第21話 パーティ初依頼
「最初はやっぱり薬草採取にしない?」
「なんでよ。せっかくパーティー組んだんだから、討伐依頼を受けた方がいいでしょ」
冒険者パーティーを組んだはいいが、初依頼をどうするかで揉めている。
アルンも僕も無難な薬草採取を受けるつもりでいたが、ミリアはガッツリ魔物討伐がいいと言う。
彼女は変わったと思う。
今日のいで立ちも教会のシスター姿や魔法使いのローブではなく、冒険者らしい軽装だ。
大人しく後衛をやるつもりはないらしい。
物言いも積極的。僕もアルンもちょっと面食らっている。
パーティー内で物怖じしないのはいい傾向だとは思う。
けど、この話し合い。
少し長いんじゃないかな。
「お前ら、まだ揉めてんのかよ。もう目ぼしい依頼なんて残ってねぇぞ」
「「「えっ!」」」
少しどころじゃなかった。
カイの一言にあわてて掲示板を見る。討伐依頼は全滅。
残るは常設依頼よりはマシな程度の薬草採取と町の手伝い仕事だけ。
「どうしよう」
「仕方ないわね。薬草採取でいいわよ」
仕方なく残った依頼を掲示板から引っぺがして受付に並ぶ。
他の冒険者はとっくに依頼を受けた後。待ち時間がゼロなのがせめてもの救い。
「初依頼は決まったの? ……これね。随分地味なのを選んだのね」
「えーと。いろいろありまして」
後ろから睨むのはやめてもらっていいですか。ミリアさん。
フィリアになんて答えたらいいのかわからないじゃないですか。
アルンもよそ見してないで、話に入ってきてよ。
何も言わず淡々と依頼を受ける手続きを済ませるフィリア。僕らのいざこざなど付き合ってられない、って感じだ。
依頼には特別な要素は何もない。依頼詳細の紙をもらって終わり。いつもなら十本単位なのに、今回は十二本一束で六束という指定になっているだけ。
「それじゃあ頑張ってね」
「あっ、はい」
ギルドを出ようとドアに向かって歩き出したが、途中でアルンに止められた。
「大したことない依頼だとは分かってるけどさ。一応、決めたんだしアレ、やっとこうよ」
「そうね」
「……わかった」
僕らは右手を前に出して重ね「「「| エリシオンに向かって《アシア・エル・エリセオ》」」」と言った。
「何だよ、それ」
「どうした。カイ」
「なんか優馬たちが変な呪文唱えてたんだよ」
カイが大声を出すもんだからレオンまで、こっちにやってきた。
「いや、大したことじゃないよ」
「何を隠してるんだよ。アルン」
「いや、そうじゃなくて……優馬、どうしよう」
アルンは誤魔化そうとしたが帰ってカイをムキにさせてしまったらしい。
ちょっと恥ずかしいが説明するしかないか。
「いや、せっかくパーティ組んだんだから依頼を受けたら合言葉を決めたんだ。『アシア・エル・エリセオ』はとある古い国の言葉でね、『エリシオンに向かって!』って意味なのさ」
「ふーん、カッコつけてんな」
「いいでしょー」
「ミリア、自慢げだな」
イタリア語を古い国の言葉というのもどうかと思うが、まあ嘘ではない。昔からある国だし。
僕らは呆気に取られているカイとレオンに手を振り、ギルドを出て薬草が取れる場所へと向かった。
カルディアの町を出て西に行けば、そこそこの草原がある。
そこなら依頼の薬草も取れると思ったのだが……
「どこ行くの。この依頼ならカルディアの北にある小さな原っぱで十分よ」
「そうなの?」
ミリアはもっと近くに薬草が生えているところを知っているらしい。
確かにその原っぱは知っていたが、雑草がボーボー生えているだけだと思っていた。
行ってみると確かに雑草に紛れて薬草がところどころにあった。
「うまく雑草をかき分けて、葉を傷つけないように根から掘り起こせばいいわ」
「植生は気にしなくていいの?」
「こんな町に近いところの原っぱの植生を気にしてどうするのよ」
「あー、確かにそうか」
杓子定規に考えすぎていたようだ。
