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第38話 ランキングと修行(1)

 カルディアの冒険者ギルドで一番活気のあるのは朝である。

 掲示板に新しい依頼が一斉に張り出され、より良い依頼を求め冒険者が殺到するからである。


 だがそれ以外にも、この掲示板に人が集まる時がある。

 月間ランキングが発表される時だ。



 冒険者ギルドでは、パーティーごとのランキングを月の初めに貼り出している。

 参加不参加は自由だが、大半のパーティーが参加。

 これは非公式なものではあるが、カルディアに限ったものではなく、大抵のギルドで行われている。


 その理由は二つあるが、その一番目は「競争心」、もう一つは「売り上げ」だ。


 冒険者にとって競うことは本能のようなもの。

 競争心を煽るこのランキングはある意味冒険者の「やる気スイッチ」として機能している。


 一方、売り上げはギルド経営についての問題である。

 この競走意識が冒険者を後押ししているのは事実であり、ダンジョンから得られる物資がギルドの財政を支えている。

 競争意識を過剰に煽りかねないこのランキングを続けたくはないが、経営上、赤字に対しては神経質にならざるを得ないのだ。



 優馬は初めてこのランキングを見た時、会社の営業部みたいだな、と思った。


(フィン、このシステムってかなりあざといよな)

(そうは言うが、優馬。お前も気にしているのだろう)

(まあね)


 このようなイベントで、活気が出れば売上も上がる。

 ギルド運営上ランキングは、止めるに止めることができない必要悪なのだ。

 優馬とて、これに意を唱えるつもりもない。



 『エリシオンの灯火』も当然ランキングに参加。

 今月の総合順位は2ヶ月連続で 6位。

 新人パーティーとしては破格の成績であり、ギルド内では有望株として注目されるに十分なものである。


 だが、パーティーの面々にとっては満足できるものではなかった。


「今月も六位かぁ」

「うーん、伸びないわね」

「それに、六位といっても獲得金額八位、貢献ポイント七位だからなあ、評価されているのは依頼数の四位と解体ボーナスの五位だもんな。これって『たくさん仕事して、解体でポイント稼ぎしてる』ってことでしょ」

「まあ、冒険者として正攻法、って感じは確かにしないわね」


 簡単に言えば、依頼を数多く、小さなことまできっちりこなして稼いでいるということ。


 だが、そうバカにしたものでもない。

 依頼の失敗はないから連続成功ボーナスポイントも貯まっているし、単に大物一発で大報酬がないだけでその活動戦績は立派なものなのである。



 実際『エリシオンの灯火』はどれくらいの位置にいるのか?

 カルディアで活動しているパーティは四十と言われている。


 その中で、ランキングに関連する常駐パーティーは十二。

 そのほかは、なんらかの理由で順位が低くなっている。

 

 もし、そういうパーティを含めた総合実力順位をつけた場合、『エリシオンの灯火』の順位はだいたい十二、十三番手ぐらい。



 案外低いな思うかも知れないが、結成三ヶ月のパーティーとしては立派な成果である。

 これで文句を言ってたら「新人パーティが烏滸(おこ)がましい」と怒られかねない。


 それは優馬たちも十分にわかっているのだ。




 一方、『エリシオンの灯火』よりも大きな不満を持っているパーティもいた。


「けっ、この順位。レオンはどう思うよ」

「まあ、妥当なところだと思うよ。だいたい、僕らだけじゃカウントされないのにムリ言って、入れてもらってるんだし……。リュークはどう思う?」

「僕はランキングに乗れるだけでも嬉しいよ。『漆黒の牙』はランキング掲載を辞退してたから」


 話しているのは『暁の守護者』のカイ、レオン、リュークの若手三人組である。

 自分の実力を試したいとギルドに掛け合い、『暁の守護者』の若手部門として特別にギルドの評価を計上してもらっているのだ。項目名は『暁の守護者(B)』であり、今月のランキングは十七位である。


 もちろん一番大きな不満を持っているのはカイである。


「でもさあ、あいつら六位だぜ。悔しくないのかよ」

「そりゃ、もう少し頑張らないととは思うけど、そもそもウチら三人の稼ぎと貢献ポイントを他の比べるのは無理があるよ」

「うん。リーダーは三人のランキングを掲載する条件として『査定が厳しめになるがそれでもいいか』って言ったんだし」

「まあ、そうなんだけどよ……」


 三人が冒険者ギルドに掛け合った時、ギルド側は却下するつもりだった。

 しかし、フェルハートの懇願により、ランキング対象としてもらえることになったのである。


 となると問題は計算方法である。

 実際の戦闘を見なければわからないこともあるし、ベテラン勢のサポートあっての討伐も当然ある。


 結局、リーダーのフェルハートからヒアリングをすることで落ち着いたのであるが、増長を招かないようにと三人の稼ぎの算出は厳しめになっており、順位的には毎月下位に低迷していた。



