第29話 作戦始動!
冒険者パーティのお話が一段落し、新エピソードの開始です。
田舎町カルディアの歴史とそれにつけ込む怪しい商会。
翌日の朝。
早速、優馬はギルドに作戦案を持ち込んだ。
手にはマル秘と書いた紙の束。それを窓口で広げ説明を始める。
「凄い計画なんですよ。聞いてくれませんか」
「今は依頼を受ける人が優先です。後にしてもらえませんか」
「いや、これ昨日徹夜で仕上げてきたので」
食い下がるもケンもほろろ。
まるで取り合ってもらえない。
それどころか、列に並んでいる冒険者たちからブーブーと非難の声が。
「何やってんだ、あんちゃん」
「そうだぜ。仕事が欲しけりゃ掲示板から依頼取ってから来いよ」
これ以上は無理だ。
うなだれて首を振りながら、酒場の座席エリアにトボトボと戻ってくる。
「優馬、何やってるの。こんな時間に込み入った話を持ってきても相手にしてもらえるわけないよ」
「でもこれ、書くの苦労したんだぜ」
「そう言うことじゃない、って」
アルンもミリアも呆れるばかりだ。
昨日から優馬のテンションがおかしい。
じっと見つめる先には、渾身の作戦案の書類。
表紙には『カルディア衛生フェスタ 草稿案Vol.1』と書いてある。
「私、マル秘って書いてある書類を大手を振って持ち歩いている人初めて見た」
処置なしである。
そこに姿を消したフィンが近づいて優馬と念話を交わす。
(大丈夫だ。ジョルジュ商会の清掃員はもう、こっちを見ていない)
(サンキュー、フィン。ギルド職員の方は?)
(そっちも関心を失っているようだ)
急に態度を変え、一転してキッチンの方へ。
「あーあ。もうやってらんないや。いい加減腹減ったし……朝定食一人前、お願い」
さっきとは打って変わって、やけに物分かりが良くカウンターに並ぶ。
周りからは、与太話をしようとして聞いてもらえず不貞腐れた新人冒険者に見えるだろう。
その様子は、ちょっと落ち着きすぎているのだが、それは気づくものはいない。
三十分後、朝食を食べ終わった優馬は、窓口に悠々と向かう。
草稿案の書類のすみには、”待機列が途切れたら話を聞きます” と書かれていた。フィオナの字で 。
優馬は依頼待ちの列で芝居を打ち、それにフィオナが気づき乗っかったのだ。
だが、その話を始める前に、まずは昨日の指名依頼の精算である。
「フィオナ。昨日の依頼は、一応成功ってことでサインをもらってるんだけど」
「そっちのマル秘書類はいいの?」
フィオナが揶揄うように笑う。
それに悪ガキのように優馬は微笑み返した。
「それは後で」
差し出したガルドの指名依頼書の依頼終了確認欄にはガルドのサインがある。
問題はその下特記事項欄である。
そこには、ガルドの字で「優馬の話を聞いてやってくれ」と書かれていた。
こんなまだるっこしい手順を踏んだのには理由がある。
ジョルジュ商会の人間はどこにでもいる。
ここにも派遣された清掃員がいるし、ギルドの人間だって全員信用できるわけではない。
リュークの稼いだ金を引き出し、ゼロスに渡したニセ職員のことを優馬は忘れることができない。
慎重すぎると笑わば笑え。この小芝居をやめるつもりはない。
「わかったわ。ギルマスも呼んでくるから、奥の第三会議室に行ってて」
「第三……ですか」
「ええ、そう」
広くはないが、厳重なセキュリティに守られた特殊な会議室である。
優馬はアルンとミリアに目配せをして、言われた部屋に移動した。
ギルマスが入室し、会議が始まった。
フィオナが優馬の作戦書類をコピーして全員に配っている。全くいつもやることにそつがない。
ロイはパラパラとそれをめくり、最終ページの『添付資料 ジョルジョ商会の推定犯罪内容一覧』に目を止める。
