第54話 旅立ち
「今回の報酬です」
「えっ! これマジですか」
そこには思っても見なかった金貨が十数枚。
あの迷惑料込みでもらったジョルジュ商会事件の報酬より一桁多い。
「頑張りましたね」
「ええ、まあ……。でも黒幕は取り逃しちゃったのにいいんですか」
「もちろんです。それよりこれからも頑張って下さいね」
優馬はフィオナに深々と頭を下げた。
今日、『エリシオンの灯火』は大都市マルバーニアに旅立つのである。
農園の事件が町に知らされると大騒ぎになった。
長年、麻薬が栽培されていたことも衝撃だったが、それよりも多くの行方不明者が死体で見つかったことで人々は動揺した。
結局、ドルノイア商会は解散。
ローデスメイト農園はカルディアの町役場の預かりとなった。
カルディア一の名産品である高級トマトが今後どうなるか、については不明である。
「まだ、町が落ち着いてないのに悪いですね」
「気にするな、それより報酬はどうだった」
「そりゃもう、たんまりと」
フェルハートは「それは重畳」と言いつつワハハと笑う。
隣には大荷物を抱えた男が。
「ガルドさん。珍しいですね、ギルドに来るなんて」
「ああ、フェルハートの旦那に頼まれた品が上がったんで持ってきたんだ。おい、ミリアとアルンもこっちに来い」
テーブルに並べられた革鎧が三着。
他にも盾が一つ。腕につける装備品が二つ。
二人が駆け寄ってきて、目を輝かせている。
「凄いわ」
「これ本当に僕らの?」
「ああ、グレートバーンウルフの一枚革から拵えたもんだ。三人分作るは苦労したんだぞ」
見ただけでわかる。
今までの装備とは段違いの防御力と軽さ。
「これなら旅の間、装備に困ることはないだろう?」
「ありがとうございます」
そこにカイが駆け込んでくる。
「おーい、荷物の積み込みは終わったぞ」
「サンキュー」
あとは馬車に乗り込むだけのはずが……
気がつくと隣にはエルフィナ。
真新しい装備品をじっと見ている。
「これ、マズイわね」
「なんだ。また、俺の作ったもんにケチつけんのか。こいつぁ、そんじょそこらのモンとはわけが違うんだぞ!」
ケチをつけられたと思ったガルドが激怒している。
「違うわよ。この金具、どうやって素材を手に入れたの。これミスリルでしょ?」
「そ、それは……」
「エルフィナ、弟に絡まないでくれますか」
そこにきたのは解体担当のギルド職員ガルスである。
装備屋ガルドの実兄なのだが、二人でいるのは珍しい。
「それは、ギルマスからですよ。報酬では感謝し切れないと、魔王城で見つけた秘蔵の品を提供してくれたんです」
「そういうことなのね。別に出来が悪いと言ってるんじゃないわ。いい? 優馬たちはカルディアではそこそこ有名だけど、他の町では初級者にしか見えない。こんな極上の装備、絶対狙われるわよ」
優馬たちは顔を見合わせていたが「どうにかなりませんか」と尋ねた。
ポリポリとほおを掻きながらエルフィナは魔法をかけた。
魔法が装備に降り注ぐ。
ミスリルは輝きを失い、安い錆びた鉄であるかのように。
見事なグレートバーンウルフの皮は、並の牛革にしか見えなくなった。
「耐熱、耐水、耐魔法属性を付与してあるわ。元気で行ってらっしゃい」
それは、エルフィナの三人への餞別だった。
「「「今までありがとうございました」」」
ギルド中に響く大きな声で三人はそう言い、周りからは大きな拍手が。
外に出ると馬車は準備万端。
三人が世話になる御者のリーデルとギルマスのロイが話し込んでいる。
「こいつらをよろしく頼まぁ」
「ええ、わかってますよ。それより、本当に荷物はこれだけなんですか?」
「ん……。確かに少ねーな。だが、あいつらのことだ。何か用意があるんだろう」
「それならいいんですけど」
腑に落ちない表情のリーデルだったが、ロイとの会話はそこで途切れた。
優馬たちが出てきたのだ。一礼をして馬車に乗り込む。
ドアが開け放たれる。
新人から始まり、このギルドで名を上げた三人を、多くの冒険者や職員が見送っていた。
「元気でやれよ」
「ああ、またいつか」
優馬たちは、馬車に揺られ次の街へ向かうのだった。




