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第44話 Breakthrough(3)

 マルナーの散木帯から、優馬たちが帰還した。

 ギルドの扉を開けた時、待っていたのは普段より倍はいる冒険者と心配そうな職員たちだった。


「子供の救出に成功しました」

「「「「「やったーーーーー!」」」」」」


 『エリシオンの灯火』の少年救出劇は、大きな喝采を受けた。

 冒険者たちに囲まれ、質問攻めにされ、もみくちゃにされた。


「子供はどうしたんだ。無事か? おお、そいつぁお手柄だな」

「お前らも一端になってきたなぁ」


 多くの人が労ってくれる。

 恐らく無理をさせたという負い目もあるのだろう。


 優馬たちは笑顔を返してはいるが、実際は疲れ果てている。

 緊急依頼の結果報告じゃなければ、ギルドに立ち寄りはしない。



 それに気づいたのフィオナだ。

 後ろに控えていたミランダに合図を送る。


「すいません。開けて下さい」

「あっ、フィオナ。これが救出の依頼報告書です。両親に子供を届けて村長の完了印ももらってあります」

「ご苦労様。大変だったようですね。その様子では……いえ、申し訳ありませんが奥の会議室までお願いします。マルナーの状況について、確認したいこともありますので」


 これ以上、何をやらされるんだ、とげんなりするが、そう言われては仕方がない。

 優馬たちは冒険者たちから解放され、ギルドの事務室の奥にある会議室に入って行った。


 少し遅れて、フィオナが入ってくる。

 お茶の用意をしたミランダを連れて。


「えーと、フィオナ。何を報告すればいいんですか?」

「いえ、あれは方便です。お茶をお出ししますから少し休んでいて下さい。落ち着いたら裏口から帰って結構ですので」

「はっ?」

「他の冒険者の皆さんのところに戻りたいですか?」


 三人は首をブンブンと横に振る。

 このまま戻れば、間違いなく祝杯と称してずっと酒の席に付き合わされることになる。

 それだけは避けたい。


「あの……ありがとうございます」

「いいえ。本当に今回は無理をさせました。ギルドの方こそ感謝しなければ……それで、本当に怪我はないんですよね」

「はい。擦り傷程度はありましたけど、それもミリアに治癒してもらいましたので……それとあのロープ役に立ちました。ありがとうございます」


 それを聞いたミランダがにこやかにお茶を配っている。

 自分が贈ったロープを活かしてもらったことが嬉しいのである。


 フィオナはそれを微笑ましく見届けると。


「私は別室に控えていますので」


 そう言って会議室を後にし、職員控え室に向かった。

 ここで窓口に戻れば、冒険者から優馬たちはどうしたと詰め寄られるに決まっている。

 彼らが帰るまでは待機だ。



 一方、三人は会議室でひとごこちつくと散木帯での戦闘を振り返り始めた。


「今回、一応子供は助けられたけど……」

「うん。大手を振って成功とは言えないね」

「かなりギリギリだったと思う」



 確かに作戦は成功した。

 もっとやれると思っていた。悔しさばかりが募る。


 日頃の訓練の成果がこんなものでは……


「よし、決めた。『エリシオンの灯火』はスピード特化パーティを目指す!」

「どういうこと?」

「この前、フィオナさんに『もう少し上を目指さないか』って言われただろ。あれからずっと考えていたんだ」

「詳しく聞かせてくれる?」


 優馬がボーッ、としていたのは今後のパーティの方針を考えていたからだ。

 初級を卒業して、中級パーティとして認められるためには強さと信頼と実績が必要になる。


 『エリシオンの灯火』のは実績ばかりが先に積み重なっている。

 強いパーティかと言われれば「はい」と答える人は少ない。

 メンバーは軽量級。中型以上の魔物と対するには火力も防御力も足りない。


 信頼を得られる仕事としては、護衛などがあるが若さと人数の少なさが問題となる。

 華奢だという先入観が染み付いていて、依頼してくる商人がいないのが現状だ。


「スピードが重要なんだ。機動力と剣技の両方にスピードがあればパワー不足は解消できる」

「手数で押すこともできるし、一撃の威力もかなり上昇するね」

「防御力もそうよ。何も体の強さや大きさで決まるものではないもの。攻撃が当たらなければいいし、打たせないことも重要だと思う」

「うん。ミリアなら『聖魔の守護(ノクス・パラディア)』がある。いざと言うときは受け止めることだってできるしね」


 どうやら思いは同じ。

 けれども、それはお互いにとって意外なことでもあった。


「今、盗賊(シーフ)の勉強をしてるんだ。スピード上げようと思ってたとこ。隠蔽を使って敵から隠れることもね。優馬こそどうなんだい? 最初は戦士志望だったじゃないか」