「これは何の冗談なんだ? ジョルジュ商会はこの町有数の掃除サービスを行なっている真面目な会社だぞ」
「トボけなくていいんじゃないですか。どうせ一斉検挙の段取りも整っているんでしょ」
「……どうやら本気のようだな」
そう言って、ロイはニヤリと笑う。
「それでどうでしょう」
優馬はそう言ってロイの答えを待った。
ミリアもアルンも緊張している。
「いいだろう。この作戦案を採用する」
「「「やったーーー」」」
はしゃぐ三人をまあまあと宥め、フィオナは会議を進行する。
「それでは改めて優馬さん。作戦を説明して下さい」
優馬は計画について話し始めた。
衛生的な町を町の人たちにアピールするために『カルディア衛生フェスタ』を開く。
いつも休日や祭日に行っている教会の無料の治癒を中心に、衛生管理についての講演や掃除用具、清掃用薬品の展示即売。冒険者による怪我の治療の実演などを行う。ギュントスが露店を取り仕切り、お祭りに花を添える。
主催は冒険者ギルド、協賛は町役場とエリシェン教である。さらにギュンター商会連合にも声をかける。
「これには当然ジョルジュ商会の協力が必要だと思うが」
「おっと、すいません。うっかりしてました」
誰に知られる心配もないこの会議室で思わせぶりな会話は無駄である。
ふざけすぎだ。
フィオナがその様子に「いい加減にして下さい」と言った。
ロイも優馬も頭を掻いている。
既にここにいる全員がジョルジュ商会はクロだと認識している。
元々この作戦は “ジョルジュ商会の悪事をどうやって暴くか” にかかっているのだ。
「大手商会を巻き込んだのは来客数を稼ぐためだと言うのはわかるが、どうやって協力を要請する」
「アルンの実家がギュントスなんです」
「それでか。ギュントス……あのギュンター商会連合の地方販売チェーン店だったな。確かにオーナーなら納得できる」
国内外で最大店舗数を誇るギュンター商会連合の影響力は絶大である。
その力を使って何かしらの商いをするとなれば、たとえそれが祭りの露店であっても大繁盛は間違いなしなのである。人々はその看板だけでいくらでも集まってくる。
「だが、人を集めてどうする」
「それは一斉検挙のためですよ。どうせ本社に踏み込むとしても余計な人がいない方がいいですよね」
「……なるほど。考えたな」
「えっ? えっ? ジョルジュ商会本社をお留守の状態にする、ってこと?」
「そうだけど……」
「うわぁ」
ロイと優馬が笑い合う。
本当の悪者はこの二人なんじゃないか、と言っていいぐらいのヤバさ。
フィオナもミリアもドン引きである。
実はアルンはこの作戦案をほとんど読んでいない。
「じゃあ、始めようか……ここからは全員で共有するから読んでなくても大丈夫」
慌てて作戦案をめくり始めたアルンを止める。
「アルンは何が知りたい?」
「ええと、ミリアはどう絡んでくるのかな」
「それは四ページを見てくれる」
全員がページを捲る。
このイベントはギルドが主催なのだが、教会の司祭が発案したことになっている。
ここからが第二段階。
「ミリアさんがエリシェン教会に話を通してくれるんですか?」
「ええ、昨日のうちに打診しました。その司祭は私の上司なので、笑ってOKしてくれました」
規模的な問題で主催は冒険者ギルドとするよりない。
町のイベントを教会が主催するとなると「エリシェン教が幅を利かそうとしている」と取られかねない。
もともと、規模が小さいカルディア支部がそれをするのは不自然極まりない。
だが、あくまで ”言い出しっぺは教会 “ という体を保つことは重要だ。
ギルドが疑っていることを悟られないようにする必要がある。
一斉検挙の段取りが同時進行していることを見破られたら一巻の終わりである。
