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第36話 迷える新人(2)

 アスティアを『エリシオンの灯火』で預かることになった。

 ギルドの手続きはすでに終了。

 活動は明日からということに。




 明朝、優馬はまだ誰もいない時刻にギルドに来ていた。

 フィオナに確かめておきたいことがあったのだ。


「一つ質問があるんですが」

「なんでしょう」

「アスティアを『エリシオンの灯火』に入れようと考えたのはフィオナですよね」

「お見通しですか」


 あっさりと白状した。

 魔法使いを志すなら、一番に教えをこうべきはエルフィナだ。何人もの魔法使いを育ててきた。

 それをわざわざ優馬たちに預けた以上、フィオナの差金に違いないと踏んだのである。


「理由を教えて下さい」

「わかりました。まず、ギルド内での軋轢を避けるためです。優馬さんたちは評判が良すぎるんですよ」

「やらかしたのに?」

「あれは対外的には伏せられています。ジョルジュ商会の件は『エリシオンの灯火』が立案した作戦が大成功したことになっています」


 非難を受けるのは当然である。

 人の噂に戸は建てられない。真相は噂ですでに広がってしまっている。


「まだ冒険者になって一ヶ月。冒険者の一部から不満が上がっています。職員の中にも懐疑的な意見も多く『まぐれだ』『そのうちボロを出す』と考えている人が少なくありません」

