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第39話 ランキングと修行(2)

 今月の月間ランキングが張り出された時、『エリシオンの灯火』はその順位に満足していなかった。

 だが、それとは裏腹に、彼らの順位は高すぎると感じている者たちもいたのである。



 時は、数日前にさかのぼる。


 冒険者ギルドの2階の一室、冒険者立ち入り禁止区域。

 中では毎月行われているギルド定例会議が行われていた。出席者はギルマスと職員幹部、窓口と解体及び外回りの営業員。その冒頭でギルド管理担当の上級職員からある意見が発せられた。


「この総合6位。『エリシオンの灯火』は高すぎるのではないか。聞けば、新人3人のパーティだと言うではないか」

「確かに。若手のホープとして期待されているのはわかりますが、ちょっと査定が甘いんではないでしょうか」


 往々にして窓口担当は冒険者よりの意見になりがちだ。

 臨機応変で、革新的なものを支持する傾向が高い。何よりギルド内で冒険者に一番接している。


 それに引き換え、管理担当はギルドの利益優先の意見が多い。

 保守的であり、新しい冒険者に対して懐疑的だ。


 窓口の担当の1人として出席していたフィオナは、そういう意見が出るだろうと予想していた。

 そこで、あらかじめ全員に資料として『エリシオンの灯火』の月間活動記録を用意し、配布していた。


「それは担当職員のフィオナに聞いてみようじゃないか」

「ですが、ギルマス。担当の意見は冒険者に甘くなりがちです」

「キリウス。まあ話を聞いてからでも遅くはあるまい」

「ギルマスがそうおっしゃるなら……チッ……」


 キリウスは運営管理の責任者である。

 窓口担当の説明など聞く気がなかったのだが、ギルドマスターであるロイに言われては仕方がない。フィオナを一瞥して舌を鳴らす。不満を隠そうともしない。「何か言いたいなら言えばいいだろ」とでも言わんばかりに席に座ってふんぞり返っている。


 ギルマスはそれを苦笑しながら見ていたが、合図を送った。

 それを受けてフィオナは一礼して発言した。


「まず、お手元の資料をご覧下さい。『エリシオンの灯火』の活動記録になります」

「随分と多いが、これは何ヶ月分なのかね」

「これは先月の1ヶ月分です」


 その一言で全員の顔色が変わる。

 ある者は嘘ではないかという疑いの目を。

 ある者は資料をめくり、達成した依頼内容を確認して言葉を失っていた。


「この内容に間違いはありませんか」

「はい。依頼の受付から達成に至るまで私がチェックしました。間違いありません」


 キリウスは自信を持って話すフィオナに少しイラついていた。

 彼も若い頃は窓口で冒険者を担当していたのだ。だが一番信頼していた冒険者に裏切られた。

 ギルドからの貸与品を持ち逃げされ、それ以前にあげた成果も他のパーティーの上前を跳ねて得ていたものだったのだ。


 その一件からキリウスは人が変わったように冒険者と対するようになる。

 フィオナをまるで過去の自分を憎むような目で見ていたのだ。


 “ 冒険者の立場に立っても良いことなど何もない”


 今やこれがキリウスの信念である。

 冒険者に寄り添う窓口担当の存在など許せるはずがなかった。


 用意された資料を「何か問題はないか?」と目を皿のようにして睨みつける。

 書いてある内容に間違いがなくとも、冒険者として問題を抱えていることはある。キリウスは自分が元窓口担当である経験を活かして資料を追い続け、その成果が多すぎることに気づいた。


「この数字はありえません。この程度の難易度では、いくら大量に仕事をこなしてもこの成績が出せるはずがないからです。寝る間も惜しんで仕事でも受けたのでしょうか。そうだとすれば、過労の問題がありますし、警告としてランキングを落とす必要があると思われます」

「『エリシオンの灯火』の労働時間が心配だと?」

「そ、そうだ!」


 キリウスはしまったと思った。

 別に『エリシオンの灯火』などこれっぽっちも心配などしていない。冒険者と懇意にしているギルド受付が気に入らないだけなのだ。まさか、切り返されるとは思わなかったのである。

