第33話
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「お世話になりました」
「うん、いつでも相談にも、遊びにもおいで」
担当医の根田さんに、最後の挨拶をする。
僕が入院して、二週間が経った。
ガラスでついた腕の傷は、あと少しずれていたら神経が傷ついて麻痺していた可能性もあったらしい。だが、幸い大事には至らなかった。
それに加えて、観覧車からの自殺未遂、家庭環境、セカイの存在などから、精神面でも長期の入院が必要かもしれないと当初は言われた。しかし蓋を開けてみれば、経過はすこぶる良好で、それは先生も驚くほどであった。
「しかし、こんなに早く退院できるのはすごいことだよ。頑張ったね」
「……夢がありますから」
自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
「ますます良いことだ」
根田さんは、少年のように笑った。
「どんな夢か、教えてくれないかい」
「……具体的には決まってないですけど、僕みたいに苦しんでいる人がいたら、助けられる職業に就きたいなと思っているんです。うまく伝わらないかもしれませんけど、教師とか、作家とか、それこそカウンセラーとか。……すいません、まだ曖昧でうまく伝わらないかもしれませんけど」
「大丈夫だよ」
しっかりと僕を見据えて、根田さんは力強くそう言ってくれた。
「しっかり、伝わってきたよ」
「……ありがとうございます」
その真っ直ぐな根田さんの姿勢が、僕にはすごく嬉しい。
「……その様子なら心配ないかもしれないけど、一応言っておくよ。君の出来事はマスコミで報道されてしまって、君は今やちょっとした有名人だ」
「……はい」
「高校生」、「観覧車」、「自殺未遂」、「架空の少女」というキーワードがマスコミの興味を引いてしまったらしい。その反響は、病院での周囲の視線や、ネットの書き込みからも窺えた。
そして、極めつけは、SNSで拡散された僕の映像だ。
観覧車を飛び降りようとして、上半身が下を向いた瞬間、僕は何かをつぶやき、窓枠を掴んだ。そして、そのまま後ろに倒れ込んだ。何かが乗り移ったような僕の動きは、結果的に大きな反響を呼ぶこととなった。
「しばらく変な視線に晒されるかもしれない。変なことを言ってくる人もいるかもしれない。……でも、君の学校の先生方も、スクールカウンセラーの人も、全力で君をサポートすると言ってくれている。……河野さんという女の子もね」
根田さんの笑顔に釣られて、思わず僕も笑ってしまう。
「あと、これも肝に命じておいて欲しいんだ。しっかり見れば、君にはちゃんと味方がいるってこと。それだけは、忘れないで欲しいんだ。そうすればこんな事、三か月後には笑い話になってる」
「……はい、ありがとうございます」
「ところで明日から学校は行くのかい? それなら学校に連絡をしときたいんだけど」
「……いえ、すいません、ちょっとサボります」
「ははっ、三連休ってことだ」
明日は金曜日だった。
「荷物の準備もあるしね、君は今まで欠席も一度もしてなかったみたいだし、たまにはサボったってバチ当たらん」
母さんも、この一件をきっかけに、しばらく入院をすることになった。まだしばらく入院は続くそうだが、それでも経過は順調らしい。それは僕から見てもわかるほどで、何より笑顔が多くなった。
そして、それを機にしばらく母の実家に住まうことになった。しばらく会ってなかった祖母だが、何度も謝られたあと、暖かく迎え入れてくれた。
「いえ、実家には土曜日に行くように言ってあります」
「えっ?」
「ちょっとすぐにでも、行っておきたい場所があって」




