表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

737/811

北行編その38 『越境 ― 黙認された手』



◆1 動く夜


夜のトロントは、音が少ない。


昼間は騒がしい街も、

深夜になると“均された盤面”みたいになる。


車の数が減り、

信号が意味を失い、

人の動きが途切れ途切れになる。


(……こういう時間帯を選ぶ)


アリアは、ホテルの非常階段を使って地上に降りた。

正式な移動ではない。

だが、逃走でもない。


“迎えに行く”側の動きだ。


コートの内側、刀はまだ鞘の中。

だが、手はいつでも届く位置にある。


(NSAは――来る)


問題は「いつ」ではなく、

**「どの形で来るか」**だった。



◆2 黙認という名の通路


カナダ政府側の連絡は、途切れていない。


だが、内容は変わった。


『現在、国内での直接的な保護行動は制限されています』

『外交的配慮により、即応は難しい』


(……つまり)


止めない。

だが、止められないとも言わない。


黙認。


それは国家が最もよく使う、

“責任を持たない許可”だ。


アリアは、交差点の影に立ち、

周囲の気配を探った。


(……来てる)


遠く。

だが、確実にこちらを測っている視線。


訓練された視線だ。



◆3 先に動いた手


唐突に、街灯が一つ消えた。


次に、もう一つ。


(……電力じゃない)


制御だ。


アリアは、ゆっくりと歩き出した。


逃げない。

隠れない。


その動きが、

“こちらが気づいている”という合図になる。


そして――

その合図に、応える者が現れた。


路地の奥から、三人。


黒い服装。

無線。

銃は見えないが、位置で分かる。


(NSA)


だが、ワッペンも標識もない。


完全な“否認可能部隊”。



◆4 言葉は一度だけ


一人が、英語で言った。


「動かないでください」


声は落ち着いている。

命令だが、敵意は薄い。


アリアは、足を止めた。


「ここは、カナダです」


「承知しています」


「公式の許可は?」


「答えられません」


(……やっぱり)


アリアは、静かに言った。


「それは“越境”です」


男は、少しだけ間を置いた。


「我々は、“回収”に来ました」


「私は、物じゃない」


「危険物です」


その言葉で、アリアは理解した。


(……話は、もう尽きてる)



◆5 抜かない刃


三人が、距離を詰める。


銃は、まだ出ていない。

だが、出せる距離。


アリアは、一歩前に出た。


「最後に言います」


低く、だがはっきり。


「ここで私を取れば、

 止めに来る人間が“国”になる」


男の一人が、無線に触れた。


短いやり取り。


(……上が、迷ってる)


迷いがあるということは、

想定外ということだ。


アリアは、刀に触れた。


抜かない。

だが、触れるだけで――空気が変わる。


「引き返してください」


「……できません」


「なら」


アリアは、視線を上げた。


「止めます」



◆6 非致死の衝突


動いたのは、NSA側だった。


閃光弾。


だが――

投げる瞬間が、遅い。


(……甘い)


アリアは、横に跳んだ。


音と光が爆ぜる。


だが、彼女はもうそこにいない。


次の瞬間。


鞘が、男の手首を叩いた。


銃が落ちる。


刃は抜かない。


二人目が掴みに来る。


体重移動。

肘。

喉元ではなく、鎖骨下。


呼吸が止まり、男は崩れる。


三人目が後退する。


(……これは)


恐怖ではない。


理解だ。


「撃つな!」


誰かの声。


アリアは、止まった。


倒れた二人は、生きている。

致命傷はない。


それが――

彼女の“条件”だった。



◆7 線を引いた者


無線が、一斉に鳴る。


短い命令。


撤退。


残った男が、悔しそうに言った。


「……あなたは、後悔する」


アリアは、静かに答えた。


「後悔するのは、

 線を越えた側です」


男は、何も言わず去った。


街灯が、一つずつ戻る。



◆8 動いた結果


数分後、

カナダ政府側から、短い連絡が入った。


『今夜の件、把握しました』

『これ以上の“黙認”は困難になります』


(……効いた)


黙認が破れた。

それだけで、十分だ。


アリアは、夜空を見上げた。


(止めた)


まだ、完全ではない。


だが――

抜かずに止めた。


それが、今回の意味だった。



✦ 次回予告 ✦


北行編その39


『余波 ― 止められた後に残るもの』


・NSA撤退の政治的衝撃

・カナダ政府が“選ばされる”瞬間

・そして――マイケルからの続報




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