第3話 初依頼達成と初心者指定解除
日もとっぷり暮れ、ギルドの中は獲物の血の匂いと汗が混じった空気が立ち込めていた。
馴染めない空気の中、ギルド窓口に並ぶ。
この時間、列は長く、獲物を持った冒険者が何人もおり、そのほとんどが依頼達成の報告や、獲物の鑑定だ。
(随分、混んでるな)
(当然だろう。ほとんどの冒険者が日中働いておるのだ)
どれくらい待たされるのか、と気を揉んでいたが、職員の手際がいい。
意外と早く順番が来た。
目の前にいるのは冒険者登録を担当してくれたフィオナ。
鉄板を足元に置き、早速依頼の薬草を入れた包みを提出する。
「優馬さんですね。お帰りなさい。初仕事はどうでしたか?」
「結構大変でした。でも、何とか………これが取ってきた薬草です」
「確認します」
フィオナは注意深く薬草の状態と本数を確認する。
不意に笑顔になった。
「はいOKです。初仕事頑張りましたね」
「ありがとうございます……それと、これもあるんですが」
一角うさぎが刺さった鉄板をフィオナの目の前に出した。
「キャッ!」
「何だなんだ」
「おおっ、一角うさぎか」
「これを鉄板で仕留めたのか、やるじゃないか」
フィオナが驚いて声を上げたからだろう。
周りの冒険者が横から覗き込んで、口々に好きなことを言い始める。
怖そうな荒くれハルバードに、後ろに並んでいたシーフ風の男。
ローブを着ているベテランと思しき魔術師……
いきなり注目を浴び、ギョッとした。
だが、面白がっている顔が多い。どうやら敵意はないようだ。
まあ、気になる視線はあるにはあるんだが……。
「ちょっと確認しますね」
フィオナは、鉄板に突き刺さった一角うさぎをこと細かに見ている。
さすがはギルド職員、いきなり差し出されて驚きはしたがもう立ち直っているのか。
「これで倒したんですか?」
「はい。まだ盾が買えないので、追い払うつもりで鉄板を持って行ったんです」
「そうですか。少しですが討伐ポイントがつきます。次からは解体をして持ってきてもらうことになるのでちょっと待ってもらえますか」
フィオナは一旦奥に引っ込み、別の職員を連れてくる。
ギルドの解体担当のガルスだ。
右手にハンマー、左手に鋭利なナイフを携えている。
「坊主、初仕事で一角うさぎを仕留めるとは有望だな。そいつは小物だが、まともにツノを喰らうと大怪我をしてしばらく動けなくなるんだ。良くやった」
「ありがとうございます」
ガルスと共に解体受付の奥に移動し、解体を実地指導で教えてもらう。
「ここをこうして、この骨の間にナイフを突き立てて――おお、筋がいいな」
グロいはグロいが、キャンプで鹿をバラすのを手伝ったことがある。
割とすんなり覚えることができた。
「上出来だ。次からは自分で解体して持ってこい」
おお、これで解体もか。
初日としてはかなり冒険者として仕事を覚えられたな。
「それで、どうする? このまんまギルドで買い取ることもできるが」
解体した素材をどうするかだが、僕にはこだわりはない。
“初討伐記念に魔石を取っておく” などと言うことに興味はないのだ。
「お願いします」
「わかった。それじゃあ、肉と魔石に角。金目のものはギルドで引き取る。残りは廃棄しておく。この証書を持ってフィオナのところに戻んな」
「えっ! こんなになるんですか」
ガルスに渡された買取証書には、思った金額の倍以上の額が書き込まれていた。
「小さくても魔獣だからな。それにこの角は初心者用の武具には広く使われていてな。かなり需要があるんだよ」
「勉強になります」
「ほら、さっさと金に換えてこい。いったいった」
礼をいい、ギルド窓口に戻る。
証書を渡すとギルドカードにポイントが記録され、報酬が支払われた。
薬草採取と魔物討伐。合わせて大銀貨が三枚と小銀貨二枚。
