第49話 農園の作業とその裏に潜むもの
式典が終わり、農園内の宿舎のロビーに全員が集合した。
「それじゃあ、配置を発表する。必要があれば変更を伝えるのでみんなそのつもりで」
配置の肝は、農園側からの要望である管理者二人を誰にするか。
当然、作業総監督はフェルハート自身が担当する。
となれば、三つある作業班を仕切る役目を誰がするかだが……
「第二作業班の班長をロデリック。やってくれるか?」
「はっ、謹んで」
普通ならパーティーでまとめ役を務めているベルナールが適任。
その役割に就かないのには理由がある。
今回参加の冒険者で一番年齢が上であるというのが表向きの理由だが、それはもちろん嘘だ。
日ごろダンジョンの奥で魔物と格闘している者が、農作業ごときで根を上げるものか。
ベルナールは連絡および調整という業務が与えられた。
屋内、屋外の作業の進行状況について、随時フェルハートに報告。
長期依頼の途中経過を報告するため、ギルドとの連絡役も務める。
もちろん、『農園の作業以外』の報告という裏の理由も。
最後に若手についてだが、全員人夫として働くことに決定。
配置の発表は終了した。
連絡役のベルナールが外出するところで、サラサとミリアが呼び止めた。
「これからギルド?」
「はい。作業開始の報告がありますから」
「それじゃあ、これをエルフィナに持ってってくれる。商会の方に頂いたの」
サラサはトマトの入ったカゴを渡した。
流石は高級品。形も良いし匂いも一級品ではあるのだが……
「わかりました。これはいいおみやげになりますね」
ベルナールは、カゴの中の布をチラッとめくってみせ、すぐに布を戻した。
中にあったとのはガラス容器とメモである。
会話にはおくびにも出さないが “中身はわかっている” という意志表示だ。
ベルナールが出ていくと、遠くから様子を見ていた優馬がサラサたちのところにやってきた。
「ベルナールさん、行ったの?」
「ええ、そうよ。これではっきりすれば、いろいろ解決すると思うんだけどねぇ」
「うーん、でもこれからが大変そう」
「それは、優馬たちが頑張って」
そう言って、サラサとミリアは厨房へ。
二人は初日から賄いの手伝いである。
(フィン。こんな上手く行くとは思わなかった)
(ああ。でも、これで終わると思えん)
(そうかなぁ。まあ、確かに手間はかかるけど……)
確かに犯人の特定は楽な仕事ではない。
でも、証拠が固まれば言い逃れはできないのだから、山は超えたのでは――と優馬は思う。
翌日から作業が始まった。
朝から働き夕方に終わる。
食事三回と寝床は保証されている。
表向きは順調。
能力からすれば、農作業などたいした力仕事でもない。
だが、一日中同じ作業をやらされる毎日に冒険者は慣れてはいない。
三日も続けば、不満は溜まってくるものだ。
「毎日、鍬振って仕事なんて冒険者のやることじゃねーよなぁ」
「そうそう。かったるいし疲れるし」
「俺たちが汗水垂らして働いてんのに女子はずるいよなぁ。室内整理とお茶だしだけしかやってないんだろ?」
カイたちがぶつくさ言っているのは、サラサとミリアのこと。…
決まった仕事以外の時間は花を摘んだり、畑を見に行ったりするばかりで暇そうである。
「アルンはどう思うよ」
「僕は農作業って、やったことなかったから新鮮だよ」
「ほら、優馬もアルンも文句なんて言ってないじゃない。それに屋内整理だって聞いた話とは大違い、誰かさんが散らかし放題なんだから。あれは別料金もらってもいいと思うんだけど。レ・オ・ン!」
「僕はサラサたちのことなんて言ってないよ」
レオンはサラサによく怒られる。
優馬は、てっきり怒られ役はカイだろうと思っていたので、これは意外。
言っても片付けようとはせず、旗色が悪いと見るやそそくさと出て言ってしまう。
「失礼しちゃうわね。私たちが何にもしてないと思ってるんだから。今日だって……」
「ミリア! ダメ」
サラサは急に語気荒く遮る。
彼女たちが意味もなく、自由時間に畑を見に行くはずがない。
当然、そこで見たことも何一つここで漏らすわけにはいかない。
「あーー、そうね。確かにカイたちに比べれば大したことはしてないかもー。せめて美味しいご飯を食べてもらわなくっちゃ。食材でも買いに行ってくるわ」
ミリアは「まずい!」と言いつつ、部屋の外へ。
サラサは「若い子はどうも口が軽くていけないわ……。なんて私、年寄りみたいじゃない!」と一人で怒っていた。どうやら、彼女らには言ってはいけないことがあるらしい。