次の人が困らないように根を残さないといけない薬草もあるが、ここは気にしても仕方がない。どうせ、誰かが草なんか丸ごとひっこ抜いて家を建てるか畑にしちゃうようなところだ。
「それにしてもよくこんなところ知ってたねぇ。薬草を集めるのも早いし」
「教会の仕事では薬草も使うもの。治癒を受けにくる人はたくさんいるけど、魔法より薬草で治した方がいいことも多いのよ。まさか患者さんに自分で薬草使え、って言う訳にもいかないでしょ」
「なるほどね」
ミリアの手際がすごくいい。僕やアルンだって遅い訳じゃないけど。
話をしながら薬草を集めていたのに……小一時間で依頼の六束が集まってしまった。
まだお昼前である。
「どうしよう」
「うーん、今からギルド戻っても新しい依頼なんてないと思うよ」
「そうね。でも今カルディアの北にいるのよ。もう少し山の麓まで足を伸ばせば、狩りができるんじゃない?」
僕とアルンは顔を見合わせた。
そこには常設依頼の討伐対象の魔物が生息している。
でも、結構ゴツいのが出てくるのだ。
魔物討伐が初めての女の子には向かないような……
「まーた、余計なこと考えてるでしょ。私、魔物にビビったりしないわよ。あちこちの村に治療で遠征することもあるから。そういう時は冒険者が同行するけど、杖で小さな結界を張ったりしたわ。守られっぱなしじゃなかったの。攻撃魔法を持ってなかったから戦いに参加はしなかったけど」
「うーん、そうか」
「優馬、行ってみようよ」
心配はなさそうだ。
エイデンシェール大草原じゃないんだから、一角うさぎみたいに不意打ち一発で大怪我するような魔物はいないし。
それにこれ以上、か弱い女の子扱いすると機嫌が悪くなりそう。
歩いて十五分。
目的の山の麓の小さな森まではもうすぐ。
ちょうど昼時だ。
「休憩にしようか」
「そうね。私、こんなもの作ってきたの。みんなで食べない?」
「うわっ、美味そう!」
ミリアは僕らのためにサンドイッチを用意してた。
川の水を沸かしてお茶まで入れてくれる。
「このお茶も用意してきたの?」
「ううん、さっき薬草をとった時に、生えていたのを見つけたの。お昼にちょうどいいだろうなと思って」
「へぇー凄いね」
僕もアルンも素直に感心した。
お昼のあとは川を渡り森に入り獣道を進む。
かなりいいペースだ。流石にミリアも驚いているらしい。
まあ、これはズルなんだけどね。
何せフィンがいるんだから。
精霊の力で魔物の接近を感知してくれるので、安心して進むことができるのだ。
僕の力だけではこうはいかない。
「優馬、なんか魔法でも使ってるの」
「いや、何も。なんで?」
「不意打ちの心配なんかいらないみたいに大胆に進んでいるから」
ミリアは不審に思っているみたい。
本当に感がいい……と思っているとフィンから念話が。
(優馬。もうちょっと周りを気にするフリをしろ。バレるぞ)
(迂闊だったよ。アルンと一緒の時は気にせず進んでたからな)
(まあ、仕方な……来たぞ。少し大きい魔物だ。注意しろ)
何か見つけたようだ。
獣道を急いで抜ける。
ここで襲われてはマズイ。
森の中の小さな広間まで走り、迎え討つ準備は完了。
「大物ね」
「ああ、それほど強い訳じゃないが、侮れない相手だ」
ミリアが木陰に引っ込んで呪文を唱えている。
内容からして風魔法の一種。
威力なら火魔法だが、森の中では使えないとわかってるんだな。
これだけ落ち着いて判断できてるなら大丈夫。
あとは僕とアルンで時間を稼ぐだけだ。
魔物はもう見える位置にまで迫っていた。
ザザザザ
アルンが魔物に聞こえるように草むらを走り抜ける。そっちに意識が向いたところで、僕はショートソードの一太刀を浴びせ、素早く木の影に隠れた。
その時、ミリアが長い詠唱が完成する。
「行けぇぇ『ウィンドー・カッター』」
ザクッッッッ
ギェェェェェ
威力の高い風魔法が魔物に炸裂。