 フィオナはキリウスの意図に気づいたが、敵対するつもりはない。


 そこで、穏便に済ませるように話を続けることにした。


「ランキングを下げることが冒険者を心配することにはならないと思います。確かに『エリシオンの灯火』の依頼受注量は多い。少し、ペースを落とすように指導することにします。貴重な意見をありがとうございました」


 鼻白らむキリウス。頭を振る管理担当の職員たち。どうも指摘するには弱かったようだ。

 ほとんどの上級職員は「騒ぐほどのことではない。大したことはないだろう」と捉えている。

 キリウスの思惑は明らかに外れ、失敗に終わった。


 だが、若手の冒険者の台頭を疑うものはキリウス以外にもいる。

 その中の一人が「この書類本当に信用できるのか?」と疑問を持ち、ある事実に気づき手をあげた。


 管理担当のドロテア女史だ。


 彼女は公平に仕事をしているつもりだが、かなり偏った思考の持ち主で、周りからはキリウスの腰巾着だと思われている。

 ロイはそのことを知ってはいるが、おくびにも出さなかった。


「ドロテア、何かあるのか?」

「はい。16ページの記載に間違いがあるようです。同じ日付で一日仕事が二つ達成されています」


 キリウスは内心「でかした」と、思った。

 これは致命的なミスだ。


 だが、窓口や解体担当の職員は『エリシオンの灯火』がどういうパーティかを知っている。

 つまりこれがミスなどではないことを。


「ああ、キルストンの灌漑工事の警備とフェノメナの採取ですね。それは確かに同日達成していますよ。彼らは午前中に工事のミスが見つけて監督に報告しました。工事は一旦中止になり、3時ごろまで時間が空いてしまったんですよ。そこで『空いた時間にできることは』と彼らがギルドに戻ってきたんです」

「ですが、フェノメナは山の崖沿いに生える苔の一種で探すのに時間がかかるはずです。そんな昼の時間では見つけることはできないと思いますが」

「ええ、私もそういって止めようとしたんですが彼らは『その苔ならトレーニングの途中で見たことがある。一時間以内にとってこれる』と言うので、図鑑の名前を伏せてどれがフェノメナか当てさせたんです」

「結果は」

「迷うことなくフェノメナを見つけました。私は採取の許可を出したのですが、本当に一時間以内に彼らは仕事をやり遂げ戻ってきました。

そしてその後、工事の再開までにキルストンに戻り警備をやり終えたんです」

「なるほど、了解しました。しかし、フェノメナの植生区域の近くでトレーニングを行っているのは信じられませんね」

「はい。それについて注意をすると『次からは命綱をつけるようにする』と言ってました」

「えっ、それまでは命綱なしで!?」


 時は、数日前にさかのぼる。



 冒険者ギルドの二階の一室、冒険者立ち入り禁止区域。

 中では毎月行われているギルド定例会議が行われていた。出席者はギルマスと職員幹部、窓口と解体及び外回りの営業員。その冒頭でギルド管理担当の上級職員からある意見が発せられた。


「この総合六位。『エリシオンの灯火』は高すぎるのではないか。聞けば、新人三人のパーティだと言うではないか」

「確かに。若手のホープとして期待されているのはわかりますが、ちょっと査定が甘いんではないでしょうか」


 往々にして窓口担当は冒険者よりの意見になりがちだ。

 臨機応変で、革新的なものを支持する傾向が高い。何よりギルド内で冒険者に一番接している。


 それに引き換え、管理担当はギルドの利益優先の意見が多い。

 保守的であり、新しい冒険者に対して懐疑的だ。


 窓口の担当の一人として出席していたフィオナは、そういう意見が出るだろうと予想していた。

 そこで、あらかじめ全員に資料として『エリシオンの灯火』の月間活動記録を用意し、配布していた。


「それは担当職員のフィオナに聞いてみようじゃないか」

「ですが、ギルマス。担当の意見は冒険者に甘くなりがちです」

「キリウス。まあ話を聞いてからでも遅くはあるまい」

「ギルマスがそうおっしゃるなら……チッ……」


 キリウスは運営管理の責任者である。

 窓口担当の説明など聞く気がなかったのだが、ギルドマスターであるロイに言われては仕方がない。フィオナを一瞥して舌を鳴らす。不満を隠そうともしない。「何か言いたいなら言えばいいだろ」とでも言わんばかりに席に座ってふんぞり返っている。