 リュークは不満を募らせるカイの気を逸らせるために、『暁の守護者(B)』から話題を変えることにした。


「でもさあ、僕は凄いと思うな。『暁の守護者』は今月も三位なんだもの」

「そりゃそうさ。うちは凄いんだ」

「フェルハート、ベルナール、サラサの三人の名前は、王都でも通じるって言ったぜ」

「うん。ここでずっと仕事をしているのも療養中のロデリックさんがいるからだしな。治ったらもっとあちこちで大きな仕事をするから、稼ぎだってもっと増える」

「それはいいけど……オレ、この町から離れたくないなぁ」


 不満は確かに治ったものの今度は心配そうにしている。

 カイはこの町の出身であり『暁の守護者』は町の誇りだと思っている。


 国中にパーティーの名前を轟かせたいとは思うが、活動はずっとこの町で、そんな風にずっと考えていた。



 するとそこに『エリシオンの灯火』の三人がやってきた。


「何の話してるの」

「カイがしょげてるんだよ。『暁の守護者』が他の町を拠点にするんじゃないか、って」

「別にしょげてなんかいねーよ!」


 ミリアは目をぱちくりして、カイを顔を覗き込む。


「カイは他の町に行くの嫌なの」

「嫌じゃねーけどよ……ミリアは平気なのか」

「ええ、平気よ。元々神官として近辺の町に行くことが多かったし。いろんな町に行くとそこの美味しいものも食べられるし」

「ふーん、そんなもんか」


 レオンもリュークも優馬も出身はカルディアではない。

 ミリアがダメなら、味方はいないわけだ。

 カイは白けてしまい、それ以上は追求しなかった。



 ミリアはアルンに呼ばれてフロアから地下の訓練場へと階段を降りて行った。


「あいつら、せいが出るなあ」

「でも二人だけか。優馬は?」

「ああ、優馬は例の特訓」


 レオンは首をクイっと向けてテーブル席を見やると、そこで躍起になっている優馬と先生役のエルフィナがいた。

 二人は連日、魔法の特訓をしているのだ。


「魔法の特訓、こんなところでやって大丈夫なのか」

「攻撃魔法じゃないからって、エルフィナさんが言ってたよ」

「ふーん。ずいぶん余裕じゃないか」


 ちょっとバカにした風に言ったのは訳がある。

 最近メキメキ上達しているミリアとアルンについては脅威を感じているが、優馬との模擬戦はこのところ連戦連勝なのだ。攻め手を増やされると厄介だが、そうでないならカイにとってどうでもいいのだ。


 だが、そんなことはつゆ知らず、優馬は真剣に魔法を唱えていた。


「優馬。それじゃあダメ。相手に気づかれるわ」

「うーん、難しい……。エルフィナさん。ステータスを相手に触れるか触れないかの領域で消すなんてできるんですか」

「やらなきゃ、今後ステータス使うの禁止よ」

「……わかりましたよぉ、やりますってば」


 今まで何の気なしに人のステータスを見る魔法を使っていた。

 大半の者が気にしてはいなかったが、ベテラン冒険者には何をしていたのかバレバレである。


 不躾な行為であり怒る人がいてもおかしくなかったのだ。

 今まで何もトラブルが起きなかったのは、このギルドの人たちが好意的に優馬達を受け入れていたからに過ぎない。


 憂慮したフィンは、優馬の特訓をエルフィナに願い出たのだ。



「このままじゃあ、この呪文はあなたの命取りになるわよ。それじゃあ、もう一度普通に実行してみて」

「わかりました。あれっ、見えない」


 エルフィナは薄い思考波防御の魔法盾をまとっていた。

 見えるはずのステータスが、何も見えない。



 こんなことは初めてである。


「それじゃあ、もう一度、やって見て」

「おかしいなあ ………。”リーヴァス” ………えっ、ええーーっ!」


 エルフィナはやり方を変えた。

 優馬が唱えた魔法の思考派の反射に細工を施した。



 肉体強化の初歩しかできない戦士並みのようなショボい魔法量が計測される。

 おかしいおかしいと頭を捻る優馬。


「それじゃあ、最後、もう一回」

「あっ、はい。………おっ、おおーーーっ! これどういうことですか?」


 今度は魔法量が激増。

 これではエルフィナは魔王をも凌ぐ史上最高の魔法使いになってしまう。


「これがステータス隠蔽よ。今、三回やって見せたけど方法としては二種類。最初は拒絶。後の二回は偽装ね。どちらも相手の思考波に干渉する技よ」

「なるほど。これをやられたら何にもわかりませんね」

「そう。だから、これを破れるようにならないとお話にならない。けれど、この隠蔽を超えるステータス呪文を修行する前にやることがあるの。それが、相手の体表面に触れる瞬間にだけステータスが効果を表し瞬時に消える影実行というわけ。これならステータスを唱えていることを検知できる人はほとんどいないわ」


 そういうものなのか、と。

 優馬は改めて魔法の深淵に触れたように感じていた。



 確かにこれはまずい。

 思考波をいじられてニセの情報を掴まされると命取りになりかねない。


「最初から隠蔽を破るステータスを覚えるんじゃダメなんですか」

「ええ、まずは魔法のコントロールを上達させないとダメ。仮に隠蔽を破れたとしても、相手にステータスを見ていることを知られたらどうなるかわかるでしょう?」



 当然である。

 格上との戦闘を避ける見ているのに「よくもステータスを見たな」と喧嘩をふっかけられては本末転倒である。


「さあ、続けるわよ」

「そろそろ、休憩にしませんか。少し体も動かさないと、下の訓練場行ってみようかなぁ」

「ダメよ。今日は一定の成果が出るまで終わらせないから」

「うわぁ、マジですか……はあ、続けます」


 優馬は魔法の唱えすぎで頭痛がしてきたものの、これを習得できず帰った時のフィンの怒った顔が脳裏に浮かび、黙々と修行を続けていた。


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