第1話 初依頼
僕は篠崎優馬。
何の因果か冒険者になる羽目に。
本当の目的は別にあるのだが……
とにかく金がない。
依頼をこなさないと今晩泊まることもできない。
情けない話だが、まずは食い扶持である。
となると、まずは登録なのだが、僕はギルドの雰囲気に飲まれていた。
鋭利な刃を持つ剣や斧、ゴッツイ鎧に派手な装飾の盾、水晶が埋め込まれた魔法の杖。どれも本物。
周りが物騒すぎる!
(あんな凄い装備が必要なのか?)
(ゆくゆくはな。だが、若いヤツを見てみろ。武器はともなく、防具は大したことはない)
えっ? ああ、ほんとだ。
よく見ると、それほど堅牢というわけでもない。
皮の服を補強しているだけの軽装の者も多い。
まあ、あれでやれるのなら……とも思ったけど、流石に今の服だと厳しいんじゃないかな。
場違いすぎるし、守備力もゼロ。
何せ、今の服ユ○クロである。
(魔物退治用の装備なんて高くて手がでないだろ?)
(フン、まあ状況次第だな。とにかくさっさと登録して仕事を受けてこい)
「次の方、どうぞ」
やっと、順番が回ってきた。
応対してくれたのは若い女性の職員。
ライトブロンズのセミロングの髪。綺麗なアンバーイエローの瞳。
名札には ”フィオナ カルディア冒険者ギルド職員” と書いてある。
「あのー、冒険者登録をしたいんですけど」
「はい。では、まずお名前とお住まいをお聞きしてもよろしいですか?」
見た目は完全に外人だが、話す言葉は流暢な日本語に聞こえる。
たぶんアリシア様がコミュニケーションが取れるように、翻訳スキルでも付与してくれてるんだろう。
「篠原優馬です。実家は……遠く離れたところで、しばらくこの町にいるつもりなんですが」
「わかりました」
まさか「日本に住んでました」と言うわけにも行かない。適当に誤魔化したけど何も言われなかった。
困ったのはその後の謎の項目だ。
「この役割というのは?」
「冒険者はほとんどの人がパーティを組むようになります。剣士、戦士、 魔法使い、 治癒師、 盗賊というのが一般的ですね」
剣士と戦士の違いがわからない。
……と言うか、そこだけ細かく分ける理由があるのかな。
と思っていたら。
「ああ、わからないですよね。剣を使う人が圧倒的に多かったため、剣士は独立したんです。盾を使ってタンクの役割を担う場合や剣だけでなく、槍やハンマーを使う場合は戦士に分類されます」
そう言うことか!
それなら戦士がいい。
小学生の頃、剣道をやってたから剣士の方が向いてるかな、とも思ったけど竹刀と西洋剣は違う。
ここは特化しない方向で。盾を使ってみたいし。
「それじゃあ、戦士にします」
「わかりました。それでは地下の道場で役割検査を受けてください。……まあ、問題ないと思いますけど」
へっ? 問題ない、ってどういうこと?
登録用紙に剣術の経験を書くところはないんだけど。
地下に降りると道場があり、道場主査と腕章に書いてあるガタイのいい職員が。
ニヤニヤしながらこっちを見ているギャラリーが数人。
「おう、お前さんが新人の優馬だな」
「はい」
「獲物は何を使う」
木刀が数本。西洋剣によくあるカーブがきついタイプだ。
二、三度素振りをしてみた。使えないこともないな。
「それじゃあ、これを」
「よし、それじゃあ始めるぞ」
試験開始だ。
正眼に構える。ここは ”できるやつムーブ” をかますところだ。
チョンとフェイントをかけて、全力で踏み込む。
トオォォォ
残念。初撃の払い面が決まらない。
これはダメかな……と思ったのだが。
「それまで。この証書を持って窓口に戻れ。それで登録は完了だ」
「ありがとうございます」
登録が完了ってことは合格したんだよな。
なんとか、ハッタリが効いたか。
一階に戻って、再び窓口へ。
「終わりました。これが証書です」
「……確認しました。これで登録完了です。晴れて優馬さんはギルド公認の冒険者ですよ」
おおぅ、やった!