 ギルマスはそれを苦笑しながら見ていたが、合図を送った。

 それを受けてフィオナは一礼して発言した。


「まず、お手元の資料をご覧下さい。『エリシオンの灯火』の活動記録になります」

「随分と多いが、これは何ヶ月分なのかね」

「これは先月の一ヶ月分です」


 その一言で全員の顔色が変わる。

 ある者は嘘ではないかという疑いの目を。

 ある者は資料をめくり、達成した依頼内容を確認して言葉を失っていた。


「この内容に間違いはありませんか」

「はい。依頼の受付から達成に至るまで私がチェックしました。間違いありません」


 キリウスは自信を持って話すフィオナに少しイラついていた。


  “冒険者の立場に立っても良いことなど何もない”


 これがキリウスの信念である。

 冒険者に寄り添う窓口担当の存在など許せるはずがない。



 用意された資料を目を皿のようにして睨みつける。

 内容に間違いがなくとも、問題がないとは限らない。


 彼は元窓口担当である経験を活かして資料を追い続け、一つの事実に気づく。


「この数字はありえません。この程度の難易度では、いくら大量に仕事をこなしてもこの成績が出せるはずがないからです。寝る間も惜しんで仕事でも受けたのでしょうか。そうだとすれば、過労の問題がありますし、警告としてランキングを落とす必要があると思われます」

「『エリシオンの灯火』の労働時間が心配だと?」

「そ、そうだ!」


 しまった、と思った。

 別に『エリシオンの灯火』などこれっぽっちも心配などしていない。冒険者と懇意にしているギルド受付が気に入らないだけなのだ。まさか、切り返されるとは思わなかったのである。

 フィオナはその意図に気づいたが、敵対するつもりはない。



 穏便に済ませるように話を続けた。


「ランキングを下げることが冒険者を心配することにはならないと思います。確かに『エリシオンの灯火』の依頼受注量は多い。少し、ペースを落とすように指導することにします。貴重な意見をありがとうございました」


 鼻白らむキリウス。頭を振る管理担当の職員たち。どうも指摘するには弱かったようだ。

 ほとんどの上級職員は「騒ぐほどのことではない。大したことはないだろう」と捉えている。

 思惑は明らかに外れ、失敗に終わる。



 だが、若手の冒険者の台頭を疑うものはキリウス以外にもいる。

 その中の一人が「この書類本当に信用できるのか?」と疑問を持ち手をあげた。


 管理担当のドロテア女史だ。


 彼女は公平に仕事をしているつもりだが、かなり偏った思考の持ち主で、周りからはキリウスの腰巾着だと思われている。

 ロイはそのことを知ってはいるが、おくびにも出さなかった。


「ドロテア、何かあるのか?」

「はい。十六ページの記載に間違いがあるようです。同じ日付で一日仕事が二つ達成されています」


 キリウスは内心「でかした」と、思った。

 これは致命的なミスだ。


 だが、窓口や解体担当の職員は『エリシオンの灯火』がどういうパーティかを知っている。

 つまりこれがミスなどではないことを。


「ああ、キルストンの灌漑工事の警備とフェノメナの採取ですね。それは確かに同日達成していますよ。彼らは午前中に工事のミスが見つけて監督に報告しました。工事は一旦中止になり、3時ごろまで時間が空いてしまったんですよ。そこで『空いた時間にできることは』と彼らがギルドに戻ってきたんです」

「ですが、フェノメナは山の崖沿いに生える苔の一種で探すのに時間がかかるはずです。そんな昼の時間では見つけることはできないと思いますが」

「ええ、私もそういって止めようとしたんですが彼らは『その苔ならトレーニングの途中で見たことがある。一時間以内にとってこれる』と言うので、図鑑の名前を伏せてどれがフェノメナか当てさせたんです」

