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第12話 ソロの理由

 異世界に来てから半月が過ぎた。

 順調だ。新人冒険者としては立派な成果と言っていい。


 だが、もともとこの世界に来た理由である『国を腐敗から救うこと』については何もできていない。

 食い扶持は必要だし、この世界の常識すら知らないことだらけ出し、仕方がないとも言える。


 お目付役のフィンも何も言ってこないんだから問題はないのだろう。



 しばらく辞めていた魔物討伐を積極的に受けるようになった。

 今日もエイデンシェール大草原で一角うさぎ(ホーンラビット)狩り。

 スピードに慣れさえすれば、力の弱い狩りやすい魔物である。


「そろそろ上がろうか」

「ああ、これだけあれば十分だろう」


 すでに日は傾きかけている。

 無理はしない。



 近頃、掲示板の依頼を受けていない。

 最近は冒険者だけでなく、一部のギルドの職員にまで目をつけられていると聞き、自重しているのだ。


 今日も討伐した獲物を丁寧に解体し、草原から帰り道を急ぐ。

 カルディアにつくまではあと一時間。




 その頃、ギルドは閑散としていた。

 夕方に差し掛かった今の時間、依頼を受けた連中の大半はまだ帰って来ないし、逆に依頼をこれから受けるには遅すぎる。

 三つある窓口も一つしか開いていない。


 奥には机と椅子が並んでいて、休憩、パーティーの話し合いなどいろいろな用途に利用される。

 今は中堅パーティーの『旅路の剣』大きな冒険を終えて一休みしている。


 突き当たりで、酒場が開くのを待っているのは飲兵衛魔法使いのエルフィナだ。



 近くには、カイとレオンがいるが、彼らは休んでいるわけでも、何かを待っているわけでもない。

 所属している『暁の守護者』は最近、ゾルタンの迷宮で探索を続けているのだが、若手組の二人は返されてしまったのだ。


「なあ、レオン。俺たちそんなに弱いかな」

「そんなことないだろう」

「でも、置いてかれた」


 こうなったのはパーティー事情によるものだ。

 普段は育成のため若手も同行を許しているが、懐具合が怪しくなるとベテラン組だけで深い階層に本気の狩りに向かう。


「あーあ、俺たちもお宝を掴んでみたいよな。リーダーも、もう少し俺たちを信用してくれてもいいと思わねーか。レオン」

「仕方ないよ。四階層だって見てるだけなんだから」

「そんな事ねーよ。俺だって……いや、なんでもない」


 レオンがクスクスと笑いながら、ナイフをくるくる回している。

 実は昨日、一騒ぎあったのだがカイが言いかけたことでそれを思い出したのだ。


 一対一で戦うのは二階層まで、ベテランと組んで補助的に戦うなら三階層も許可。四階層は手を出してはいけないと厳重に言い渡されていた。


 だが、見ているだけでは不満なカイは「隠れていろ」と言われた場所より数m先まで進み、うっかり柱の影から首を出した。その時スパルトイが投げたククリナイフが首筋を掠め、もんどり打って倒れ大騒ぎだったのだ。


