第25話 奇妙な指名依頼
「明日は討伐依頼を受けようかと思うんだけど、どうする?」
「ごめ〜ん、私パス。パーティー入ったばかりで悪いんだけど、まだいろいろと物入りなのよ。しばらくは二人でお願いすることになっちゃうかも」
「そうか。それなら仕方ないね」
「うん。次はなんとか都合つけるようにするから。じゃあ、今日は行くね」
ミリアはギルドから出ていった。
気にしていないよ、という素ぶりで手を振ったが、パーティーとしての活動は滞ったまま。
これで四日連続。流石に何かあるのか、と勘ぐりたくもなるが問い詰めはしない。
「でも、なんか引っかかるんだよな」
「ん? 優馬。なんか言った?」
「いや、なんでもない」
パーティーとしての活動に、爪の先ほどの不安を抱きながらも気を取り直して依頼を探す。
「アルン。今日は牧場の仕事でもやってみようか」
「いいよ。興味あるし」
勤めて明るい声で言った甲斐があった。どうやら興味を持ってくれたようだ。
そう思った優馬であったが、実は勘違いである。
アルンが考えていたのは、どんな世話が必要でいくらぐらいで取引されているかが知りたいという商人の息子らしい理由なのだから。
二人は勘違いをしたまま、この依頼を受けた。
カルディアの町を出て大街道を西に向かうと広大な牧場が目の前に広がる。
「うわぁ、こんなに広いのか」
「そうなんだよ。牛がはぐれたりすると大変だけどね」
優馬は見た目ののどかさとは程遠い苦労があると知っている。
牧場主に挨拶し、仕事が始まった。
仕事が進むに連れアルンは、浮かない顔をしていた。
思った以上にしんどい仕事だったのだ。
「ねぇ、優馬。この町の周辺にある仕事、って臭くて汚いヤツしかないの?」
「いや、そんなことないけど……」
答えにくい質問である。
確かにこの前のスライム回収といい、今日の誰もが嫌がる牛のフンの掃除といい、過酷な仕事は多い。
くたくたになりながら仕事を終え、牧場主に挨拶をして無事に終了。
「それじゃあ失礼しま〜す」
「おう、またよろしくな」
町に戻った二人はギルドに寄っていくことにした。
”たとえ疲れていても、その日の報告はその日のうちに”
冒険者の習慣である。
ところが……
ギルドのドアを開けた二人には別の用事が待っていた。
窓口でフィオナが手招きしている。
優馬が近づいていくと封筒を渡された。
「『エリシオンの灯火』に指名依頼です。一応急ぎとのことですので開封して受けるかどうか決めて欲しいのですが」
「本当ですか? 何かの間違いじゃなくて?」
にわかには信じられない。
アルンと顔を見合わせ、改めて封筒を見る。
通常、指名依頼は実績のあるベテランか少なくとも中堅以上のパーティーに来るものなのだ。
新人の三人パーティーに任せようなどという酔狂な依頼主など普通考えられない。
どうしようか迷う。
急ぎの依頼だと言うし、早く返事をしなくちゃいけないのだが、ミリアがいない状態では受けていいかどうかの判断がつかない。
だがフィオナは、気にすることはない、という。
「一人でもできる依頼らしいです。まずは中身を確認してください。依頼主も『忙しけりゃ断っても構わない』と言ってましたし」
どうやら依頼主を知っているようだ。
その口ぶりからすると斟酌しなくてもいい相手なのだろう。だいたい優馬たちに頼んでくるということは今までに会った誰かである公算が高い。
優馬は封を開けた。
「なんだガルドさんか」
依頼主はよく知っている装備屋の親父だった。
報酬も大したことはない。
仕事内容は『職人通りにある店に行って話をしてきて欲しい』としか書いてない。付記として『それ以上は店で話す』とある。なるほどこれなら報酬が安いのもわかる。この内容なら難しくないし時間もかからないが、何か引っかかる。イヤな予感としか言いようがないが、それで面識のあるガルドの依頼を断るのも気が引けるし、拒否するつもりはない。
「なんか引っかかるんだよな」
まただ。
朝のミリアの件とは何の関係もないはずなのに、共通する居心地の悪さみたいなものの正体はなんなのだろう。
「優馬、朝も言ってたよね」
「アルン、聞いてたのか……」
どうやら、パーティーのことを考えてスルーしてくれていたらしい。
違和感、ってヤツは曖昧にしていいもんじゃなさそうだな。
どれもこれも。
「この依頼受けます。一人でできるとというお話でしたけど、アルンも同行していいですか?」
「構いません。ちゃんと報酬も二人分出ますよ」
ガルドに悪いかなとも思ったが、面倒ごとになる可能性もある。
初の指名依頼なのだ。万全の体制で臨もうと考え直した。
フィオナに依頼受付のハンコを押してもらい、挨拶をして窓口を離れようとしたがアルンが付いてこない。
ギルドの奥の方をずっと見ている。
「何か気になることでもあった?」
「なんか、優馬がガルドさんの名前を口にしたところからずっとこっちを見てた人がいたんだよ」
「冒険者かな。それともギルド職員とか」
「いや、見た感じどっちとも違う。出入りの業者かなあ。なんか制服みたいなの着てたから。でも、勘違いかもしれない」
「一応、気に留めておこう。とりあえず、依頼主待ってるみたいだから行こうか」
「うん」
二人はギルドから外に出て、職人通りに向かう。
小さな町である。十分でガルドの店に到着。
