他のギルドの運営方針は違うらしい。
多いのは『冒険者の基本は自己責任、その行動は他人に迷惑がかからない限り自由』というパターン。
(それが普通なのか?)
(場所によって違うな。カルディアの冒険者ギルドはかなり良心的だな)
……………………あれっ?
なんか変だ。
初仕事のエイデンシェール大草原、って思いっきり危険な仕事だったよな。
イヤな予感がするが確認しておこう。
(なあ、フィン。なんであの危険な初仕事を受けられたんだ)
(ああ、それは私が 職員の意識をちょちょっとな)
うっわ! やっぱりこいつ、やってやがったのか。
急に態度が変わったからおかしいと思ったんだ。
フィオナの精神に干渉したとは、全く、とんでもないヤツ。
などと考えていたところで……ん?
奥のテーブルから小さな悪意を感じる。
ステータスが上昇したせいで、こんなことにも気がつく。
少しも嬉しくはないが。
そいつらは僕の初仕事について話していた。
あれを面白く思っていないヤツがいるらしい。
「あんなのまぐれだよ。だいたい鉄板で魔物退治なんて冒険者として恥ずかしいだろ」
「そうかな。それじゃあ、カイ。お前は初仕事で一角うさぎを仕留められるか? 確かお前がパーティに入った時は……」
「やめろ!! その話は」
カイというヤツは初仕事で何か失敗をしたんだろうな。
この話の流れだと、全員が悪く思っているわけではなさそうだ。
「ったくよ。レオンにはもう聞かねぇよ……。それじゃあ、リュークはどう思うよ」
「僕もすごいと思う。初心者で盾が買えないからって、鉄板を持っていくなんて機転が効いたことできないもの」
評価してくれてるヤツもいるか……。
「ちぇっ、リュークもあいつの肩を持つのかよ……」
「まあ、そう言うなよ、カイ。ここにいる以上、どっかで顔合わせることもあるんだしさ」
「ふん、そうか。じゃあ、俺もあいつが来たら口ぐらい聞いてやるよ」
話は一段落。
根の深いものではないし、カイって奴にしてもそれほど悪く思ってはいないと思うが……。
(そう思うなら、アレを使ってみたらどうだ)
(こんなところで使うのかよ。昨日の怪しい相手には使わなかったのに、こんな雑談している若い冒険者相手に)
(ああ、練習だと思えば、一番いい相手だろう?)
確かにそうかも知れない。
女神アリシア様からもらった僕の切り札。
肝心なところで失敗するよりも、まずは試してみるのもいいだろう。
……なんて言ってはいるが、実は使ってみたくて仕方がないのだ。
僕は周りを見回して、問題がないことを確認してその呪文を口にした。