あとは依頼を受けるだけだが、その前に聞いておきたいことがある。
「なんで僕が合格すると思ったんですか」
「剣だこがあったからですよ」
「ああ、なるほど」
見るとこ見てるなぁ。
言われてみれば当然だけど、よく登録の途中で気がついたもんだ。
やはりこの人、並の受付嬢じゃないな。
……となれば、今のうちにいろいろ聞いておくか。
「えーと、フィオナさん。他に何かありますか」
「フィオナでいいですよ。注意点はあるにはあるんですけど……依頼をすぐ受けられますか?」
何か奥歯に物が挟まった物の言い方だが、とにかく依頼は受けられるようだ。
ど・れ・に・し・よ・う・か・な、っと。
目の前にある依頼帳から、初仕事を選ばなきゃならないのだが、初級者向けのものは多くない。
初仕事で失敗はしたくない。
フィオナにお勧めを聞いてみよう。
「ダークスライムの回収ですね」
「だーくすらいむ?」
「えーと、ですね……」
詳しく聞いてみるとドブ掃除らしい。
カルディアにはかなり先進的な上下水道があり、スライムが水を浄化している。
ただ、排水路に死んだスライムが詰まるので、定期的にそれを取り除く仕事をギルドで請け負っているとのこと。
内容は理解したけど、初仕事がドブ掃除はどうよ。
最初ぐらいパァーと、派手な奴にしたいところだが……
(薬草採取の仕事を受けろ)
(えっ、さっきまでバカにしてたじゃないか)
(いいから受けろ)
えーと、薬草採取、薬草採取……ああ、これか。
群生地はカルディアの真南に歩いて二時間、結構遠い。
エイデンシェールという草原にあるらしい。
フィオナのおすすめより、かなり実入りがいい。
「この薬草採取を受けたいんですけど」
「あーー、これですか…………。これはちょっと無……」
これは断られる! っと思ったところで不意に空気が変わった。
フィオナが口籠もる。心なしか表情も違う。
何があったんだろうか?
「ああ、失礼しました。危険なところでの採取になりますので、おすすめできないのですが」
「では、受けられない?」
「いえ……まあ……受付可能です……」
受けられるみたいだ。
なんか、変だがここはスルーしよう。
「薬草採取ですし、このまんまで行けますかね」
「とんでもない。エイデンシェール大草原は大変危険なところです。最低でも皮鎧とブーツが必要です」
ダメだった。
これは詰んだかな。そんな装備を買う金はない。
「ダメですか。それじゃあ『ダークスライムの回収』にします」
「その……大変申し上げにくいのですが『ダークスライムの回収』でも流石にそのままでは……」
あらら。この格好ではゴミ掃除も無理か。
困った。どうしよう。
悩んでいるとフィオナが同僚を呼んで、何かヒソヒソ話をしてる。これは呆れられてる?
貧乏冒険者は不要だと? 冷やかしだと思われて追い出されるパターン?
……いや、なんか違うみたいだぞ。
「優馬さん」
「はい。何でしょう」
「もしよろしければ、先月辞めた冒険者の寄贈品がギルドに保管されてまして、これなら安価で提供できるのですが」
渡りに船。
ヘルメットに籠手、ナイフ、ショートソード、ロングソード、革鎧、鉄の盾、背嚢、底が強化された冒険者用の靴……。
一揃いあるじゃないか。
値段を聞いてみると確かに格安である。
それでも全部は買えない。
重すぎてとても今の僕に扱えないものもあるし。
我ながら情けないとは思うけど、こんな重装備で戦える冒険者って凄いと思う。
(革鎧と背嚢、ショートソード、靴を買っておけ)
(たったそれだけ? それでいいのか?)
(ない袖は振れないからな。大丈夫だ。一応策がある)
頼りない返事だが、何か考えがあるらしい。
「これとこれとこれをお願いします」
「わかりました。盾の装備を推奨しているのですが、今の優馬さんには重すぎますね」
すいませんね、軟弱で。体力も金もないんです。
ほんと情けない。
とにかく、金を払い装備を受け取る。靴だけは新品を買うことにした。臭いのイヤだし。
とりあえず革鎧だけ着てみることにする。サイズが合わないと困るからだ。問題は財布の中身がすっからかん。
「以上で依頼受付完了ですが……エイデンシェールは本当に危険なんです。大丈夫ですか」
「もちろんです! 薬草はバッチリ取って来ますから」
「あっ、はい。それではくれぐれも気をつけて」
見栄を張ってしまった。
挨拶をして、ギルドを辞した。
もう後へは引けない。
頼みの綱はフィンが用意してくれている策のみ。
失敗するわけには行かない冒険者の初仕事はこうして始まったのであった。
本日はもう一話投稿します。




