表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

第26話 職人通り

 依頼は魔道具店で話をしてくること。

 何も難しいことはない。


(優馬、まだ時間はあるか)

(あるけど……。何だよ)

(入れ替わった三軒の店を見てみようと思う? 遠回りすることになるが)

(構わないよ)


 フィンには気になることがあるらしい。

 精霊には予感めいたものがある。決してバカにできないたぐいの。


 放置して何かあったら後悔するのは自分だ。

 どうせこの職人通りを一周したところで大したことはない。

 ここは素直に聞くべきだろう。


「アルン。ちょっと待って」

「なにかあるの?」

「ちょっと職人通りを一回りしてみようと思って」

「いいけど……遠回りじゃん」


 不満げな口ぶりだ。けどそれはきっとポーズであると思う。

 アルンにはここを素通りできない理由があるのだ。


 普通なら、冒険者になって最初に考えるのは装備のこと。

 ところがアルンのそれは両親が買い揃えてくれたもの。


 少ない資金で何を買い、何を諦めるか。悩みどころでもあるが楽しい時間でもある。

 それを経験していない。


 本当はこういう店に来たかったはず。

 ”いかにも冒険者が好きそうな穴場の店” にさぞかしワクワクしているに違いないのだ。

 優馬は、ガルドの店でもアルンが興味深げにキョロキョロとあちこちを見回していたことを知っている。 


 実際にはこの裏路地で買えるものは大したものじゃない。

 本当に冒険者の役に立つようなものを売ってる店はわずかなのだが……


 まあ、夢を壊すこともないだろう。

 優馬はアルンのしたいようにさせ、散歩でもするように職人通りを進んでいく。


 ガルドの言っていた三軒の新店はもうすぐだ。

 その先には大家の自宅がある。

 フッと息を吐き、一度立ち止まった。


「どうしたの、優馬」

「ちょっと気になる店があってさ。覗いてみる?」

「見たい見たい。寄ってこうよ」


 アルンが乗ってきた。

 優馬は『やっぱりな』と苦笑しながら、店先の品物を物色し始める。


 旅人が使うような小道具を扱う店。

 こんなところに用事などないが、優馬は待っているのだ。


 さっきからフィンの気配が消えている。

 怪しい三軒の店を調べているはずだ。


「優馬。こんなキャンプ用品の中に探しものがあるの?」

「これから、野営することもあるかな、と思ってたんだけど」

「ああ、なるほど。それでいいものはあった?」

「いや、ないみたい……あっ、ちょっと待って」


 フィンが帰ってきたようだ。

 

(フィン。何かわかった?)

(ああ、三軒の新店、大家の家に違和感を感じた。おそらく何かの匂いが残っているせいだろう)


 おかしな物言いだ。


 匂いに対して違和感を感じるとはどういうことか。

 それは風の精霊たるフィンであるからこそわかる微妙な物質の残滓である。



 一見何の気配もなさそうだが、誰かが潜んでいる。


(優馬! 見るな。こっちを観察している)

(わかった。通り過ぎることにしよう)


 優馬は右手をあごにそえ、左手を腰に当てた。

 アルンはそれを見てハッとした。


 それは、あらかじめ決めていた符合である。

 二人は黙って店の前を通り過ぎる。


 こっちを伺っている怪しい連中がいることは確かだが、まだ敵がどうかもわからない。

 ここは黙ってやり過ごすことが肝心だと優馬は考えていた。


 一旦、表通りに出た。


「優馬、何かあった?」

「ああ、あの三軒の新店から妙な気配がするらしい。フィンが嗅ぎつけたんだけど、これ以上首を突っ込むのはまずい」

「怪しまれてる?」

「まだ、わからないけど僕らを特に警戒していわけではないと思う。ここは一旦切り上げて、例の店に行こう」

「了解」


 小声での相談は終了。

 再び、職人通りに入って数十mほど歩けば、目的の魔道具店は目の前だ。


 入ろうとしたところで、またフィンから念話が。


(待て、優馬。さっきの違和感をこの店からも感じる)

(どういうこと?)

(わからん)


 まずいことになった。

 ガルドの信頼するこの魔道具店の店主も信用できないかも知れないということだ。


「アルン、どうしよう。この店の店主は敵かも知れない」

「なんで? まだ、入ってもいないじゃない」

「実はフィンに調べてもらってたんだけど、この店から三軒の新店と同じ匂いがするらしい」


 このまま帰るか。

 依頼は未達成にはなるが、危険を犯すよりはいいかも知れない。


「とりあえず客として入ってみるのはダメかな」

「依頼の内容を話さずに?」

「そそ」


 アルンの申し出に優馬は迷っていたが、フィンが後押しをしてきた。


(悪くない手だ。何かあったら私が知らせる)

(了解)


「すいません」

「いらっしゃい……って優馬じゃない。どうしてここに?」


 なんとそこにいたのはミリアだった。

 ガルドの言っていた若い店番とは彼女のことだろう。


 敵か味方か……

 同じパーティーのメンバーを疑いたくはない。


 どう話を切り出すか、あるいは何も言わずに店を出るべきなのか。

 優馬とアルンは、目まぐるしく変わる状況の変化に困惑していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