「おう優馬、来たか。今、仕上がったバックラーだ。従来より二割も防御範囲が広いが重さはほとんど変わらん。耐久性は抜群だし、安くしてやるからどうだ?」
「いや、今日は依頼で来たんですけど……」
「フン、乗りの悪いヤツだ。そっちの新顔はどうした?」
「あっ、えーと、アルンっていいます。『エリシオンの灯火』に入りました」
「ああ、聞いてる。優馬がリーダーだってな。随分と短い間に出世したもんだ。まあ、いい。今日はちょっとお前らに調べてきてもらいたいことがあってな」
ガルドが切り出したのは、この職人通りについてだった。
どうも様子がおかしいので調べて欲しいというのだ。
「最近、立て続けに三軒も店子が変わったんだよ」
「それ、ってそんなにおかしなことですか?」
「ああ、いつもなら気にしないんだけどな」
ここは隣で誰が何しようが気にしない寄合所帯である。店賃が安く、それなりの固定顧客を掴んでいる古くからの店が多い。このところの好景気もあって滅多に出て行く者はいなかった。
「実は珍しく大家が訪ねてきて妙なことを言い出したんだ」
「妙なこと、って?」
「店賃の値上げだよ」
理由を尋ねるとこんな好条件の場所で今までが安すぎただけだという。どれくらいの値上げなのかと聞いてみると大したことはない。
「それでどうしたんですか」
「もちろん、突っぱねたさ。謂れのない値上げ話だからな。だが、おおかしいのはその話の出どころでよぉ」
ガルドは近隣の店から聞いた噂を話し始めた。
どうやら値上げをそそのかしたのは新しく入れ替わった三軒の店主であるらしい。どの店も困惑しているらしい。逆らって追い出されては敵わないが、納得の行かない金を払うのはイヤだという話には納得がいく。
「確かに変ですねぇ。大家さんだって、店子に出て行かれたら困るでしょうに」
「ああ、そこんとこも変なんだよなあ。帰り際にな。『今日は引き下がるが、このままで済むと思うな。この話は町の役人や冒険者ギルドにも承認されているんだ』とかなんとか捨て台詞を吐いて行きやがったんだ」
難しい。今、手の中にある情報だけでは何とも言えないな、と優馬は思う。
「それで他に何かありますか?」
「いや、なんて言ったらいいか……なんか、ノドの奥に引っかかって出てこないというか。うーむ、今言えることはないな」
残念だが、これ以上ガルドから何か聞き出すのは無理だ。
だが、これまでの話でいろいろわかってきたのも事実だ。
最初から思い返してみよう。
まず、その大家の言ってることがおかしいと思う。
値上げするかどうかを冒険者ギルドや町が決めるという話はありえないのではないか。
『承認する』などと言っていたらしいが、誰が何を承認するのだろう。
引っかかる点が多いが一旦置こう。
良く考えたら、肝心の依頼内容をまだ聞いていないじゃないか。
「それで僕らは何をすればいいんです」
「それなんだが……」
やっと依頼についての話になったがどうも要領を得ない。
ガルドは元々口が重い方ではあるが、よほど話しづらいのだろう。
何度か聞き返し、ようやくわかったのはこの職人通りに頼りになる店がある、ってこと。
そこで話を聞いて欲しいという、たったそれだけ。
その店はここからたった数十mしか離れていない魔道具店。
当然、アルンはなぜ自分で話をしにいかないのか、と聞いたのだが……。
「いや、どうもあそこの店主とは馬が合わなくてな。こういう時は頼りになるんだけどよ。顔を合わせるとケンカになっちまう」
「わかりました。その店主に今のおかしな話をしてくればいいんですか」
「ああ、そうだ。ただ、最近は忙しいらしくてな。若い店番を雇っていて出てこない可能性もある」
何だ。気まずいだけなのか。店番がいるかも知れないことは了解した。
本人がいないのなら好都合だと思うのだが、肝心の若い店番が女の子なのでガルドは苦手なのだと。
さもありなん。
「俺の風貌じゃあ、逆に怪しまれちまう」
「装備品を買いに来る女性冒険者だっているでしょうに」
「ウルセェ、とにかく依頼は話を聞いてくることだ。さあ、受けるのか受けないのか、ハッキリしろぃ!」
受けるも受けないもない。すでに依頼はギルドで受領印を押された後だ。
ここまで来て断ったら、仕事は失敗扱いになってしまう。初の指名依頼でそんなのは真っ平である。
「わかりました。行ってきますよ。他に何かありますか。特に気になることとか……」
「いや、とにかく話をしてもらえれば依頼は完了にしてやるよ。何かあれば黙ってるヤツじゃないからな」
馬が合わない割には、その魔法道具店のことを随分と信用しているようである。
「よろしく頼まぁ。本当は話を聞いて何か分かったら、もう少し突っ込んで事の真相を確かめたいところだが、今のところおまえさんに何を頼めばいいかもわかってないからな」
「わかりました」
優馬はとりあえず調査を始めることにした。
だが、アルンが何やら店の品に気を取られている。
「アルン、どうかした」
「ええ、あのナイフホルダーかなりいいですよ。何気に革鎧と一体化していてベルトに負担もかけないようになってますし」
初めてきた装備屋だから無理もないとはいえ「アルンは自由だなあ」と優馬は気楽に笑う。
依頼の店に向かうところで、その様子を見ていた影には気づかないまま。




