↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/60

第43話 Breakthrough(2)

 マルナーの散木帯に耳障りな猿の鳴き声が響く。

 一番手前の木の根本には怯えた子供がいる。

 今回の作戦はその子供を無事、連れ帰ることである。


 まずは、ミリアが派手な魔法を木のてっぺんで爆発させた。


 ドドォォォン

 ギィッ、ギーーーー


 音ばかりが大きく殺傷能力は高くない。討伐を目的とはしていないからである。

 鳴き声は小さくなっている。猿たちを怯えさせることに成功した。



 その隙に優馬が子供の元に辿り着いた。


「助けに来たよ。大丈夫か」

「うわぁぁ、怖かったよぉぉぉ」


 だが、連れて行こうとすると石が飛んでくる。

 慌ててバックラーで防ぐ。

 当たる石の音が重い。



 フィンが風の結界を張った。

 投げた石が弾かれている。猿は優馬に攻撃しようと躍起になっている。


(助かったよ。これ、どれくらい持つ?)

(あまり長くは持たん。子供だけなら何とか)



 一戦交えるしかないか……


(仕方ない。ちょっとこの子を見ておいてくれるか。一旦、上で猿ども牽制する)

(あい、わかった。任せておけ)



 優馬は、当初の計画通りに木によじ登り始めた。

 ミリアとアルンもそれに続く。


 中層に猿の投石の死角がある。

 そこに足場を築く。


 これで、優馬の立てた救出作戦が実行できる。

 鍵はビーモンキーの無力化である。


 勝利条件は「頭から連続攻撃で怯ませ、おとなしくさせた隙に子供を連れ帰る」こと。



 しかし、三人の求めているところはもう少し上にある。

 ここ二週間、修練を重ねてきた結果を見せることだ。


「それじゃあ、手筈通りいくぞ」



 まずは、アルン。


 “ベルナールさんから授かった技を試すいい機会だな”


 そうひとりごちて、ゴクリとツバを飲み込んだ。

 シーフの修行で得た全てを使い、自分自身の姿を魔物の認識から外すことに成功した。


 わずか50cmのところにいてもビーモンキーはアルンを発見できない。

 そこで、ナイフを逆手に持ち、柄の部分で真横にいる猿を殴りつける。


 切り裂いて一気にケリをつけることも考えたが、仕留め損なった場合は厄介だ。



 ギャッ!? ギギ?


 どう殴られたのかも分からず、猿は混乱している。

 周りを見渡すが、アルンの姿はすでにそこにはない。


 アルンは殴った後、すぐ死角に入り込み、隠蔽をかけ直して姿を隠した。



 ミリアは足腰の鍛錬を重ねてきた。

 相手は二匹。ビーモンキーは、経験上、女は男より力が劣ると知っている。


 ミリアに対しても組し易しと考えているのだろう。


 “見てなさい。後ろにいるだけの神官は卒業するんだから”


 そう呟き、大胆な作戦の一歩を踏み出す。

 

 見える範囲に猿は二匹。現状は数的不利。

 自分からは手出しすることは難しく、ミリアは次第に防戦一方となり徐々に追い詰められていく。


 ビーモンキーの空中で方向を変える能力と高機動についていけず、後ろは木の幹、逃げ場はない。



 ミリアに二匹のビーモンキーが同時に襲いかかる。

 その凶悪な爪が彼女の首に突き刺さると思った瞬間。


 吹っ飛んだのは猿の方だった。

 勢いのついた体を目に見えない何かに強かに打ち付け、一匹は激痛に声をあげて落下した。

 もう一匹は何が起こったか分からず、右往左往しながら猿たちは他の二人へと向かう。


 『聖魔の守護(ノクス・パラディア)』による手痛い反撃により、猿たちの戦意は削がれた。



 優馬は落ち着いて、アルンとミリアの戦いを見ていた。

 今度は自分の出番である。


 “これなら、やれるかも知れない”


 優馬にも今回の戦闘で試して見るべき新しいスキルがあった。


(フィン、アレをやってみたいんだけど)

(まだ練習中のはずだが……まあ、やってみるがいい)

(りょーかい)


 それは、エルフィナとの特訓で掴んだ魔法のバリエーションである。


 すでにリーヴァス・アルタが効くことはわかっている。

 それを、戦闘中にステータス画面を消すことなく継続しようと言うのだ。

 

 思考により変化する “あっちへ行きたい”、”こっちから攻めたい” という魔物の思考の欠片を掴み取り、先回りや反撃を可能にする。

 猿は最も人間に近い動物と言われているところからも、今回は絶好の機会である。


(『リーヴァス・アルタ』)


 アルンとミリアを追い越して、木の上層に向かう。


 視界に猿の姿とステータスが同時に広がり、動きとステータスは同期しているのが確認できた。

 これを見れば、確かに猿がどこを攻撃してくるか丸わかりのはずだった。


 しかし――


「あ痛っ!!………つぅぅぅぅ」

「どうした。優馬」

「大丈夫?」


 いきなり大声を上げた優馬にアルンとミリアが反応する。

 問題ないと手をパタパタ振る優馬。


「不意打ち喰らっちまっただけ。大したことないよ」


 二人は胸を撫で下ろす。

 優馬は「こりゃあ、練習が必要だなあ」と言いつつスルスルと降りて、中層の枝の影に隠れた。


 注意力が散漫になっていた。

 ステータス表示は視界を削る邪魔な存在でしかない。

 バックラーを構えてステータスを解いた。


(まだ、無理みたいだ)

(仕方ない、また今度だな。少し安め。幻術を展開しておく)


 フィンも今回のお試しは失敗と感じたようだ。

 猿の追撃を受けないように幻術で木のあちらこちらに優馬の姿を写す。


 キッ? ウキッ? ギィィィーー!


