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第27話 魔道具店店主の正体

 ガルドからの依頼でこの魔道具店に来てみると、意外な人物が店番をしていた。


「なんだ。この店ヤバいかも、って聞いてたのに。ミリアがいるんじゃ何も心配ないよね」

「ちょっ、ちょっと待って……」

「実は近くの装備屋のガルドからの依頼で来たんだけど」


 止める間もなく、アルンが依頼内容について話し初めてしまった。


 ミリアが敵だとは思わないが、ここの店主もそうとは限らないのだ。

 入る前にアルンと口裏を合わせておくべきだった。


 そんな反省が頭をよぎるが、今はその時ではない。



 事態はさらに悪い方へ向かう。

 ミリアは話を聞くと「ちょっと待ってて。店長〜」と奥に引っ込んでしまう。


 これでこの店の店長が敵だったら最悪である。


(やべえ、どうしよう。フィン)

(いや、大丈夫だ。確認した)

(そっ、そうかあぁ)


 フィンはこの店の店長が敵ではないとわかったようだ。

 だが、ドカドカと音がして、えらい剣幕で作業着姿の女性が入ってくる。


「ウチから変な匂いがするなんて言ってるのは誰? いい加減なこと言ってると……って優馬じゃない」

「だから最後まで話を聞いて下さいって言ったでしょ!」


 店長はなんとエルフィナだった。取り越し苦労とはこのことだろう。

 最悪の事態どころか、一番力になってくれそうな相手である。



 それより……。


「もしかして、ちょくちょく休むのは店番やってたから?」

「実はそうなの。入ったばかりのパーティーで悪いとは思ったんだけどエルフィナには恩があるし」

「悪かったわ。あなたたちに迷惑がかかってたのね」

「そんなことないです。まだ結成したばかりですし、準備もいろいろあるでしょうし」


 エルフィナは申し訳なさそうに言ったが、優馬は何かしてもらおうとは思っていない。

 ミリアが『エリシオンの灯火』を結成後、休みがちな理由が判明したのならそれでいいのだ。


「ちゃんと償いはするわ。それで………。匂いの話ってどういうことなの?」


 それが問題である。


 優馬は最初から順序立てて話をしなおした。

 ガルドから聞いた話、受けた依頼の内容、この職人通りを歩いてわかったこと、その全てをだ。


  唐突な店賃の値上げ

  町や冒険者ギルドに承認されているという発言

  入れ替わった三軒の店主

  大家、入れ替わった三軒、この魔道具屋に共通する匂い


「ふーん。ガルドがいちゃもんつけてきただけなら無視するところだけど、大家が絡むとなると気になるわね」

「ガルドとは仲悪いんだ」

「あんな偏屈親父と仲がいいヤツなんているのかしら」


 笑うしかない。

 奥で話を聞いた途端、怒りだしたぐらいである。ガルドが直接話に来ないというのもうなづける。



 だが、アルンはそれには反応せず何か考え込んでいる。

 言おうか言うまいか迷っているようだ。それに気づいた優馬が声をかけた。


「どうしたの、アルン?」

「えっとね、ミリア。関係あるかわからないけれど……」


 アルンはギルドでこの指名依頼を受けた時に、ずっと見ていた男のことを話した。


「風貌は」

「帽子を深くかぶってたから顔はよくわからなかったけど、最近よく見る作業着みたいな制服を着ていたよ」


 アルンがその制服の特徴を説明するとミリアとエルフィナの顔色が変わった。

 悪い方に。


「それってジョルジュのところじゃない! まさかこの魔道具屋が悪事に加担させられているなんてことはないわよね」

「ミリア、どういうこと?」

「実は私が店番をすることになったのは、ジョルジュ商会に頼まれた薬の調合をするためなのよ」

「いいわ、ミリア。続きは私が話す」


 フッと息を吐いて薬の調合についてポツリポツリと語り始めた。


「ジョルジュ商会は物ではなくサービスを提供しているの。私の店に来た時『当商会は派遣してしつこい汚れを安価で清掃する。そのためには新しい清掃洗剤が必要だ』って言ってきてね。薬の調合を頼まれたんだけどこれがかなり面倒なのよ」

「どんな薬なんですか」

「掃除なんかに使うようなものじゃない非常に強い薬よ。しかも効果だけじゃなく薬草まで指定して……。とても危険なものなの。私は安全性が担保できないから、って断ろうとしたんだけど『換気や手袋に注意する、そのためのマニュアルも作る』って押し切られちゃったのよ」

「見せてもらえます?」


 エルフィナは一瞬躊躇したが「いいわ」と言って奥からその薬を持ってきた。

 ミリアが店のドアを開放する。それだけこの薬は危険なのだ。水差しから桶に並々と水を注ぎ、持ってきた薬を開け、一滴だけ落として素早く蓋をする。


 ただの水にしか思えない。誰にもその匂いを嗅ぎ取ることができなかった。

 エルフィナはこの濃度でも十分過ぎるほどの洗浄能力がある、と言うが……。


(優馬、この匂いだ)


 フィンは気付いた。

 念話で伝えると優馬はゆっくりうなづいた。


「エルフィナ。この匂いです」

「本当に? 匂いに敏感な魔法使いの私にさえ、わからないのに」


 ミリアはハッとする。

 アルンは口をつぐみ、優馬もどうしようか迷っていた。


 フィンの正体を知らせるべきか。


「優馬……。教えてはダメ?」

「うーん。わかったよ、ミリア……。フィン、出てきてくれ」


 フィンが姿を現わす。


「初めまして、エルフィナよ。あなたの存在には気づいていたけど、やっとお話ができて嬉しいわ」

「私はフィンだ。至らない優馬が世話になっている」


 エルフィナに驚いた様子はない。

 フィンの存在を自然に受け入れていた。


「匂いについてだけど、気づくことができたのは、あなたが風の精霊であるからなのね」

「おそらく」


 その一言を聞いて満足そうにエルフィナは微笑む。


「あなたの見立てを教えてちょうだい。あなたはこの件をどう感じたの?」


 その質問は、ここにいる誰もがもっとも気にしている事柄である。

 誰もがフィンの返事を待っていた。


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