「結果は」

「迷うことなくフェノメナを見つけました。私は採取の許可を出したのですが、本当に一時間以内に彼らは仕事をやり遂げ戻ってきました。

そしてその後、工事の再開までにキルストンに戻り警備をやり終えたんです」

「なるほど、了解しました。しかし、フェノメナの植生区域の近くでトレーニングを行っているのは信じられませんね」

「はい。それについて注意をすると『次からは命綱をつけるようにする』と言ってました」

「えっ、それまでは命綱なしで!?」


 管理部の新人ミランダが一人悲鳴のような声を上げ気を失い掛けた。

 入所時は外回り担当だったが、初仕事で山岳地帯に向かう途中に目を回して、管理部に転部させたという経緯がある。



「ミランダは小さな頃のトラウマでな」

「ですが、冒険者が命綱を付けなかったと聞いただけで、なんであそこまで」

「あー、高所恐怖症になった場所こそがフェノメナなんだ」


 ロイは、頭をかきながら説明した。

 どうやら、周りは納得したらしい。



 ミランダは何とか復活。周囲にペコペコと頭を下げる。


「し、失礼しました。……でも、あの崖を飛び回って苔の採取をするなんて信じられません」

「確かにお前にとってはそうかもしれない。だが、そういう冒険者がいることも覚えておけ」

「……はい」


 初仕事に失敗してクビになることも覚悟していた彼女を管理担当に転属させたのはロイだ。

 ミランダはギルドの仕事を続けていられることをロイに感謝している。


「ミランダ。『エリシオンの灯火』はランキング6位に相応しいと思うか?」

「わかりません。私には決してできないことだし怖くてその様子を見ていることさえできません。でも、だからこそそういう仕事をしてくれる若手がいるのはありがたいことなんじゃないかと思います」

「そうか」


 ミランダは着席した。

 遠くでフィオナが頭を下げている。どうやら『エリシオンの灯火』にもう一人味方の職員が現れたようだ。



 その後、会議は収束していく。

 確実に空気が代わり、優馬たちを非難する声は小さくなっていったのである。


 何人かは「なんと命知らずの新人冒険者なのだろう」と感じていたが、パーティのアラを探そうと思うものはなく、「すごい新人が現れたものだ」と好意的に受け取られていた。


 こうなっては誰も難癖をつけることはできない。

 依頼の達成状況に文句を言うものはゼロ。


 意見が出なくなったところで、ギルドマスターはこの件について締めることにした。


「これで『エリシオンの灯火』についての疑念は晴らされたと考えていいと思う。異議はあるか」

「問題ありません」

「何もないです」

「素晴らしい新人パーティだと思います」

「彼らの活動内容を支持します」


 全員が納得しているわけではなさそうだが、ここでは黙っていることにしたらしい。

 窓口の職員は当然という顔で、管理側の職員は渋々という顔つきで……


「フィオナ、ご苦労だったな。君は窓口に戻って良い。次の議題に移る」

「失礼します」


 フィオナは一礼して退席した。

 ロイは彼女が用意した資料をもう一度見ながら独りごちていた。


 “そういえば、アリシア様は今の腐敗した状況をどうやって解決するつもりなんだろう。こういう活きのいい連中が世の中を変えてくれると助かるのだが。この優馬なのか? まさかな”


 アリシアは別の世界から呼んだとロイに通知した。

 但し、それが優馬だとは伝えていない。


 一方、優馬もアリシアに依頼したのがロイだとは聞いていないのだ。

 それはアリシアの意思なのだろうか。


 いずれにしてもこの二人が手を取って腐敗に立ち向かうには、もう少し時間がかかる。




 後日、『エリシオンの灯火』はランキング6位の粗品をフィオナから受け取った。


「今月も6位ね。おめでとう」

「ありがとうございます……ん? 今月は二つありますね。何ですか、このロープ」

「それは命綱らしいわよ。あなたたちがそれなしに危険な崖で作業を続けていると思うと仕事が手につかなくなる職員がいるのよ」

「そうなんですか? よくわかりませんが、まあ有り難く使わせてもらいます。これでより修行に精を出せるな」

「「おー!!」」


 こうして、ミランダのトラウマから追加で粗品が加えられ、無事に優馬達のもとに渡ったのである。

 フィオナは「あーあ、これでフェノメナの修行が増えたら、またミランダは悩みそうね」とひとりごちた。

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