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第55話 旅の始まりの空の色は

 馬車が行く。

 カルディアから一路東へ。途中には十字路があり、南に折れるとトルドの町。

 あのビーモンキーと戦ったマルナーの散木帯もこの近くである。


 そのまま進むとマルバーニア方面に。

 ここから先は優馬にとって初めての土地である。


 春、雨の多いこの地方にしては良く晴れた空の下。

 御者のリーデルは客である優馬たち三人の会話を聞いていた。


「ミリアのそれ。司祭章だよね。普通とはちょっと違うし」

「えっ! 司祭。出世してんじゃん。教会やめたんじゃなかったの?」

「辞めたわ。これは銀紋司祭章。お飾りなのよ」


 カルディアの町を離れる以上、仕方がないとはいえ、

  “きっとミリアは悩むだろうな”

 と優馬は思っていた。


 実際はすぐに教会に行き、さっさと手続きを終えた。

 同僚の神官たちへの挨拶もその時、済ませたらしい。


 ただ、辞めるタイミングで出世までしているとは思わなかった。


「関係ないわ。餞別がわりだもの」

「名誉司祭様、ってことか」

「そ。権限も何もなし」


 なんでもない会話に聞こえるが、さっきから前をずっと気にしている。


 “気にしてるのはこっちだってのによ”


 視線の先にいるリーデルは馬車の御者席でそう独りごちた。


 古い馴染みのロイ・エルバートから頼まれた新人冒険者三人。

 有望株だとは聞いていたが、本当だろうか?


 馬車の後ろにある荷物棚には、背嚢が二つと少し大きめなカバンが一つ。

 こんなもんで長旅をしようと言うのは自殺行為である。


 旅の支度もできない者をそのまま連れて行くわけにはいかない。

 リーデルはちょっと鎌をかけてみることにした。


「今日の宿はロテトトの町にするつもりだ。構わんよな」

「えー、構いませんけど……。雨でも降ったらどうするんですか」

「そんときは仕方ない、野宿だなあ。冒険者なら当然、装備は準備してるんだろ?」

「あー、はい」


 動じる様子はない。

 リーデルはだんだん腹が立ってきた。


 ロイを疑うわけじゃない。安全な旅の確認をするのは御者の義務だ。

 手綱を操作し馬車を止める。


「あー、やめだやめだ。客と腹の探り合いは性に合わねぇ。お前たちにはここでキャンプの用意をしてもらう」

「わかりました」


 周りには小さな草原があり、テントを張るのに支障はないはずだ。



 さっそく、アルンと優馬がゴソゴソと何かを取り出そうとしている。

 背嚢にはキャンプ道具が入るほどの容量はない。


 ただ、その位置はリーデルからミリアの姿がちょうど隠れる場所なのである。


「ちょっと待て」

「は、はい」

「そこのお嬢ちゃんはカバンから何を出すつもりだ?」


 三人は顔を見合わせる。

 罰が悪そうに優馬がポリポリとほおを掻く。


「えーと、テントを出すつもりでして……」

「ほぉぉ、そんな小さなカバンから」


 ………………


「「「すいませんでした」」」

「いや、謝ることじゃねーけどよ。魔法のカバン使うんなら最初から言っといて欲しかったぜ」


 ミリアは次々にカバンから道具を取り出す。

 容量拡大と重量軽減の魔法がかかっているとは言え。


 まあ、出るわ出るわ。


「スッゲーな。香辛料まで一揃いあるじゃねーか。それにしたって……食材はこっちもち、って約束だが、これなら心配ねぇ。それにしても何で隠してた」

「あんまり人に話さない方がいいって聞いてたんで」

「みくびるなよ。客の秘密をペラペラしゃべらねぇよ。……まあ、いいや、とにかくちゃんと旅支度はできることがわかった。これからよろしく頼むぜ」

「こちらこそ。よろしくお願いします」



 優馬は周りの邪魔な草を刈り、ミリアは食事の支度、アルンは水を汲みに……


「お前ら、何する気だ?」

「キャンプするんじゃ……」

「やんねぇよ、こんなとこで。確認も済んだし、さぁ、道具をしまったしまった。すぐに馬車出すぞ」

「「「えーーーっ!」」」


 慌てて片しに入る三人。

 どうやらギクシャクしていた空気はほぐれたようだ。


 これからが旅の本番。

 果たして、今日はどこに泊まろうか。


「行けるとこまで行ってみるか。こいつらなら、どんな天気でも平気だろうしな」


 リーデルは、馬車の手綱を強く握り馬車のスピードを上げた。

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