第28話 優馬の悪だくみ
「わからん」
「えっ!」
フィンから返ってきた答えは予想外だった。
「どういうことだよ。何もつかめなかったのか?」
「そうではない。黒か白かで言われればジョルジュ商会は明らかに黒だ」
皆がうなづいている。
この後に及んで商会が清廉潔白であると信じているものなどいない。
「詳しく聞こうか」
優馬が促すとフィンは怪しい三店舗について語り始めた。
店舗には十人以上の気配があり、いろいろな思念が混じり合っていたという。その端々に ”新薬の作成を急がねば” という黒い焦りを感じたという。
さらに、何人か非常に弱々しい思念を発している者もいたらしい。
「それって、元の店の人たちじゃない?」
「私もそう考えている」
厄介なことになった。
三店舗は入れ替わったわけじゃなく、乗っ取られた。
しかも、助けがいると言うのに、ここにいるのは初心者冒険者が三人と魔法使いが一人。
「相手が多すぎるわ」
「でも、ミリア。このまま放っても置けないよ」
浮き足立つミリアとアルン。
だが、優馬は落ち着いていた。もし、急ぐ必要があるならフィンは真っ先にそういうはずだからだ。
「待てって、まずは確認だ。フィン。その人たちは危険な状態なのか」
「いや、そこまでではない。動けはしないがすぐに命に関わると言うことはない」
それを聞いてアルンはホッと胸を撫で下ろした。
だが、それを聞いてもなお、ミリアには落ち着きがない。
「落ち着けって。君らしくない」
「だって……。その人達って、店に頼んだ薬を使ってるんでしょ? このままじゃエルフィナが悪事に加担したことになっちゃう……」
すぐにでも飛び出していきそうなミリア。
自分の師匠であり恩人でもあるエルフィナに嫌疑がかかるのが許せないのであろう。
エルフィナがミリアを抱きしめ「私は大丈夫だから」と言った。
こんな時、優馬は空気を読まない。
うーん、とノビをして「えーい。わかんないことを考えていても仕方がない」と言った後、エルフィナに尋ねた。
「この薬って、どんな用途に転用できるんですか?」
「それが範囲が広すぎて特定できないのよ。多少薬の知識がある人なら幻覚剤や自白剤が作れるし、スキルさえあれば、毒薬や爆薬にだって転用が可能なんだもの……ただ、時間がかかるけどね」
それにアルンが補足する。
「ジョルジュ商会といえば清掃関連の薬品の製造と販売も行っているから、それなりに薬師や魔法師を抱えているはず。でも、普段扱う薬と違うなら、そう簡単に作れはしない、ってことですよね」
「正解!」
「そうなんだ。良かったぁ」
エルフィナの答えにミリアも落ち着いたようだ。
「それにしてもアルン、さすがだな」
「まあ、ウチも商売やってるからこれくらいは、ね」
優馬は腰を据えて考え始めた。
人質もひとまず無事。転用にも時間がかかるとなれば、落ち着いて対策を練ることができる。
その前にまず確認だ。
「じゃあさ。どれくらいのスキル持ちがいるか。商会が出している薬剤から推しはかったりできない」
「なるほど! それはいい手かも知れない。探ってみる価値はあるわ」
「優馬、冴えてるじゃない」
商会で販売されている薬品は普通に購入可能だ。
かなり割高なものもあるが、一通り買って調べてみるのが一番だ。
「それなら、ちょっと行ってくるよ。ここからなら、そんなに時間もかからないし」
「えっ、今から?」
「すぐ帰ってくるからー!」
店から飛び出して行った優馬。こういう時はフットワークが軽い。
十五分後には、両腕に山盛りの薬品を抱えて帰ってきた。
「おかえり。ずいぶん買ったわね。これとこれと……あれっ? いくつか定番の商品がないみたいだけど」
「品切れなんだって。他の薬でも落ちるから、そっちを多く買えばいいとか、店員が他の商品を売りつけようとしてきた。こっちは、同じ薬品を何個も欲しいわけじゃないのに店員がうるさい、ったら」
「なるほど。客は逃したくないわけね。それで?」
「いや、その品切れの商品の方が落ちがいいから、って言うと奥に引っ込んで『外注先に急がせろ』って怒鳴り声が聞こえてさ」
「あー、なるほどね………これは見えてきたわね」
何かわかったらしい。
売っていなかった薬をリストアップ。そのメモを筆の先でポンポンと叩くエルフィナ。
「品切れの商品は中級以上の魔法師が絡む薬ばかりだわ。商会のお抱えの魔法師のレベルは大したことはないはずよ」
「それが頼まれた薬剤と関係があるわけ?」
「ええ、これなら転用するとしてもかなり範囲を絞ることができるわ」
エルフィナの見立てでは、作れるのは幻覚剤か依存性のある麻薬である公算が高い。
爆薬も高度な毒もコストが合わないと言うことらしい。
「それなら、ジョルジュ商会のお抱え初級魔法師が内製してる薬はある程度絞り込めたな」
「うん。それなら、あの小さな店舗に隠れて内製するのも、うなづける話です」
「どうやら決まりだな」
となれば。
「ギルドに報告しに行こうよ」
「アルン、ちょっと待って。少し気になることがあるんだ」
「この依頼を僕らが受けたことをギルドはどう思ってるのかな?」
「「「あっ!」」」
ことここに及んで、全員がこの指名依頼の意味を理解した。
そもそも、ガルドの依頼をすんなり優馬に許可したのはおかしいし、ギルドが悪事の片棒を担ぐはずがない。
「最初からジョルジュ商会をマークしている状況で僕たちに依頼を出した」
「僕ら囮に使われた、ってこと?」
それにうなづきながら、ニヤリと人の悪いドヤ顔をする優馬。
「なんて顔してるの? まるっきり悪人よ」
「失礼な……。ちょっと面白い作戦を考えついただけだよ」
「どんな」
「おそらく、ギルドはある程度証拠を握っているんだと思う。一斉検挙すら計画しているかも知れない」
そう言って優馬はフッフッフッと、低い笑い声と共に膝をポンポンと叩いた。
「どうしたのよ。気持ち悪いわね」
ミリアが胡散臭げに見ているが、当の優馬はいきなり話を変えた。
「このカルディアが衛生的に保たれているのは、上下水道や市民の意識が高いだけじゃないよね」
「ええ、教会の寄与が大きいはずよ。長い間、疫病の流行がないのも、無償で治療を続けている成果だもの」
ピースは揃った。
ギルドが囮に使うなら、せいぜい上手く踊ってやろうと優馬は思う。
だが、僕らだけでは役不足だ。
ギルドも、商会にも舞台に上がってもらおう――
「ジョルジュ商会をハメるいい手を思いついた! イベントを開こう! ギルド主催で! 『カルディア衛生フェスタ』だ!!」
「「「「えーーーー!!!」」」」
優馬は、得意の搦め手を使った一大企画をぶち上げた。
だが、皆の頭の中には「どうしてそうなる?」という疑問が渦巻いていた。
そのイベントが、どう三店舗に捕まった人を救い、どう転用された薬を暴くことに繋がるか分からなかったからである。