これで一週間は食事と寝る場所の心配はいらない。
たった五枚の硬貨。ジャラジャラと手の中で転がしているだけで嬉しくなってくる。
だが、これだけではなかった。
「これで優馬さんは初心者指定解除になります」
「えっ? 何です。それは」
フィオナは「事前にお伝えすることはできなかった制限事項なのですが……」と申し訳なさそうに説明してくれた。
冒険者は他に比べて遥かに実入りがいい仕事だ。
それだけに若者は飛びつきたくもなるが、その分危険も大きい。
そこで、カルディアのギルドでは登録からしばらくの間、観察期間を設けているのである。
受ける依頼によって変わってくるが、だいたい一週間から長くて一ヶ月。
その期間中は受けられる依頼も制限されるし、毎日連続して仕事をしようとしても疲労などを考慮して断られることも。
目的は ”冒険者としてやっていくことができるか” を判断すること。危険と判断した場合、ギルド資格を停止する。
「って言うことは、僕はもう冒険者として認められたんですか?」
「はい。薬草採取の手際と処理の確かさ。想定外の魔物に対する機転……これは鉄板などを事前に用意していたことも考慮しています。もちろん、まだ初級者扱いですが、優馬さんは初心者指定を解除された一人前の冒険者として認められました」
そんなものがあったのか!
おーー、これは思ってもみなかったけど、超嬉しい!
(それほど喜ぶことか?)
(そりゃそうだろ。この世界で初めての報酬もらって、おまけに冒険者として認められたんだぜ)
(フン、それぐらい当然だ。小さなことで喜んでどうする?)
それぐらい、って……あれっ、なんかおかしい。
もしかして、フィンのヤツ初心者指定のこと知ってやがったな。
『基準を超えた』ってのはこのことか!
(最初から初心者指定解除を狙ってたのか?)
(当たり前だ。お前にはこのフィレンティア王国の腐敗を正すという使命があるんだぞ)
ああ、確かにこの世界に来たのはそんな理由だったっけ……。
それにしたってスパルタすぎませんかね。一つ間違ってたら死んでたんだけど。
唖然としながら窓口を離れ、柱の陰でギルドカードと報酬を確認。
おー、よく見ると透かしが増えてる。これが、指定解除の証拠か。
こうして目に見える成果があると、凄く嬉しい。
こんなに充実した気分になったのは久方ぶりかも。
となると長居は無用だ。厄介ごとに巻き込まれたらたまらん。
(とっとと退散して宿を探した方がいいかな)
(ああ、それに越したことはない。気になる視線がまだこちらに向いているからな)
ここは、さっさと引き上げるに限る。
それはわかっているのだが……
横にいた冒険者が声をかけてきたのである。
「おう。坊主、解体を覚えたのか!」
「はい」
思わず身構えてしまった。
しかし、こいつも僕のことを坊主扱いか、ムカつくな。
だが、腹を立てるわけにも行かない。
恐らく事を起こせば、あっという間に僕など胴と頭が泣き別れになる。
愛想笑い、愛想笑い。
「見ない顔だが、他のギルドで仕事していたのか」
「いえ。今日が冒険者として初めて仕事だったので、薬草採取して」
「薬草って、エイデンシェールかよ!」
「そうです」
おやっ! そう悪い反応じゃない。
バカにしているわけでもないのか。
「おーい、この兄ちゃん。初仕事で、エイデンシェールに行って魔物まで狩ってきたらしいぞ」
「マジかよ」
「そりゃ、有望だな」
あー、そんなにその話を広げないでくれ〜。
と心の中では思うものの後の祭り。
どうやら、エイデンシェールの薬草採取は、初級冒険者の登竜門とも言える仕事だったらしい。
早速 ”兄ちゃん” に格上げされ、人がわらわらと集まってくる。
気づけば、僕はすっかり取り囲まれてしまった。
本日はあと一話投稿します。




