第45話 降って湧いた中級依頼(1)
いつものようにギルドに集合。
しかし依頼は受けずテーブルに突っ伏す『エリシオンの灯火』。
「どうすればいいのよぉ」
「皮鎧直すなら、ダンジョンで素材採取かなあ」
「だからそのための装備がないんだってば」
なぜ、こんなことになったのか?
それは昨日、職人通りの装備屋での話。
「ちったあ、丁寧に使えや。今月に入って三度目だぞ! 換えなんかないからな。修理材はテメェで取ってこい!」
「無理ですよぉ。何とかなりませんか」
「どうにもならん。今までだって補強を入れて騙し騙し直してたんだ。ここまで壊れちゃどうにもならん」
店主のガルドに壊れた防具を見せたところ、いきなり怒鳴られたのだ。
補強も無理、修理完了は未定――絶望的状況である。
フィオナに何かないかと泣きついたものの「装備なしでは依頼は出せません」とけんもほろろに断られる始末。
「普通の防具で行くかぁ?」
「流石にそれは……」
「無理だよなぁ〜」
”スピード特化” を目指す以上、当然とも言えるのだが、ないで済まされる問題ではない。
「お前ら、なんでたそがれてるんだ」
「ああ、フェルハートさん。実は、仕事が受けられなくて困ってて」
「ほう。それは、またどうしてだ?」
事情を説明する。
装備が壊れたことから、フィオナに依頼を断られたことまで全部。
「ふーん。そう言うことか……。それならいい話がある」
「な、なんでしょう」
「北の農園で仕事を受けたんだが『暁の守護者』だけじゃ人が足りない。『エリシオンの灯火』が参加してくれれば助かるんだが……。受けてくれたら、こいつを前金代わりに渡してもいい」
フェルハートが出してきたのは、大きな革素材だった。
光沢といい柔軟性といい一目で高級品とわかる。
「グレートバーンウルフの一枚革だ。無傷のものは珍しい」
「凄い。私、こんなの見たことない。アルン、どう思う」
「上物だ。間違いないよ。うわぁ、カルディアじゃあ、絶対手に入らないよ。こんなの」
さすが、商人の息子。価値がわかるらしい。
その出所までも。
「もしかして、マルバーニアですか」
「そうだ。二年前に遠征の帰りに立ち寄った魔物素材の店で手に入れたものだ」
アルンもミリアもすっかり乗り気である。
優馬だって修理と強化がいっぺんに片付く優秀な新素材は、喉から手が出るほど欲しい。
だが、うまい話には裏があるものだ。
「ちょっと依頼書を見せてもらえますか」
「ああ、かまわない」
フェルハートから依頼書を受け取り中身を見てみると……。
場所は町はずれにある小さな農園。
依頼内容は人足の手伝いと管理を数名。
「ああ、監督は俺がやるし、班長もウチから出すから管理は考えなくていいぞ」
「それをわかりますけど……」
仕事は簡単で冒険者であれば初心者でもこなせるだろう。
優馬が懸念しているのは、報酬額と期間だ。
なぜ『暁の守護者』はこんな仕事を受ける?
依頼書を食い入るように見る優馬――
見つけた。
「あっ! これ中級の仕事ですよね。報酬額もこれだけ、ってことはないんじゃないですか?」
「良くわかったな。いかにも初心者向きの仕事に見えるだろう?」
「騙されませんよ……。ここです。ここ」
優馬の指差した先は、依頼書の左下。
カルディア冒険者ギルドの紋章の背景に追加された見慣れない ”絶”と”守”を表す古代文字。それは受注した冒険者はギルドからの追加情報に対して秘匿義務を負うというものである。つまりこの仕事は額面通りの仕事ではないと言うこと。
「バレちゃ仕方がない。それで――どうだ」
「僕らにできると思いますか」
「ああ」
「わかりました。受けます。アルンもミリアもOK?」
「構わない」「問題ないわ」
こうして『エリシオンの灯火』は初めての中級仕事に着手することになったのである。
三人の胸に、期待と不安が同居していた。
フェルハートが窓口に行くとフィオナが黙ってうなづき、ギルド奥へ移動。
どうやらすでに準備が整っているらしい。
会議室には『エリシオンの灯火』三名、『暁の守護者』七名が集結。
怪我をして療養中だったロデリックが復帰し、久々のフルメンバーとなった。
フィオナは全員が入室したことを確認すると、ドアの近くの小机に置いてある魔石のついた小さな箱のスイッチを入れた。
これで依頼の話が外に漏れる心配はない。それだけ、今から始まる話は重要であると言うことだ。
いよいよおいでなすったな。どんな無理難題を吹っ掛けられるか――
優馬はそう、ひとりごちた。