それを見て優馬はクスリと笑い「そろそろ俺も仕事に本腰いれなくちゃな」とひとりごちた。
一週間を過ぎても農園側に大きな変化はなかった。
証拠が見つかった後もサラサとミリアが散歩を続けているのは、継続調査という意味もあるが、実は囮役を演じると言うのがメインである。
彼女たちの様子を気にしている者がいるかどうか、冒険者たちは持ち周りで観察していたが、なかなか商会の人間は尻尾を出さなかった。
そして、さらに数日後、作業体制に変化が現れる。
フェルハートは不在がちでベルナールが実質仕切ることが増え、ロデリックも頻繁に人足の手伝いに参加するようになっていた。
その理由は優馬にある。
なんだかんだと言って、体調の不良を訴え仕事を休むのだ。
「すいません。お腹を壊しました」
「それは良くないな。今日は休んでいろ」
調子を崩し、休憩用の小屋で休み、しばらくすると仕事に復帰する。
その穴埋めに駆り出されたのがロデリックというわけなのであった。
この件について商会はクレームもつけず「若い方は大丈夫ですか」などと気遣いを見せたぐらいである。
優馬が「それならば、お言葉に甘えて」とおとなしく寝床にいるわけがない。
毎日のように小屋を抜け出しては、これみよがしに魔法を唱えまくっている。
使うのは一般ステータス魔法『リーヴァス』。切り札の『リーヴァス・アルタ』ではない。
それでも、効果は十分だった。
農園関係者の中で優馬の魔法に過敏に反応し、隠蔽を掛けて魔法を遮る者が出てきたのだ。
中には、食事の席など顔を合わせる機会で席を外すようになったものもいる。
優馬はシメシメと思いながら自室に戻る。
敵に気付かれるのは折り込み済みだ。
不在がちのフェルハートは、たまに帰ってくると優馬に体調のことを尋ね、すぐにまた外出した。
「優馬。腹の具合は大丈夫か」
「あまり良くありませんね。薬を変えてみようかと思いまして」
「ああ、それはいいかも知れないな」
その答えを次に進む許可と受け取った優馬は、二週目に入りやり方を変えた。
隠蔽を破る『リーヴァス・アルタ』を織り交ぜるようにしたのだ。
もちろん『リーヴァス』と違うことを知られるわけにいかないからブツブツと何を言っているかわからないよう偽装しながら……。
すると、ステータス閲覧に過敏になっていた一人に、犯罪履歴がある男が浮かび上がってきた。
その男の名はグラントス。
この凶悪な男の情報を掴むのは、一筋縄では行かなかった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。冒険者の皆さんは朝から元気ですね」
作業を開始した当初は、そんな風ににこやかに会話を交わしていたのだ。
それが、優馬の『リーヴァス』に気付いてからは口数がめっきり減り、数日後には自室に閉じこもるようになったのである。
これは失敗したと思った。
尻尾を掴むタイミングを失ってしまった、と。
(こいつはまずいな。フィン、どうしよう)
(あからさまな詠唱は少し控えようか。代わりに、奴の死角から『リーヴァス・アルタ』で狙ってみろ。ずっと優馬を意識し続けることはできないから、何度かやれば成功するだろう)
フィンのアドバイス通り、農場の奥の林からグラントスの隙を伺う。
『リーヴァス・アルタ』を何度か挑戦し、やっとこの男の過去を見抜くことに成功したのだ。
もちろん、ステータスでわかるのは善悪の度合いのみ。
だが、そのパラメータからどんな悪事を働いていたかは、想定できるのである。
ベルナールに報告し、グラントスの過去について、人夫がらみのことを中心に調べてもらったら、これが出るわ出るわ。
いわく、借金をチャラにしてやると強引に連れてこられた人夫。
いわく、言われのない犯罪を晴らしてやると騙された人夫。
裏を取れないものを合わせると本当にたくさんの人夫が非正規に参加させられていた。
その役目を担っていたのが、グラントスだったのである。
そろそろ頃合いだ。優馬はベルナールに繋ぎを頼むことにした。
「フェルハートに連絡を取ってもらえませんか」
「腹が痛む理由でもわかりましたか」
「まあ、そんなところです」
さすがベルナール。
正確にその意味を把握してくれたようだ。
優馬はにっこりと笑い、このやりとりに満足していた。
初めての大きな証拠だ。
グラントスはこの事件の中心人物であることには間違いがない。
あとは、これを誰が指図していたかを突き止めるだけ。
だが、その目算はどうやら甘かったと悔やむことになる。
その夜、グラントスが姿を消したのだ。