「僕も同じさ。バックラーの使い方は上達したけど、鉄製にしたり大楯を持つことは考えてないもの。それに冒険者になる前から逃げ足は早いのさ」

「あはは、確かに」

「ウフフ、そうね」


 三人は自分たちの進む道を見つけた。

 中級冒険者として認められるためにスピード特化パーティを目指す。


 優馬はオーソドックスな軽戦士として進化。

 強化されたバックラーを操り敵の攻撃を受けず、巧みにいなす。


 アルンはシーフの技術を取得して斥候役を兼ねる。

 隠蔽の力で敵に場所を悟らせない。


 ミリアは治癒と攻撃魔法を操る回避盾として。

 いざとなれば『聖魔の守護』で受け止めることもできるのが強みだ。


 共通しているのは、それぞれが高度な守りの手段を持っていること。

 だが、実現するには訓練が必要である。


「それでさ、訓練の場所なんだけど……」

「あそこだよね」

「うん、あそこしかない」

「OK。僕もそれしかないと思っていたんだ」


 具体的な名前こそあげなかったが、それがどこであるのかは言わずもがなであった。

 翌日、スピード特化パーティへの特訓のため、ある場所に集合した。



 マルナーの散木帯。

 ビーモンキーにリベンジである。


「そっち行った? うわっ、戻ってきた」

「あっ、クッソ。叩かれたぁ」

「キャー。髪引っ張るのダメーーっ」


 ロープを張らずに、渡り合おうとしたが散々な目に。

 猿たちは二度目ということもあり、何も恐れず向かってくる。


 至る所で不意打ちにあう『エリシオンの灯火』。スピード勝負で勝つことができていない。

 結局、数時間訓練を続けたが、初日は猿たちに弄ばれただけだった。


「あーー、悔しいわぁ。避けるどころじゃなかったし」

「隠蔽が効かない。ずぅーと場所を特定されてたよ」

「盾を出して防戦一方じゃーね。勝負にならない」


 連日の訓練で、身体中がすり傷だらけ。

 その過酷さに、メンバーは途中で何度か根をあげかける。


「これ、本当に冒険者がやることかなぁ」

「違うよ……。違うけど、これやってみたいと思ったんだよ。アルンは辞めたい? ミリアはどう?」

「僕は……。やるよ。やっぱりやる」

「私もここで引き下がるつもりはないわ」


 ここで踏みとどまったのが大きかったのだろう。


 その苦労は四日目にして効果を表し始める。

 訓練を続けた三人は猿のスピードに慣れ始めたのだ。



 一週間後。


「よーし、完全に見切ったぞ。十分あしらえる。おっ、アルン。そっち行った」

「OK。お前、見えないよな。そうそう。足元がお留守だよ」


 優馬がバックラーでビーモンキーの攻撃を完全に防ぎ切る。

 無理とわかった猿どもは、アルンを見つけることができない。

 隠蔽スキルの修行の成果は確かである。


 ウキッ? キィィィィーー


 アルンの影の一撃を避けられず、足元を掬われて落下していく。


 最も上達したのはミリアだろう。

 猿の攻撃を完全に見切り、ギリギリでかわしているのだ。


 軌道を変えて投擲しても、手のひら大の小型『聖魔の守護』で防ぎきる。


 ギッ、ウギッ

 ギャッ、ギャァァァ


 石つぶてが当たらず、苛立つ猿。

 ミリアに近づいた途端、『聖魔の守護』のシールドバッシュを喰らう。

 見えない盾の大ダメージに戦意を完全に喪失したようだ。


「こんなものかな」

「もう、ロープは使わない?」

「ああ、それがあったわね」


 さらに高いレベルの訓練を自らに課す優馬たち。

 命綱がわりのロープをプロレスのリングのように使い始める。

 ボロボロで帰ってきた緊急依頼の根本原因を克服しようと言うのだ。


「よっと。反動を利用してもスピードになれればどうにかなるな」

「体をぶつけないで、膝でリズムを取れば跳ね返りをコントロールできるわ」

「僕は思い切ってぶつかる時は盾を使うのもありかな」



 晴れて猿たちを凌駕したが、この散木帯でやることはまだ残っていた。


 より大きなマルナーの木にはたくさんの猿どもがいるのだ。

 優馬たちは来る日も来る日も訓練を続け、五匹、十匹と頭数の多い猿たちと渡り合っていく――



 ある日、ある中堅冒険者がマルナーの散木帯にやってきた。

 彼はビーモンキーの調査を定期的に行っていて、人里近くに猿が来ないかを確認しているのだ。


 そこで、目を疑うような光景を目にする。

 少年二人と少女一人が、最も猿の多いマルナーの大木で襲われているのだ。


「お前たち、大丈夫か! すぐに助けを呼んでくる! それまで無事でいろよ!!」


 切羽詰まったようなその中堅冒険者の声は、残念ながら優馬たちにはほとんど届かなかった。

 三十匹もの猿の鳴き声でかき消されていたからである。


「ねー、なんか聞こえた?」

「人の声だったような気がする」

「何か用事があったのかなー」


 猿と格闘しているにも関わらず、呑気にそんなことを話していた。

