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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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北行編その39 『余波 ― 止められた後に残るもの』




◆1 翌朝の静けさ


朝のトロントは、昨夜の出来事を何一つ覚えていないような顔をしていた。


通勤客。

コーヒーショップ。

信号待ちの人波。


アリアはホテルの窓から、その光景を見下ろしていた。


(……何も、なかったみたいだ)


実際、ニュースには出ていない。

警察発表もない。

抗議声明も、まだ。


だが――

何もなかったように振る舞っているだけだ。


携帯端末が、机の上で震えた。


表示されたのは、カナダ政府側の連絡官。



◆2 公式の言葉、非公式の温度


『今朝、緊急会合が開かれました』


淡々とした文面。


『昨夜の事案について、

 “越境的接触未遂”として認識されています』


(……未遂、ね)


『現時点で、貴女に対する拘束・制限は行われません』


アリアは、画面を見つめたまま返事をしない。


続きが来る。


『ただし――

 これ以上の同様事案は、国内で許容できない』


(つまり)


「次は、こちらが前に出る」


という宣言だ。


アリアは、短く返信した。


『理解しました』


それ以上でも、それ以下でもない。



◆3 割れた空気


正午前。


ホテルの小さな会議室に、数人が集められた。


・カナダ政府高官

・外務省関係者

・安全保障担当

・そして、アリア


英国とフランスの席は――空いている。


(……距離を取った)


それ自体が、態度表明だった。


「率直に話します」


高官が言った。


「昨夜の件で、我々は“選ばされた”」


「選ばされた?」


「はい。

 あなたを守るか、

 他国の行動を黙認するか」


アリアは、静かに答える。


「どちらを選びましたか」


「――前者です」


即答だった。


だが、その声には覚悟が滲んでいる。


「それは、“同盟国の一部を敵に回す”選択でもあります」


「分かっています」


「それでも?」


「それでもです」


高官は、息を吐いた。


「あなたは、我々の“保護対象”から、

 “国内秩序に影響を与える存在”へ移行しました」


(……段階が、変わった)



◆4 マイケルからの声


会議が終わった直後。


アリアの端末が、再び震えた。


今度は――

見覚えのある番号。


(……マイケル)


通話を受けると、少し掠れた声が聞こえた。


『……生きてるか』


「ええ。そっちは?」


『退院は、まだ先だ。

 医者に、無茶するなって怒鳴られた』


(……本当に、生きてた)


アリアは、思わず目を閉じた。


「……良かった」


『で、聞いたぞ』


「何を?」


『NSA、止めたんだってな』


アリアは、短く答えた。


「抜いてません」


一瞬の沈黙。


『……それが一番、厄介なんだ』


マイケルは、苦笑するように言った。


『抜かなかったってことは、

 “制御不能”じゃないって示したってことだ』


「それは……悪いことですか?」


『いいや。

 ただ――』


声が、少しだけ低くなる。


『次からは、

 お前を“壊す理由”を作りに来る』


アリアは、静かに頷いた。


「分かっています」


『それでも行くんだな』


「ええ」


『……無事でいろ』


通話が切れる。



◆5 残ったもの


午後。


アリアは、一人で街を歩いた。


特別な護衛はいない。

だが、視線は確実に増えている。


(……完全に“見える存在”になった)


それでも、恐怖はなかった。


恐れているのは――

むしろ、周囲のほうだ。


刀は、まだ抜かない。


だが、

抜かずに止めた事実が、

各国の計算を狂わせている。



◆6 選択肢の減少


夕方、カナダ側から新しい資料が渡された。


・東部ルート(大西洋側)

・南部ルート(米国経由)

・第三国経由(詳細非公開)


ページをめくるたびに、条件が増えていく。


(……減ってる)


選択肢が増えているようで、

実際には“安全な道”は減っている。


最後のページに、短い一文。


「滞在可能期間:残り72時間」


アリアは、資料を閉じた。


(来たな)



◆7 抜かない者の覚悟


夜。


ホテルの部屋。


アリアは、刀を膝に置いた。


鞘のまま。


(私は、まだ拒否できる)


拒否権は、残っている。


だが、

使えば――流れが変わる。


(……でも)


昨夜、守ったもの。

止めた線。

生きている人たち。


それらは、確かにここにある。


アリアは、静かに呟いた。


「……逃げるためじゃない」


選ぶためだ。



✦ 次回予告 ✦


北行編その40


『期限 ― 残された七十二時間』


・各国が提示する“最後の条件”

・東か、南か、あるいは――

・そして、アリアが“拒否権”を切る瞬間


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