第52話 最終日前夜(2)
これ以上、何があるというのか。
「ゼラードと会長であるグレゴリオ・ゼラノイアは恐らく親子です」
「本当か!?」
ロデリックはううむと唸り、レオンとリュークは顔を見合わせた。
それぞれが困惑していた。確かにそれは誰も知らない新事実だ。
だが、それがこの事件とどう関わると言うのだろうか。
優馬は固唾を飲んで見守る周りを見渡し、ゆっくりと話し始めた。
「この一件の大元締めはゼラードだと思うんです」
「ああ、我々はその線で調査してきたからな」
フェルハートがそう返し、全員がうなづく。
「ですが、恐らく麻薬栽培は長く続いていると思われるので会長が知らないはずはないと思うんです」
「まあ、そうだろうな。だが、それが主犯が誰かという話とどう繋がるんだ」
「つながりません」
「「「「はぁっ!?」」」」
それから優馬は説明を始めた。
この一件は命令系統がどこにあるのかがわからないのが問題である。
確かにゼラードが中心人物の一人であることは確かであるように見える。
しかし、優馬はそれを否定した。
「ゼラードがこの件のトップであり得ないんです。今年こそ、毎日のように農園に顔を出していますが、例年彼はシーズン中一度も顔を出していません」
「確かなのか」
「ええ、農民や商会の連中からも話を聞きましたが、彼が農園にいるのを初めてみたと何人も」
それが本当なら、誰がトップだと言うのだろうか。
「じゃあ、トップは誰なんだ。今までの候補で言うとグラントスと言うことになるが……」
「違います。この件について明確なトップは存在しません。実は一人、ここに商会側の人物を招いています。アルン、頼む」
「わかった」
アルンが掘立小屋の扉を開けると一人の老人が入ってきた。
それは農園長のバルドだった。
全員が息を飲む中、彼は謝罪を始めた。
「申し訳ありません。この件について知っている限りをお話しします」
バルドは、まず会長とゼラードの関係から話し始めた。
確かにゼラードは会長の子供ではあるが、いわゆる妾腹の子であり表向きは認知していなかったそうだ。
それは家柄のせいであり、会長自身はゼラードを可哀想だと思っていたらしい。
「それが、どうして商会の幹部部長になったんです」
「ゼラードは会長を恨んでいました。彼は商会を乗っ取るために入ったのです」
ところが、出世の途中で彼の野望は断たれる。
こんな田舎の農園の担当にされてしまったのだ。
「ですが、それは誤解なのです。会長は最初ゼラードが自分の子供だとは知らなかった。それを知った時、非常に喜び、事業の中で一番大切してきたこの農園を彼に任せることにした」
「そう言うことですか」
フェルハートがうなづいた。それは十分にありそうなことだ。
この世界の商会の花形は営業。とりわけ仕入れである。
「彼は閑職に追いやられたと思ったのだな?」
「ええ、そこにつけ込まれました。ラヴァンス男爵の手の者が『復讐の手伝いをする』と申し出てきたんです」
「なるほど。だが、それだと今年はともかく去年までのことが説明つかないんだが」
するとバルトは首を振り、一枚の紙を取り出した。
「これが、事件に関わった者のリストです」
そこには、ゼラード、グラントス、ドランなど多く名前に混じって、バルトの名が。
「あなた、なんですか?」
「はい」
思っても見ないことだった。
普段は農園の周りを見て回るだけで何もしていない。
かといって無能なわけではなく、トマトの栽培で困ったことがあると誰もが頼る存在。
この老人が事件の鍵だったとは。
「なぜなんでしょう?」
「私はいつか会長とゼラードの関係が修復することを願っていました。それを男爵の手の者に知られてしまったんです。彼らは二人の関係を決定的に壊すと脅しをかけてきました」
「あなたはそれに贖うことができなかった、と」
老人は静かに頭を下げた。
フェルハートはこの事件の根の深さを知り、目を閉じた。
それなら全てが辻褄が合う。
バルトなら誰にでも指図することができる。トマトのために水をやれ、あの畑のトマトは先に収穫した方が良い。
そのついでに、忘却草のつると葉を収穫するように命じれば良かったのだから。
「では、やはりおかしくなった人は事故だったですね」
「ええ、ほとんどはそうです。ですが、男爵の手の者は商会の中にもおり、人夫の中には彼らの手にかかった者も」
全員がため息をつく中、一番年長のベルナールが発言する。
「貴重なお話をありがとうございます。私たちは明日全てを終わらせます」
そして、商会と冒険者たち、お互いに万全の用意をした中、最終日の朝を迎える。