 猿は優馬がまだ木の上層にいると思い込み、幻影を追いかけ石を投げつけた。

 ところが当たったと思ったところで姿は消え失せ、別の幹にまた優馬の姿が現れる。


 猿たちは躍起になっている隙を見て、ミリアが降りてくる。


「キュア」


 優馬の背中に光が広がり、傷が癒えていく。


「助かったよ。全くドジ踏んだもんだ」

「大丈夫? 優馬、無理しないで」


 すでに作戦が始まって30分が経過。

 優馬は失敗した。アルンとミリアは猿を混乱させはしたが、そこまで。

 安全に子供を連れ帰るのは無理。



 今は膠着状態である。


「退治はできないよね」

「無理だと思うわ。強引にやれば、ヤケになって子供を襲ってくるかも」

「となると、ある程度圧倒して引かせるしかないけど………優馬、何かある」

「あるよ」


 そう言って優馬はロープを出した。

 アルンの張ったロープより遥に太く、丈夫で弾力性もある。

 アルンとミリアは一瞬、嫌な予感がしたものの黙って聞くことにした。


 その予想に違わず優馬が切り出した作戦はかなり独創的なもので、二人はその破天荒さに驚いている。


「それって月間ランキングの粗品だよね」

「そそ。かなり丈夫で耐久性は問題ない。あとは気合いで……ダメかな」

「いや、優馬らしいというか……俺はやるよ! ミリアは」

「私もOKよ。でも念のためロープにも能力拡張のバフを掛けておくわ」

「そりゃ、助かるな」


 ロープには元々弾力性があるが、ミリアの魔法でさらに拡張することができる。

 優馬は魔法拡張により弾力性を強化したロープの反発力を確認すると満足そうに二人に合図する。


 優馬の合図で三人はいきなり木の下に飛び降りた。

 子供を連れて逃げると思った猿たちが猛然と追いかけてくる。


「それじゃあ、ロープに飛ぶぞ」

「「おう!」」


 それからの三人の動きはムチャクチャだった。 

 ロープは、緊急回避用に張るはずのもの。


 あくまでセーフティ。

 猿の空中機動を抑制効果はおまけであり、本来は命綱であることは変わらない。


 ところが、優馬のロープ作戦はそれを一変させた。

 体をロープにぶつけ、その反動で猿に取って想定外のスピードを得る。


 ミリアの魔法で拡張されたそれはまるでプロレスのリングのようであり、バンジージャンプのゴム製命綱のようでもある。

 体をぶつければロープは三人の体を強力に押し返してくれる。

 それに乗じて優馬はショートソードで、アルンはナイフを連投、ミリアも魔法の見えない盾で近寄ってくる猿を弾く。



 猿たちは至る所で不意打ちにあっていた。

 剣や杖だけでなく、見えない盾や冒険者の防具、考えられないタイミングとスピードで手痛い一撃を喰らうのだ。


 もとより人と猿では体格差がある。

 打ち合えば自然に押し込まれるし、思わぬ所で衝突が起こるせいで、どう対処していいのかわからないのだった。


 だがそれは、『エリシオンの灯火』の三人にとっても諸刃の剣だ。

 制御できないスピードに手を痛め、減速が間に合わず猿に体当たりする羽目に。


「これ、いつまで続けるの! もう私傷だらけよ」

「確かに。これ、厳しいよ。さっき猿の腕蹴飛ばしたけど、こっちもアザになってるかも」



 だが、作戦はついに効果をあらわす。

 連戦に疲れた猿たちが引き始めたのだ。


 ウッ、ウキー


 猿たちは悔しそうな声をあげるが、もう石を投げることも諦めている。


 散木帯の外に出た。子供は無傷。

 優馬たちは成功したのだ。


「お兄ちゃんたち、ありがとう」

「良かったわね。怪我はない」

「大丈夫。でも……お姉ちゃんたちの方がボロボロだね」

「私たちは大丈夫よ。大きな怪我はしてないし」


 ミリアの治癒魔法のおかげで、怪我は癒えた。

 だが、その子供が指摘したのは、ボロボロになった三人の衣服と装備だった。


「そう…………だね」


 指摘しない方がいいと気づいたらしい。

 ミリアの目は怖かったし、アルンと優馬は不自然なぐらいの笑顔を称えていた。


 “ワタシタチ ハ ダイジョウブ ダカラ ネ”

 という無言の圧力を受け取っていたのだ。


 結局、他愛もない会話を続け、子供は無事、村に送り届けられたのである。



「母ちゃん」

「坊」

「怖かったよぉぉぉ」


 子供は母の元に戻っていく。

 入れ替わりで、一人の老人が優馬たちに頭を下げる。


「村長です。子供を助けて下さりありがとうございます」

「いえ、冒険者としての仕事をしただけです」


 ゾゾ村は沸き返り下にも置かない扱いで、大きな歓待を受けるところだったが三人は村を辞した。



「優馬。あの作戦は今度から辞めにしない?」

「そうだなあ。確かにロープにぶつかるの痛いしなあ。でも方向性はいいと思うんだよ」

「いや、そう言うことじゃなくってさ……」

「諦めなさい、アルン。きっと優馬はやる気よ」

「だよねー」


 今回の依頼は成功した。

 微妙な結果を招いたロープの作戦は考慮の余地があるが……



 それについてのアルンとミリアの意見は一致している。


”優馬はきっと味を占めている。また何かやらかしそう”


 三人のうち一人は満足して、後の二人は戦々恐々としながら、カルディアへの道を戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。