断末魔の悲鳴をあげてのけぞる。
ミリアの方を睨みつけたが、既に突進するほどの体力は残っていない。
回り込んだアルンが自慢の剣で斬りつける。
最後は僕が。
新調したロングソードを一閃。
ドォォォン
魔物は倒れた。
これにて、初依頼は終了。
後ろを見るとミリアが、詠唱準備に入っていた。念のため準備していたらしい。
本当に戦いのTPOをわきまえたいい魔法使いだと思う。
「うまく行ったね。ミリアの魔法がここまでとは思わなかったよ」
「私は二人が魔物に少しも怯んでいないから驚いたわ」
「まあまあ。お互いに実力がわかったってことで。……初仕事は上出来でいいんじゃない?」
僕らは満足して引き上げることにした。……というか、そうせざるを得なかった。
獲物が大きくて持ち帰れなかったのだ。
結局、水辺まで三人で獲物を引きずって行き、血を抜き内臓を処理して肉と皮と魔石を取り出す。
金になりそうな部位だけを持ち帰ることに。残った部分はミリアの火魔法で焼却処理。
「疲れたね。帰ろうか」
「うん。とんでもない初依頼になっちゃったね。ミリアはどう思った」
「良かったんじゃない? 魔物があそこまで重いとは想定外だったけど」
初仕事でこれはすごい戦果だ。
運搬と解体で時間を食われ、町に戻ってきたのは日没近くに。
早く宿に帰りたいところだけど、肉だけでも新鮮なうちに買い取ってもらわないと行けない。
疲れた体を引きずってギルドのドアを開けて僕らが入っていくと依頼完了報告の列が長く続いていた。
「もう少し早く帰らないとダメだね」
「いいんじゃない。初依頼ぐらいガッツリ行けて良かったわ」
本当にミリアは物おじしない。
ギルドに登録してそのまま『エリシオンの灯火』に入ったのだから、今日が冒険者として初仕事だったはずなのに。
「ミリア、君って……いや、何でもない」
「何? アルン、私の冒険者としての働きに不満でも?」
「いえ、とんでもない」
おまけにあの魔法の腕と手際の良さ。おまけにこの気の強さ。
ここまでやられてはタジタジにもなろうと言うもの。
でも、これ以上は言わない。
ミリアが不機嫌になったら大変だ。
「ほらほら、窓口に並ぶよ。今日は獲物が多いから三人で並ばないと行けないんだから」
「さすが優馬はリーダーだけあって、落ち着いているのね」
「おっ……おう」
アルンの視線が痛い。
ここは知らんぷりだな。
こんな日に限って列の進みが遅い。
「次の方……ああ、来たわね『エリシオンの灯火』。三人での初仕事はどうだった? 確か薬草採取だったはずだけど、その割には随分時間がかかったのね」
「実は依頼は午前中に終わっちゃったんです。そこで、連携を確認するために少し狩りもしておこう、ってことになって」
依頼の薬草、倒した魔物の肉と皮、それに魔石を窓口の鑑定カウンターに並べた。
窓口のフィオナの視線が鋭くなる。
「少し狩りをしたのね?」
「えー、あー、まあ……ははは」
「全くもう……無理をしてはダメですよ。怪我をする新人パーティーは多いんですから」
フィオナからお小言を頂戴する。
でも依頼報酬と魔物の討伐報酬は予想以上。
てっきり、危ないことをした罰として間引かれると思ったのに。
嬉しさに思わず声を出しそうになるのを必死に抑え、窓口から引き上げる。
「あれ、行くよ」「もちろん」「うん」
「一歩前進!!」
三人で振り上げた手を打ち合わせる。
「まーた、優馬たちが変なこと言ってるよ」
「いいんじゃね。あいつら初依頼なんだろ? 薬草採取だったよな」
「あん? あー確かそのはず……大した稼ぎじゃないはずだけど……まあ、パーティー初仕事だから報酬が少なくても嬉しいんだろうよ」
カイとレオンはわずかな稼ぎで大騒ぎしていると思っているらしい。
僕らは顔を見合わせて「稼いだ報酬額を聞いたら……」「うん、驚くと思う」「絶対そうよ」と笑い合ったのだった。