「でもそれだけじゃ、足りないですよね?」
「ああ、徹底的に持ち上げてやるさ。イベントの重要ポストとして会頭のジョルジュ氏を呼ぶことになっている。さらに、当日の来客数が想定以上になりそうだ、という話とジョルジュ商会のブースをさらに拡大すると言う話を持ちかける予定だ」
「なるほど、がめつくて目立ちたがりの会頭なら絶対乗って来ますね」
全員がニヤリと笑う。
「………ほんと優馬は悪どいこと考えさせたら天下一品よね」
とても正義感にあふれた男の計画ではない。
緩み切った会議であるが、真顔でロイが話を戻す。
ここからが一斉検挙の話である。
「表の計画はジョルジュ商会の人員を分散させることにある。本来の目的は拠点の一斉検挙と人質の救出だ」
「これで当日までに拠点が減ってくれたらいいんですけどね」
「ああ、それについては……」
今度はフィオナが説明を始めた。
ジョルジュ商会は多くの人員を抱えているが、人数合わせのゴロ付きも多い。
そういった連中には責任ある仕事を任せることができない。
そこが商会の弱点と踏んだのだ。
普段ならトラブルが起こっても、”正規の商会員ではない者がやった” という理由づけができる。文句が来たとしても「問題のあるものはクビにしましたので大丈夫です。次回はサービス致しますので」といえば済んでしまう。
今回は発案がエリシェン教でギルドが主催。
この町の二大勢力の肝入りのイベントである以上、商会の名前を背負ったブースがやらかすわけにはいかないのだ。
なけなしの正商会員を多数動員するしかない。
「拉致監禁されている者たちをあちこちに分散しておくこともできなくなるわけですね」
「そうなることを期待しているわ」
一見いいことばかりに見えるが。
「本社ビルの一斉検挙の際、ゴロ付きを大量に雇って守りを固められたら面倒じゃないですか」
「大丈夫だ。力比べで負けるつもりはない。冒険者を総動員する予定だからな」
目論見済みと言うわけだ。
拠点が減れば調べる範囲が減り、悪事の証拠を見つける確率が上がる。
「実際、ゴロ付きとやり合うのには利点もある。この作戦の安全弁になるからな。一斉検挙で何も出なかったとしてもゴロ付き連中が相手なら、叩けばいくらでも埃が出る。そんな連中を雇っていた商会自体の責任も追及できる」
「おー、よく考えているじゃないか」
ロイは優馬の頭をポンポンと叩く。
それを見てミリアが笑っている。
「子供扱いしないで下さいよぉ」
「悪い悪い。だが、その心配は無用だ。すでにある程度の証拠は握っている。重要メンバーを忙殺することで重要な証拠を隠蔽する隙を与えなければ成功なのさ」
「わかったわ。それで、直前にブースを大きくする理由は」
「それこそ保険だよ。何か察知されて事前に人の手配をされては堪らない。いきなり必要な人員が増えれば、小さな拠点は支えきれなくなる。放棄するか、閉鎖するかはわからないが、全部を維持することはできなくなる」
「へー、なるほどね。案外ちゃんと考えているのねー」
ミリアは他人事のようにそう言った。
優馬は一枚の模造紙を広げ、皆に見えるように壁に張る。
「だからミリアは大変だぞぉ」
「どういうことだ?」
ロイが訝しげな顔で優馬に尋ねた。と同時に全員がその発言と壁に貼られた紙の内容に眉をひそめる。
「実は、この作戦のカギはミリアにあるんだ」
優馬はそう言い放ち、当のミリアは黙ってうなづいた。
それはわかっている、というかのように。
ジョルジュ商会を根こそぎにする“カルディア衛生フェスタ計画”が、いま動き出そうとしていた――
たかが清掃の利権。ですが、この田舎町の発展してきた理由となれば、重要です。