「それを抑えるためには人数が増えた方がいいと」

「そういうことです」


 敵意のあるものは、『エリシオンの灯火』に新人が入れば、足を引っ張られて成果は出せないと考えるだろう。


「わかりました。受けられる依頼に変化はありませんか」

「大丈夫です。そこは保証します」


 それならいいか、と呟き優馬はフィオナに一礼してカウンターへ。

 どうやら朝飯を食っていくらしい。




 八時半にアスティアが、九時にミリアとアルンがやってきた。


「おはよう。優馬、ずいぶん早いね」

「アルン、おはよう。アスティアの初日だからね。それじゃあ、まず道場行こっか」


 四人はギルドの地下に向かう。

 今日は定例の新人講習会も休み。


 朝っぱらからこんなところにくる冒険者はおらず、貸切状態である。


「まずはアスティアの実力が知りたい。アルン、相手をしてくれる?」

「はい」

「わかった」


 剣による模擬戦が始まった。

 アルンはフェイントばかりだ。


 アスティアは積極的に攻撃を仕掛けていく。技は鋭い。

 守ってばかりだと不利だと感じたアルンは反撃を開始したが、それを優馬が止める。


「ちょっと待って」

「どうしたの、優馬」

「アスティア。盾は使える」

「はい」

「じゃあ、これ使って」


 使っていない少し軽めのバックラーをアスティアに渡す。

 アルンには模擬戦再開の前に「全力で」と声をかけた。


 アルンは俄然攻勢に出る。

 優馬と組んでここで訓練を始めてから、自分には力押しは向かないと感じていた。


 最近は、トリッキーな攻撃を仕掛けることが多く、これがかなりの初見殺しになっている。

 カイやレオンでさえも苦戦しているのだ。


 だが、盾を得たアスティアはこれを全部受け切ってしまう。



「凄いね。降参だよ」

「そんなことないです。今の本気じゃなかったですよね」

「いや、手は抜いてないよ」



 次は優馬だ。


 中距離戦では何とかなるものの、近距離戦でははっきり優馬が不利。

 盾と剣のコンビネーションがすごく、フェイントを使われると手に負えない。


 ミリアも目を丸くしていた。


「アスティア、本当に凄いわ。剣の切れなら優馬以上なんじゃない?」

「本当だよ。盾と剣の扱いが上手くて手も足も出ない」


 降参である。

 明らかに新人のレベルではない。


 うっかりすると教えられるのは自分達の方かも知れない。



 訓練場で確認できるのはここまでで十分。これ以上は、実戦でないとわからない。

 優馬は少し考えてから「ちょっと待ってて」といい一階に上がってしまった。



 剣の実力の程は十分すぎるほどにわかった。

 こうなったらあとは実戦で試すのみ。


 優馬は、一枚の依頼書を三人の前に差し出した。

 魔物の素材採取依頼。採取場所は『ゾルタンの迷宮』である。



「珍しいね。優馬がダンジョンの仕事をとってくるなんて」

「ほんとほんと、私なんてダンジョン嫌いなのかと思ってたもの」



 優馬は苦笑する。


 別に今までダンジョンを避けていたわけではないのだ。


「いや、たまたま今まで機会がなかっただけだよ」

「ふーん、そうなんだ」


 ダンジョン探索を今までしてこなかった理由など大したことはない。


 少人数で行こうとするとフィオナがいい顔をしなかったこと。

 アルンがゼロスに嵌められた過去を持っていること。


 今はどちらも笑って、問題ないと言える。



 おまけに、今回の依頼は緩い。

 アスティアの指導が優先事項として入っているため、達成条件が通常依頼の60%になっているのだ。

 これなら魔物との遭遇があまりなくても赤字になることはない。


 安心してアスティアの実戦の力を確認することができる。


「アスティア、装備は揃ってる? 急ぎの依頼じゃないから、足りないものがあるなら明日にしても良いんだけど」

「大丈夫です。カバンには革鎧につけるダンジョン用付加装備金具があるし、ポーションも用意してます。あとは……できればさっきのバックラーを貸してもらえると助かります」

「ああ、構わないよ。あんなものでよければ」

「あれが良いんです。大きいのは邪魔になりそうで……」


 一応確認はしてみたが、ソツのない答え。

 アスティアはやるな、と感心するのはこれで何度目か。



 早速、『ゾルタンの迷宮』に向かう。


 カルディアを出て南へ。

 『エイデンシェール大草原』に向かう道を途中で左に折れ、一kmも進めば目指すダンジョンがある。


 入り口でミリアがライトの魔法を唱え、シーフの修行を始めたアルンが先頭だ。

 二百mも行かないうちに、ここを狩り場にしているピートたちに会った。


「あれっ? 優馬さん、珍しいですね」

「ああ、たまにはね。『新緑の風』はここ慣れてそうだな」

「ええ。イレギュラーな魔物が少ないし、エンカウント率も安定してますから。『エリシオンの灯火』なら三階層ぐらいまでいかないと物足りないかも」


 優馬は「そんなことないよ」と苦笑した。

 ジョルジュ商会の一件以来、新人パーティーの間では『エリシオンの灯火』は頭一つ抜け出したと思われている。最近は敬語で話してくるヤツまでいる始末だ。

 ピートたちはまだマシな方である。


「買い被りだよ。一階層からぼちぼちやるつもり」

「ハハっ、それじゃあ」

「ああ、じゃあな」


 当たり障りがない会話を終え、先を急ぐ。

 途中から魔物とのエンカウント率が上がる。二階層に向かう回廊の玄室に今日の依頼採取対象があるはずだ。


 不意にアルンが手を広げ、パーティを制する。


「ストップ。魔物がいるよ。数は二匹」

「種類は?」

「恐らくは闇案山子(スケアクロウ)


「私がやります」


 アスティアが殲滅を買って出た。


「大丈夫?」

「経験がありますから」


 優馬は一瞬迷い、フィンに聞いてみることにした。


(アスティアをどう思う)

(完璧だな。完璧すぎるとも言える。まあ、いざという時に、サポートできるなら問題はあるまい)