 血相を欠いて走っていく中級冒険者の姿を見ることなしに。



 数時間後。

 八人のベテラン冒険者がマルナーの散木帯に駆けつけた。

 若い冒険者が襲われているという緊急依頼によって。


 最も危険なマルナーの大木にいる三十匹のビーモンキー。

 ベテランパーティーでさえ手を焼く相手である。



 だが、恐る恐る近づいていくとどうも様子がおかしい。

 襲われているはずの少年少女は自由自在に木の間を飛び回っている。


 キリキリ舞をしているのはどうやら猿の方だと気づいた時は、驚いて開いた口が塞がらなかった。


「こんにちわー」

「あっ、お疲れ様でーす」

「そこ、あんまり近づくと猿が石ぶつけてくるから危ないですよー」


 完全に慣れ切った『エリシオンの灯火』の三人はベテラン冒険者に気付いて挨拶をした。

 救援にきた冒険者の位置は遠く、それが優馬たちであるとはわからないようだ。


「あれ、もしかして『エリシオンの灯火』の坊主たちじゃないですか」

「えっ……あー、確かに。あいつらかぁ」


 冒険者たちには目の前の光景が信じられない。

 猿たちの攻撃は続いているが、それを余裕でかわし反撃さえ返しているのだ。


「ああ、もうこいつらは構ってもしょうがない。ギルドには問題なしと報告する。帰るぞ」


 しばらく呆然とした救助パーティーのリーダーは、我に返ったようにそう言い残し、立ち去ったのである。



 後日、ギルドに『エリシオンの灯火』の三人は呼び出された。

 窓口に行くと珍しくフィオナがお冠である。


「あなた達ねぇー。訓練をマルナーの散木帯でやる、ってどういうつもりなの?」

「あー、スピードの訓練にちょうど良かったもんで」

「それがどれ位危険なことかわかってる?」

「そりゃ、もちろん。最初はあの三匹しかいない木から始めて、一番大きな木まで行くのに一ヶ月くらいかかっちゃいましたもん」

「いっ、一ヶ月? あなたたち毎日、あそこに行ってたの!?」

「はい」

「…………」


 呆れ果てたフィオナは、それ以上何も言わなかった。

 翌日、カルディアの冒険者ギルドでは一枚の通達が張り出された。


 “マルナーの散木帯で『エリシオンの灯火』を見かけても報告不要とする”


 ほとんどの冒険者がそれを見て訝しげな顔をしている。


 「どうせ『エリシオンの灯火』がすることだしな」と誰も取り合わなかった。

 いつも妙なことをやらかすパーティとして名が売れて(?)しまったのである。




 その翌週。

 久々の『エリシオンの灯火』と『暁の守護者(B)』の模擬戦が行われた。


「優馬。久々に揉んでやるよ」

「お手柔らかに」


 初戦は以前のようにカイは見学。

 ベルナールが指示を飛ばし、牽制しながらレオンとリュークが攻撃というパターン。


 『エリシオンの灯火』のスピードレンジは以前とはまるで違っている。

 レオンとリュークへの指示をしようにもアルンとミリアの牽制が早く、ベルナール自身が一撃を喰らいかねない有様である。


 結局、レオンとリュークはバラバラな攻撃を繰り返し、優馬に一本取られて終了。


「こりゃ行けませんわ。カイも入って下さい。四対三になりますが、優馬さん構いませんか」

「はい。いいですよ」

「なんだとぉ、優馬。調子に乗るなよぉ。俺が入ってもさっきみたいに勝てると思ってんのか」


 再度、模擬戦が行われたが結果は一緒だった。

 今度はカイがいる分、ベルナールは指示を落ち着いて出すことができたのだが、基本的にスピードのレンジが違いすぎてレオンもリュークも効果的な攻撃体制が取れないのだ。


 カイの動きは前とは違っていた。

 その剣捌きには磨きがかかり、優馬は打ち合わせた木刀を取り落としそうになる。


「あいかわらず……いや、今まで以上に重い剣だな」

「舐めんなよ。優馬たちだけが成長してるわけじゃねーぞ」

「肝に銘じよう」


 アルンとミリアに目配せをする。

 入れ替わり立ち替わり、相手を変え、タイミングを変え、カイ達に波状攻撃を仕掛けた。


「ウッ……こ、このおぉぉぉ!」


 大きく振りかぶるカイ。

 だが、いくら練習を積んでも、人の欠点はこう言う勢い込んだ時にこそ、出やすいのだ。


 前にツッコミ過ぎたところをアルンとミリアに挟撃されて、手痛い一撃を喰らって離脱。

 レオンとリュークだけではお手上げである。


「これは歯が立ちません。『エリシオンの灯火』の御三人は随分強くなられましたな」

「ベルナールさん。こいつらたまたま今日調子良かっただけですよ。次は……」

「カイ。相手の強さを認めることも大事ですよ」

「……わかったよ」


 このことで『エリシオンの灯火』はすでに初級冒険者の域を脱していることがギルド中に知れ渡ったのだった。


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