表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界と、セカイ  作者: チャンカパーナ橋本
セカイと、世界。の全話分
PR
8/34

第8話

「太宰はみんな暗いって思いがちだけど、実はものすごく明るい人だと思うんだ。その要素は御伽草紙やグット・バイとか色んなところに散らばっているし、僕から言わせれば、人間失格も明るい作品に見える。何でかっていうと世の中に対する皮肉というのかな」

「ふんふん」

「……ごめん。興味ないのに、いきなり語っちゃって」

「いえ! すごく面白いです!」


 河野さんはそういって目をキラキラさせていた。素直に良い人だと思った。


「前にも好きな本を聞かれて、熱心に答えちゃったんだ。けど、『怖っ』ってひかれちゃって」

「ああ、それは日陰フィルターの弊害もありますね」

「日陰フィルター?」


 初めて聞く言葉に思わず聞き返す。


「普段物静かな人というのは、他の人にとってその姿がデフォルトです。だけど勿論テンションが上がることも、人間である以上あるわけで」

「……うん」

「そのテンションの上がった状態を、突然みた人たちはビックリしてしまうんです。自分たちが見たことない、自分の想像の範疇に及ばないテンションの私たちに。で、ドン引かれてしまうという」

「ああ、確かにそうだね。はははっ」


 河野さんの言い方には、苦労をもろともしない清々しさみたいなものがあって、思わず笑ってしまう。


「これ、逆に私たちからしたらどんな気持ちなんでしょう? イケイケの人たちが、私が話しに入った瞬間いきなり黙る、みたいな驚きですかね?」

「それはそれで、また違う怖さを感じるけど……」


 感じたままの意見をいうと河野さんは「確かに、何か違いますね……」と首をひねった。


「……でも、すごいね。河野さんは」

「えっ、何がですか?」

「その、何というのかな。逆境にもめげない感じ、っていうのかな? 僕だったら沈んじゃうところを、プラスに変えちゃうところ」


 心の底からでた言葉だった。単純に僕より彼女は、優れていると思ったからこそ出た言葉だった。

 だけど、僕の思惑は彼女の心には届かず、河野さんの表情には僅かに翳りが生まれる。


「……逆ですよ。こうでもしないと、心が耐えられないんですよ」


 箸でつまんだ卵焼きを見ながら河野さんは言った。


「何ていうんでしょう。マイナスをプラスに、無理矢理捉えようとしている感じでしょうか」

「……それ、詳しく聞きたいな」


 僕にとって、単純に、興味のある話だった。


「えっ!? い、いや、やっぱ忘れてください。恥ずかしいんで」


 赤面しながら河野さんは卵焼きを口に運ぶ。


「……」


 僕は逡巡した。ドラマの中の主人公ならそれでも「聞きたい」といって河野さんが、「言わない」の押し問答を始めてもいい。

 だけど、所詮、僕は僕だ。

 本当に恥ずかしがっていて、無理矢理問いただして、河野さんに嫌われたらどうしようとか、そんなことを考え始めていた。

 だから、僕はこんな言葉を選んだ。


「そっか」


 それが正しいのか、間違っているのかはわからない。


「じゃあ、もし河野さんが話してもいいと思ったら話してよ」


 いや多分、間違っている。

 だけど、これがどうしようもなく、僕なんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