 レオンはナイフを回していたのは、投げられたククリを模してのこと。

 つまり、カイは揶揄われていたのだ。


「ちぇっ、もういいよ。バカにするがいいさ」

「ごめんごめん」


 本気でカイが怒るのでレオンはナイフをしまう。


「あーあ、他の連中遅いなあ………ん? 一人帰ってきた」


 『漆黒の牙』に所属しているリュークだ。


 カイ達を見つけると、手で「待ってて」という合図をして窓口に急ぐ。

 窓口に袋を差し出し、ギルドカードの更新を行う。どうやら依頼の獲物を提出しているようだ。

 現金を受け取らないところを見ると稼ぎはギルド口座にそのまま入れているのだろう。


 リュークのところはいつもそうだ。

 手続きを終えるとカイたちのところに走ってくる。


「お待たせ」

「リューク、今日の仕事は終わりか」

「ああ、仕掛けにかかった獲物を取りに行っただけだから」


 『漆黒の牙』のリーダーは、あまり計画的に仕事をしない。

 昨日は森の狩場にワナを仕掛けていたので、かかった獲物を解体してリュークが持ってきたのだ。

 リーダーは、そのまま一人でまた森の奥へ行ってしまったらしい。


「お前んとこ、ちゃんと教えてくれるのか?」

「いや、リーダーは ”見て覚えろ” って人だから」

「ふーん」


 カイはちょっとリュークのことを心配している。

 リュークのいる『漆黒の牙』には良くない噂がある。


 だが、リュークよりも心配な奴が一人。

 ちょうど、その男がギルドに帰ってきた。



 優馬だ。


「遅くなっちゃったよ」

「毎日、頑張ってるね。そろそろ窓口混むから先に依頼の完了報告してきた方がいいよ」

「そうする。ありがとう、レオン」


 窓口に向かう。


 このギルドで仕事を始めてまだ一週間だが、もう慣れたものだ。

 すぐに解体した獲物を査定してもらい、幾らかの現金をもらって戻ってきた。


「今日も常設依頼?」

「うん。そろそろ掲示板の依頼書もやってみたいだけど、なかなかいいのがなくてさ。まあ、面倒がないのは助かるし」


 これは口実だ。

 掲示板の依頼は割がいいが、仕事を完了するまで一手間余計にかかる。依頼主の評価とサインが必要になるからだ。

 優馬は「顔が売れるまでは信用がなくてなかなかいい仕事が受けられないんだよ」などと言い訳をしているが、本当の理由は「目立たずソロ活動するため」である。

 それを言うつもりはないが。


 常設依頼とはいえ、一角うさぎ(ホーンラビット)狩りの実入りは悪くない。

 暮らしていくだけなら、そこまで危険な仕事をする必要はないのだが、優馬には目的があった。


 きちんとした盾を買うことである。

 そのために一日に複数の仕事をこなし、今日も仲間うちで最後まで仕事をしていたのは優馬だ。


「毎日、遅くまで頑張ってるけど、大丈夫?」

「ようやく慣れてきたところだから……もう少し、効率良く稼げるといいんだけど」

「ケッ。新米のくせにソロで仕事をするなんて十年早ぇぇんだよ」

「いや、そのうちにさ……」

「そのうちになんだよ!」


 カイが身を乗り出し、それをレオンが止める。

 ちょっと険悪なムードになりそうなその雰囲気に横から声をかけた者がいた。


「無理に誘うもんじゃないわ」

「エルフィナさん!」


 カイはエルフィナに声をかけられたことにびっくりしていた。

 彼女はいつも夕方になると冒険者ギルドにいるベテランの女魔法使いなのだが年齢は不詳。

 とにかく謎が多い。


 このギルドでもエルフィナに一目置いているベテラン冒険者は多い。

 だが、若手にとって彼女は ”単なる飲兵衛” である。


 酒以外に興味がなさそうな彼女が、若手冒険者の話に首を突っ込んでくるとは思わなかった。


「勝手に話に入ってごめんなさいね」

「いえ、それは構わないんですけど、実は僕も優馬が一人で依頼をしているのは心配なんです」


 レオンがそういうと後ろにいるカイとリュークがうんうんとうなづいている。


「なるほどね。それで優馬、あなたはどう考えているの」

「僕ですか……ゆくゆくはパーティーを組む必要があるとは思っているんですけど。まだその時じゃないかな、と」

「そう。それなら構わない。でも、一人では限界がある。そのこともよく理解しておくことね」

「はい。肝に銘じて」


 その一言を聞くと、エルフィナは踵を返してカウンターの方へ行ってしまう。

 優馬は「あー、やっぱり酒場が開くのを待ってたのかぁ」と思った。

 また、ここで一番強い酒を頼むのだろう。


 その後ろ姿に「パーティーに入ることも考えておきます」と言ったが、彼女は軽く手をあげて返しただけだった。

 結局、なぜ彼女が突然、声をかけてきたのかはわからなかった。



 さて、優馬はなぜパーティーに入らないのか?


 理由は二つある。

 一つ目は実力不足だ。冒険者になってまだ一週間。未熟者もいいところで、自分が入ったりしたら迷惑をかけるのではないか、という思いだ。

 実際にはソロで得られる経験は大きく、他の若手冒険者に引けを取らないのだが、それは本人の預かり知らぬところだ。


 もう一つはフィンのことである。

 信頼が持てない相手に話すつもりはない。仮に仲間に話したとしても、今度はギルドにどう報告するかが悩みどころなのだ。

 魔物をテイムしたのなら問題ない。しかし、精霊を引き連れている冒険者などはいないし、フィンに『テイムされていることにしろ』などと言ったら激怒すること請け合いである。


 そんな事情もあって、カイたちの疑問に対し答えをはぐらかし続けている。


(パーティーを組まない理由を私のせいにしてないだろうな?)

(……そんなことないよ)


 一瞬、念話を返すのが遅れる。


 「タイミングだってあるだろう」とひとりごちた。

 言い訳に過ぎないことも分かってる。

 優馬は掛け違えたボタンをコートで隠すような気分になっていた。



「でも、本当になんでソロでやってるの? 新人が一人でやっていると受けられる依頼も少ないでしょう」

「リュークも心配してくれるのか。ありがとう」

「リュークも、ってなんだよ! 俺はお前のこと心配なんかしてないぞ」

「ほら、またカイはいい加減突っかかるのはやめなよ」


 しばし睨み合いになったが、カイはプイッと横を向いてしまう。

 レオンはリュークと話を続けながら、カイを宥めている。



 それを見て優馬は席を立つ。


「それじゃあな」

「もう行くのか」

「ああ、稼がないとな」

 

 カイたちとは違い、ソロで活動している優馬には蓄えがない。

 すぐに困ることはなくても蓄えに余裕は必要だ。


「ソロでよくやるよなあ」

「ほんとにね」


 カイたちは見送りながら、日銭を稼ぐ毎日に終始しているのを同情交じりで見ていた。

 

「僕はソロでもやれるから……」


 誰にともなく優馬はそう言い放ち、ギルドを後にする。

 フィンも今日ばかりはそれを強がりと言うのを辞めようと思った。

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