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プロローグ 優馬とフィン

 久々に長編を書きます。

 ゆるく楽しんでいただけたら嬉しい。


 ※初日は 19:50 / 20:50 / 21:50 に三話連続投稿します。

 大通りを一本入ったところにある小さな商店街。

 服を着崩した男が一人、買い物姿の女性に軽くぶつかった。

 女性は一瞬文句を言いかけるが、男は「おっと……スマンな」と言い残し、通りの角を曲がる。


 それを物陰から見ていた者がいる。

 誰にも見えない相棒を連れて。


「あれ、スリだよな」

(ああ、どうやらそうらしい)


 姿が見えぬ相棒から返事が返ってきた。――念話である。



 周りには気づいている者もいるようだが、見て見ぬフリ。

 関わり合いになるとロクなことにならないと思っているんだろう。


「こういうの、イヤなんだよねぇ」


 そうつぶやくと、彼はスリのあとをつけていく。

 横顔にはイタズラを思いついた子供のような笑みが張り付いている。


(何をする気だ? お前にはスキルも攻撃魔法もないのだぞ)


 相棒は止めようとするが「いいからいいから」と言って取り合わない。

 「スられた人、どこに行くか見といて」と言い残して、裏路地へ消えた。


 仕方なく相棒もスられた女性の後を追っていく――




 スリを追いかけているのは篠崎優馬。日本の高校生。

 相棒の名前はフィン。精霊である。


 ここは異世界アルティーリア。

 フィレンティア王国辺境の町カルディア。


 本当ならこの世界にやってきた理由を説明するところだが………

 どうやら、この小さな事件の行方を追った方がいいらしい。


 優馬が、角の向こうからニヤニヤしながら戻ってくる。



(何をした?)

「ほれ」


 手には、スられたはずの財布が。


「スられた人、どこにいる?」

(あそこだ。露店で買い物をするつもりだぞ)


「そいつは急がないとな」


 そう呟くと、さっさと露店の方へ歩いていく。

 そして、何食わぬ顔で値切り交渉を始めた。

 フィンには優馬がしていることがわからない。


(人の財布で買い物か。それなら判断を改めねばならんが)


 女神アリシア様が召喚した優馬を無碍(むげ)に扱うつもりはない。

 だが、スッた財布で買い物をするような者であれば話は別だ。


 フィンはもやもやしていた。


 当の優馬は露店の主人と話を続けている。


「高いよ。それ、あっちの通りじゃ半額だったぞ」

「そんなわけねぇだろ。冷やかしならあっち行ってくれ」

「チェッ、まあいいや。また来るわ」


 離れ際、財布をカバンにさし入れた。

 そのまま何事もなかったようにスタスタと戻ってくる。


(なんと! スリからスリ返し、しかも気づかれずに返すとは……お前という奴は、よくもそんなことができるな)

「いや、あれはスるより気づかれないように返す方が難しいんだよなあ」


 フィンはこのおかしな青年について掴みかねていた。

 今はまだ感心半分、呆れ半分。

 少なくとも一つの悪事を未然に防いだことだけは認めてやるか、と考えている。



挿絵(By みてみん)



(まあいい。そんなことより冒険者ギルドだ)

「はいはい………。それより今の僕って、ただの変人としか思われてない?」


 小さな女の子がこっちを見てクスクス笑っている。

 まあ、それも当然だ。フィンは姿を見せていない。

 はたから見れば、優馬がひとりごとを言っているように見えるはず――


 優馬はバツが悪そうに笑い、手を振ってごまかす。


(ふざけたやつだ)


 フィンは小さく嘆息した。



(気になるなら、わざわざ思ったことを口に出す必要はない。念じるだけで通じる)

(そうなのか? そりゃ、楽チンだな)

(まったく、お前はふざけてばかりだな)


 その文句には答えず、優馬は目的地に向かうことにした。

 フィンはまずは冒険者になれという。


(しかし、なんだってそんなもんになる必要がある?)

(仕方あるまい。手持ちの金では宿にも泊まれないのだぞ)

(そうかなあ)


 ポケットには何枚かの銀貨がある。

 普通に考えてこれで宿屋に泊まれないなんてことはないはずだ。


(いいから急げ。第一この町の中でじっとしているわけにもいかんだろ)

(どう言うこと?)

(今のままでは町に出入りするたびに身元を尋ねられ、通行料を払う必要がある)


 優馬は「そうなのか」とひとりごちた。

 フィンが嘘を言っているようにはみえない。

 でも、それが全部真実とは限らないのだ。


「まあ、いいや。その話の乗っかってやるよ」


 どうせ、すぐに帰れるとは思っていない。

 まずは異世界を楽しんでやろうと優馬は笑い飛ばした。


 フィンはまだ優馬の評価を決めかねている。

 慌てていないのは及第点。

 だが、厄介ごとには首を突っ込みたがるお調子者をどう考えればいいのやら。


 その後も取るに足らないことをつらつらとフィンに話しかけては怒られ、顔を上げた先には冒険者ギルドの看板。

 どうやら目的の場所に着いたようだ。


「それじゃあ、登録でもしましょうかねぇ」


 太々しく、伸びをして優馬は冒険者ギルドのドアを開けた。


 スローライフでもざまぁでもない、ごく普通の成長系異世界ファンタジー。


 目的は「王国を救うこと」。

 田舎町から始まり、仲間を集め、少しずつ前に。


 主人公・優馬には無双できるチートはありません。

 派手さは控えめ、地道に積み上げる物語を楽しんでいただければこれ幸い。


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