interlude1 フィレンティアの危機 〜精霊の報告〜
私はアリシア。主神としてこの世界アルティーリアを収めている女神よ。
異世界アルティーリアの全てを統べる私にとって、たかが一国が滅びようが大した話ではないわ。
でも、ひょんなことからある国を救うことになってしまったの。
半年前に届いた『祈りの手紙』。
差出人はロイ・エルバート。内容は母国の窮状を訴える物だった。
“アリシア様
お願いがございます。フィレンティア王国をお救い下さい。
一見、平和に見えるこの国で腐敗は進んでいます。
政治、貴族世界、軍、商業、農業 あらゆる分野が停滞し
王都、地方都市、小さな町や村などすべての場所から活気が失われ、民は苦しんでいます。
このままでは王国の滅亡も時間の問題です。
なにとぞ、願いをお聞き届け下さい”
私にはこの手紙を無視することはできなかった。
ロイ・エルバートは元勇者パーティーの一員で、今はカルディアという町の冒険者ギルドマスター。
彼には恩があるの。
この世界は20年前、魔王に滅ぼされかけた。
全ての人族、亜人が手を取りこれに抵抗していたが、魔王軍に太刀打ちできなかった。
それを救ったのは冒険者の一団、勇者パーティーだった。
その後、解散して散り散りになってからも、私は彼ら一人一人にオーブを贈り何か困ったことがあれば必ず力になると約束しオーブを送ったの。
このオーブに捧げたものが『祈りの手紙』ね。
手紙を受け取った時、とても不思議に思ったの。
とてもフィレンティア王国が滅びに瀕しているようには見えなかったんだもの。
それに……。
頼るべき神なのに、助けられたのは私。
オーブを渡しただけで彼らに寄り添ってこなかった。
そして、知らせをくれたのはロイ一人。
それが、例え助けを求めるものだとしても嬉しいわ。
……ぐずぐずしてはいられなかった。
今のフィレンティア王国を知る必要がある。
そこで、精霊たちに調査を命じたの。
〈水の精霊〉アクアルーンは流れを司る。水路・港・雨の気配から市場の流れまで。
〈道の精霊〉ラームは行き交う旅人のように。物流から商業都市の発展や衰退の兆しを知る。
〈火の精霊〉メルフレアは戦の炎。武器の精錬から戦場の気配を。
〈大地の精霊〉ポルは土の恵み。農と土。作物の生育。その全て。
〈光の精霊〉ルミアは光を与え、影を照らす。魔物や闇に潜むものの動向を知る。
〈花の精霊〉ブロッサは華やかさの象徴。貴族の庭園に紛れ、社交界に漂い、流行や人間関係を肌で感じとる。
〈闇の精霊〉ロンダークは影を暴く。貴族社会の闇を見通す。密約や裏取引の気配を知り尽くす。
精霊たちはフィレンティア王国内の人間社会に潜り込み、その内情を調べに行ったわ。だけど、調査には時間がかかる。
一刻も早く現状を知りたい私は、動物や鳥たち、精霊、その他あらゆるものを使ってフィレンティア王国について調べてみると、一見平和に見えるこの国はかなりまずい状況になっていることがわかったの。
王国全体で廃村の数は二桁に上っていた。
現存している村の中にも離農したり隣国に逃亡した農民は決して少なくない。
でも、おかしなことに国はその体裁を保っている。
惨状が顕在化しないのかが不思議だわ。
全ては精霊の報告を聞いてから。
ジリジリしながら、彼らが戻ってくるひと月の期間を過ごしたわ。
彼らの報告してくれた内容は思った以上に悪いものだった。
〈水の精霊〉の報告
・水路や堤防などの修理が行われていない。川の氾濫や水の汚染が進んでいる。
「アクアルーン。あなたの所感は?」
「問題の背後には汚職があります。賄賂で職にありついた未経験者が関連業務の重要ポストにいることで、工事自体がうまくいっていません」
「どこが一番ひどいの?」
「王都に近い町ほど顕著かと」
「そう。ありがとう。
〈道の精霊〉の報告
・流通網が発達しているため、経済はなんとか回っているが、物価の上昇は止めようがない。
・友好国のリスタリア公国から農産物がほとんど入って来ていない。
「ラーム。あなたはどう感じたの?」
「暴利を貪る商人が多く、役人と結託して各産業から利益を吸い上げている例も散見されました」
「困った問題ね。それでどこが酷いの」
「王都から、大街道沿いに商業の都マルバーニアまでです」
「ありがとう」
報告は続く。
一つ一つを聞くたびに私の心は沈んでいった。
火の精霊からは、隣国ファルマンドとの紛争の話が。
大地の精霊〉からは、国内の北部、西部では農作物の不作が。
光の精霊、花の精霊からの報告も芳しいものではなかった。
最後は闇の精霊からの報告だ。
「最後ぐらいいい報告が聞きたいわね」
「そういうことなら……ケルズホーン山脈の南。特にカルディア周辺の町は比較的平和です。汚職も少なく農作物の不作もありません」
そこにいるのは彼だ。
うまく町をまとめているのだろう。
「なるほど。それは冒険者ギルドのマスターのおかげ?」
「はい、ロイ・エルバートの手腕によるものです。……ですが、彼は早晩消されるでしょう。彼はこの町の腐敗を十年かけて一掃しました。それが、利権を欲する貴族たちにとって邪魔になっているのです」
そう。やはり。
あなたは一人で戦ってきたのね……。
彼に報いよう。
私たち神は魂を重んじる。
散り散りになった冒険者パーティーの中で唯一、国に残った彼を救おう。
でも誰を?
アルティーリアの世界のどこを探してもこの状況をひっくり返せる人はいない。
となれば、違う 理をもつ文明が必要。優れた政治形態、優れた科学文明……となると世界を渡るしかない。
ここは別な世界に掛けるしかない。
魔法もないのに高度に発達した地球という星に。
私はこの腐敗した国を救うため、その不思議な星に向かうことにした。
必ず、力になってくれる誰かを見つけよう。




