第56話 魔法のカバンを持ってたら
「なあ、考え直しちゃくれねぇか」
「ええっー? 客の秘密は守るって、言ったじゃないですかぁ」
「それはもちろん守る。だからさぁ」
一行はサラトトという町についた。
記念すべき優馬たちの旅、最初の宿である。
ところが。
この町ではレアな鉱石が大量に採掘されたらしい。
これに御者のリーデルが飛びついたのだ。
大商人が来る前にマルバーニアに持っていけば……。
そこで、ミリアに魔法のカバンを作って欲しいと頼んできたのだ。
「なあ、嬢ちゃんの魔法で、ちょちょっと入る量をアップしてくれれば、大儲け間違いなしなんだよ」
「断りましたよね。誰にも知られたくないから絶対作らない、って」
「まあ、そうなんだけどよぉ。この機会を逃すってのは商人としてだな」
「御者じゃなかったの? これは本当に危険なの。とても人様に渡せるようなものじゃないのよ」
魔法のカバン。
この夢の魔道具には大きな問題があった。
物はいつか壊れる。その時中のものはどうなるか――
「知ってるよ。馬車一台分以上の荷物が一気に噴き出すんだろ」
「ええ、旅の途中で馬車が爆発して全員死亡なんてことも珍しくないの」
金貨二千枚もの高額で取引される夢の品は、長い旅路では十分ペイが可能であるにもかかわらず、多くの商人が手を出さない理由はそこにあった。
「でも、嬢ちゃんのは違うんだろ」
「まあね。私のはインチキだから」
実は、カルディアを立つ数日前に、ミリアはこの魔法を師匠にせがんだが断れらたのだ。
「荷物が思ったより多くなりそうで。ねー教えてよー」
「無理よ。修得は大変だし、出来たとしても恐らく一週間以上寝込むことになるわ。辞めときなさい」
「そっかあ……。でも、やり方だけ教えて。絶対やらないから」
そう言われてエルフィナは渋々、その理論から話し始めた。
魔法のカバンを実現すのが難しい理由は、三つの術をいっぺんに起動する魔法陣が必要だからである。
容量の拡大、重量の軽減、時間経過の停止
「これを作るにはどれだけ、大量に魔力を消費するかわかるでしょう」
「そうね……。でも、全部できなくてもいいじゃない。容量の拡大だけじゃダメ?」
「ハンドバックが二トンの重さになるんだけど、それ誰が持つの」
「………………」
一度はそれで諦めたのである。
しかし、別の方法があることに気が付き、エルフィナに相談したのだ。
「全部魔力でやるから大変なのよ。重量は神力でやれば何とかなるんじゃない?」
「そんなやり方が! ……わかったわ。それなら確かに。念のため、セーフティ機能も盛り込みましょう」
「やったー」
魔力は容量拡大のみ。癒しの神の力を応用し、対象を軽くすることで実現したのである。
それがミリアが言うところの ”インチキ魔法カバン” の正体なのだ。
ミリアとリーデルの睨み合いは続いていた。
このままでは埒が開かない。
優馬はついに口を出すことにした。
「やってあげれば? 制限ありならいけるんだろ?」
「仕方ないか」
ミリアはついに折れた。
「でもカバンは用意できないから、この町で買わないといけないの。それでもいい?」
「ああ、もちろん。どんなものがいいかわからないから付いてついてきてくれるか? それで、宿探しと馬車の番は……」
「いいですよ。僕とアルンでやっときますから」
こうして、優馬たちの旅は、一泊目から前途多難なのであった。
幸にしてアルンはこの町に来たことがあったため、宿は簡単に見つかり、優馬はそれほど待ちぼうけを食わずに馬車を預けることができた。
そして、そのままアルンがミリアたちを探しに行ったのだが、なかなか帰ってこない。
「腹、減ったなぁ」
優馬は一人先に食事もせずに部屋で待っていた。
そのまま二時間が経ち、ようやく三人が戻ってきた。
「あー、疲れた」
「お帰りー」
「いいものが買えました。先に食事にしましょう」
「そ、それは良かったですね」
もう夜九時近くである。
宿の夕食タイムは終わっていて、あとは飲み屋のメニューしか残っていない。
「ああ、ここはドーンと奢りますから」
「ええ、散々待たされましたからね。遠慮はしませんよ」
「大丈夫です。三日間、好きなだけジャンジャン食べて下さい」
慌てて、アルンを手招きする優馬。
「どういうこと?」
「ミリアがいけないんだよ。『魔力と神力で作るから、それほど負担はない』なんて言うから。リーデルさん、カバンを六つも買ったんだ」
「それ全部、魔法のカバンに? それに三日かかるってこと?」
その問いにアルンは絶望的に顔でうなづいた。