 完璧すぎる……か。


「わかった。いつでもフォローするからね」



 アスティアはうなづき、一歩前に出る。

 三人は扇子状に散開して死角からの攻撃に備えた。



 だが、その必要はなかったらしい。


 ザクッ、ザン

 ボトッ


 見事な太刀筋だ。闇案山子の名の通り、それは何もできないまま討ち払われる。

 藁を裂いて中の魔石を抜くと亡骸は溶けるようにダンジョンの床に消えてゆく。


「アスティア。流石だね」

「いえ、これくらいは」


 踏み込みのタイミングから、撃破した後の周辺警戒、魔石の取り出しまで非の打ち所がない。

 優馬たちも負けじと玄室にいる魔物に襲いかかっていく。


 ダッッ、ズズン。

 ドン………バサッ


 アルンの牽制に釣られたビッグラットの群れに、ミリアの魔法が炸裂。

 生き残りを優馬が一瞬で屠る。


「流石です」

「いや……それほどでも」

「優馬。何照れてんのよ」


 あー、なんでミリアもアルンもニヤニヤしてるかなあ、と優馬は思う。

 目的の素材は得られたが、もう少し量が欲しいところ。そのまま進み二階層に降りることに。


「大広間まで一気に進もう。十分対応できそうだから、階層ボスと一戦交えてみよう。三階層に進むかどうかは、そこで取れる素材次第、ってことでどうかな」

「いいと思う」

「私もそれでいいわ」


 その後も順調に討伐は進む。

 結局、エリアボスとも戦ったが、倒すのに五分とかからなかった。


「大したことなかったね」

「そうね。これなら、三階層でも戦えると思う」

「いや、待って。これ以上は無理」

「なんで?」

「だって見てよ」


 フロアは魔物の亡骸でいっぱい。

 ボスは他の魔物を引き連れていたが、そのほとんどをミリアの広域魔法一発で葬ったのだ。

 肝心のボスも優馬、アルン、アスティアの三人では過剰戦力気味。


 おかげで依頼の80%以上の素材回収が完了。

 三階層に行く必要がない、どころか、魔物を倒しても素材を持ち帰ることもできやしない。


「帰るか」

「そだね」


 四人のダンジョン初戦闘は早々と切り上げることになった。




 冒険者ギルドに帰り着いたのはまだ午後三時。

 フィオナが意外そうな顔をしているのも宜なるかな。


「あら、優馬さん。ずいぶん早く戻られたんですね。何か問題でもありましたか」

「いえ、順調すぎて持ちきれないほど、魔物の素材がとれたんですよ」

「そんなにですか。そういえば、みなさん荷物がすごいですね。なるほどその量では……」


 全員がパンパンのバックパックを抱えているのを見て、一瞬で事情を察したようだ。

 解体が済んでない魔物はガルスに頼むことにした。この後アスティナ指導についての反省会をすることになっているのだ。


 会議室に移動して反省会兼報告会である。


「優馬さん、アスティアはどうでした。言いにくいことがあれば、後で書面で提出して頂いても構いませんが」

「いえ、何も問題は何もありません。言いにくいこと……そうですね。これで指導料までもらって良いのか、ってことだけです」


 周りがドッと笑う。

 結局、アスティアの活躍は、とても初心者とは思えなかった。それどころか昼時には、サラダとスープを用意し、狩った獲物をバラして肉料理まで作って見せたのだ。

 そのどれもが美味しく、手際も料理の腕も標準以上だと感心すること頻りであったのだ。


「アスティアはこのパーティーに入ってどうでした?」

「凄かったです。前にお世話になったパーティーとは段違いでした」


 それは、前のパーティーがひどかっただけである。

 もちろん、それについては誰も触れないが。


「特に感じたことは?」

「優馬さんが司令塔なのはわかってましたけど、率先して前にも出るし、ペース配分を考えて前衛も後衛もこなせるのが凄かったです。ミリアさんには全ての面で敵わなかったです。唱えられる攻撃魔法も治癒魔法も私の三倍じゃ効かないと思います」


 フィオナはそれを聞いて満足そうにうなづき、会議室にミランダを呼んだ。

 ミランダに指導料の報酬の払い出しを頼み、その後は優馬たちと今後の計画についてどうするかを話し合った。


 これが難しい。彼女は優秀だ。すでに指導の域を超えているからだ。

 アスティア自身は「そんなことはない。全てが勉強になった」と言っているが、結論は出ないまま、当初の予定通り二週間いっしょにやってみると言うことで落ち着いた。


 さて、ここに一つの問題がある。

 アスティアの役割を何にするかということだ。


 すべてが及第点。選びたい放題。

 あえていうなら魔法使いとしては魔力は若干少ないというだけだ。

 だが、それを理由にするなら彼女の希望は通らないことになる。


 結局、まだ様子を見よう、ということになりお開きになったのである。



 ギルドからの帰り道。ミリアとアスティアは帰宅。

 優馬はアルンを誘ってカフェでお茶を飲んでいた。


「うーん、どうしよう。アルンはアスティアの[役割]は何にしたらいいと思う?」

「なんでもできるでしょ。『物理攻撃前衛』でもいいし、盾をあれだけ使えたら『重装防衛(タンク)』でもいけるよ」

「まさか。華奢な女の子だよ。それに彼女の希望は『魔法使い(攻撃系)』なんだよ」

「あー、魔力が心許ないんだっけ」


 するとそこにミリアがやってきた。


「帰ったんじゃないの?」

「優馬がアルンを誘ってるのが見えたから、きっとここに来ると思って……何の話をしてたの?」

「アスティアの指導についてだよ。一応指導料もらう限りは完了時に所感を書かないといけなくてさ。彼女、[役割]欄が決まってないんだよ」

「本人の希望通りでいいんじゃないの」

「魔力の問題があるじゃない」

「ああ、それね」


 するとミリアは首を傾げながら。


「なんとかなると思うわ」

「どうやって」

「実戦あるのみ」

「できるかい」


 ミリアは力強くうなづいて、そう言った。

 きっと何か目算があるのだろう。


 優馬は「それならば、任せてみようかな」と残りのコーヒーを飲み干した。

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