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第4話 切り札は、まだ

「魔物って、一角うさぎ(ホーンラビット)か?」

「はい」

「エイデンシェールで薬草取って、魔物までだと。もしかして初心者指定は?」

「解除されました」


 おおぉぅ

 周りの冒険者たちからどよめきが起こる。

 肩をバシバシ叩かれ、握手を求められ……


「本当に今日が初仕事なのか」

「はい」

「まあ、防具はそれなりだが、剣もなしによく一角うさぎを仕留めたな」

「鉄板を使ったので。防具はギルドで中古を譲ってもらったので助かりました」

「おーー、こんな鉄板一枚でか」


 なんだなんだ。

 メッチャ褒められるな。

 思わず浮かれそうになったその時。


 歓待の空気に僅かに滲む違和感が――



(フィン!)

(ああ、わかっておる。柱の影にいるヤツだが、そっちは見るなよ)


 見るなとは言われたが、このままってわけにもいくまい。

 どうするか……


 そうだ。

 あれなら、いけるかも。


(やめておけ)

(どういうこと?)

(どうせ弾かれる………おっ、動くぞ)


 ダメか。仕方ない、相手は格上だ。


 実は僕にはアリシア様から授かった能力があるのだ。

 それを試す絶好のチャンスだと思ったのだが。


 切り札はまだ、らしい。



「ケッ、鉄板一枚で魔物を倒しました、だとよ。やってらんねぇな」

「何だよ。新人に嫉妬かよ。バルカン」

「んなわけあるか!!……まあ、いい。鉄板か……こいつは一儲け……」


 好き放題、悪態をついてやがる。

 だが、あいつのまだいい。

 問題は隣でバルカンを嗜めていた男の方だ。


(どうしようか。ここにいると変に注目されそうだぞ。ギルドを出た方がいいのか?)

(いや、今はダメだ。バルカンの隣にいた奴と外で鉢合わせしたらただでは済まんぞ)

(わかった)


 フィンも僕と見立ては一緒か。

 むっ、誰かに肩を掴まれた。


「兄ちゃん、気にすんな。あんなヤツもたまにはいるさ」

「あっ、はい。大丈夫です」


 なんだ。酔っ払いか。


 でも、ホッとした。ちゃんと味方もいるらしい。

 ギルドで仕事をする以上、多くの人と親しんでおくのもいいと思う。


 酒盛りは続いていく。

 僕は帰るタイミングを逃し、ギルドの奥に併設されている酒場から抜け出せない。


「今日は新人で大きな戦果を上げた優馬に乾杯だ! プロージット!!」

「「「「「プロージット!!」」」」」


 もう、かれこれ二時間。

 懐の心配をしたが、彼らは新人に金を払わせるつもりはないようだ。




「あそこまで歓迎されるとは思わなかったよ」

「それは私も驚いた。だが、多くの冒険者の話を聞いてみると、どうもこのギルドでは若い冒険者が伸び悩んでいるらしい。そこにお前が出てきた。大手柄なのも確かだが、その手段も注目されておった」


 大変な冒険者初日になってしまった。

 その帰り道。


 長く続いた宴会がお開きになりギルドを辞したのは、なんと真夜中近く。

 あとは宿屋に戻るだけだが。



「ん? 誰か来る」


 フィンがスッと姿を消した。

 周囲を警戒するように視線を走らせると、柄の悪い男がこちらを見ている。


「よぉ。英雄の初心者様じゃねーか」


 バルカンだ。

 酒が入っているせいか、目が座っている。もう一人のヤバい奴は……いないようだ。


「チェッ、無視かよ……。なあ、鉄板、っての便利なもんだな。まあ、俺ならちょっと細工して役立つ商品として売り出すがな」

「何っ!」

「アイデアはお前だけのモンじゃねぇだろ。俺が真似しても構わねーよな」


 その一言に優馬はキレた。


 この男が人の役に立つようなものを作るわけがない。

 脳裏には、騙される初心者の姿が浮かぶ……。


「許せねぇ!」


 走り寄る優馬がショートソートを抜き、バルカンはそれを迎え撃つ。

 双方の剣が打ち合わされた。


 ダッダッ、ズザッ

 キィィィン


「怒ったか。だが、俺がお前ごときひよっこにやられると思ってんのか」

「ひよっこだろうがなんだろうが、関係あるか!」



 フィンは驚いていた。

 優馬がここまで熱くなるとは思っていなかったのだ。


 はっきり言って相手の方が実力が上だ。

 どうにか打ちあえているのは、相手に酒が入っているせいである。


 体制を整えたバルカンに優馬が勝てるわけがない。


(やめろっ、優馬。お前は力で物事を解決したいのか)

(いや、そんなつもりは……ない)



 我に帰る優馬。

 だが、それは最悪のタイミングだった。

 戦っている最中に反省するなど命取りもいいところだ。


 キン、ザザっ、キキン、キン


「ウッ」

「俺がお前ごときひよっこにやられると思ってんのか」


 一瞬の隙に、追い込まれる優馬。

 フィンは自分のせいで窮地に追い込まれてしまったことを後悔していた。


 どうするか。姿を晒す危険を承知で、加勢するか。




 そう逡巡している時に、声がかかる。


「あなたたち、何をしているんですか! 冒険者同士の私闘は禁じられています」


 フィオナだ。

 夜勤と交代した後、ギルドを出たところで裏道から争っている音を聞きつけ飛んできたのだ。



「チッ、邪魔が入ったな……。言っとくが俺から突っかかったわけじゃねーからな」

「クソッ、逃げるんじゃねぇ」


 優馬が後を追おうとした時。


「それ以上やると冒険者資格を剥奪しますよ」

「そんなっ、フィオナさん。あいつは鉄板を悪用して……」

「理由の如何を問いません。とにかくダメです。優馬さん……あなたはもっと冷静だと思ってたんですが」


 そこまで言われては、引き下がるしかない。


「すいません。バルカンの物言いに危険なものを感じたので」

「だとしてもです。まともにやり合ったら、おそらく無事では済まなかったはずです」


 優馬は素直に謝ったが、フィオナは「明日、ギルドの窓口に来て下さい。少しお灸が必要なようですから」と言って去っていく。

 周囲を確認した後、フィンが姿を現した。


「そこまで熱くなるとは思わなかったぞ」

「アレを放っておいてはいけない、って思っちゃったんだよなぁ」


 声の調子が元に戻っている優馬にフィンはホッとする。


「気にするな。考えても仕方がないことだ」

「まっ、そうだな」


 優馬は頭をかきながら宿屋に帰って行った。


 明日からは隔日で一話投稿します。


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