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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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北行編その37 『反発 ― 拒否が生む、越権』



◆1 拒否の余波


拒否は、静かに受理された。

だが――静かに終わるとは、誰も思っていなかった。


トロント市内、政府関係者用の控え施設。

アリアは、部屋の窓辺に立っていた。


高層階から見下ろす街は、規則正しく動いている。

信号、車、人の流れ。


(……変わらないように見える)


だが、その下で、確実に「歪み」が生まれている。


拒否権。

それは、力を持つ者に与えられた自由ではない。


**力を管理する側が、初めて手放した“保険”**だ。


だからこそ――

それを無視する動きは、必ず出る。


携帯端末が震えた。


発信元は、カナダ政府の調整官。


『非公式ルートでの接触要請が増えています』

『拒否を“無効”と見なす動きあり』


(……来た)



◆2 公式ではない力


夜。


ホテルの地下ラウンジは、利用者がいなかった。

照明は落とされ、警備員の姿も見えない。


(ここは“使われてない場所”)


アリアは、そう判断していた。


その空気を破るように、

エレベーターの到着音が響く。


一人の男が降りてきた。


年齢は四十代前半。

スーツは高価だが、国章も所属もない。


「……アリア・ヤマギシさん」


英語。

だが、母語ではない。


「誰の代理ですか?」


アリアは、最初から核心を突いた。


男は、薄く笑った。


「国の名前を出さない約束で来ています」


(つまり、公式じゃない)


「先ほどの“拒否”について」


「知っています」


「撤回していただきたい」


「しません」


即答。


男は、肩をすくめた。


「あなたは、誤解しています」


「どこを?」


「拒否権は、状況が安定している間だけ有効だ」


(……勝手な解釈)


「今は?」


「不安定になりつつある」


男の声が、わずかに低くなる。


「そして不安定な状況では、

 “迅速な判断”が優先される」


「つまり?」


「拒否は、越権だ」



◆3 越権の定義


アリアは、男をまっすぐ見た。


「越権しているのは、どちらですか?」


「……」


「あなたは、公式の席にいない」


「だからこそ、柔軟に話せる」


「それを“越権”と言うんです」


男の表情が、一瞬だけ固まった。


(……この人は、命令されている)


自分で決めていない。

だから、言葉に力がない。


「私が拒否したのは」


アリアは、静かに続けた。


「“止める必要がない接触”です」


「だが――」


「止める必要が生じたなら、私は来る」


一歩、前へ。


「来ないのは、

 あなたたちが“止めたい”のではなく、

 “有利にしたい”からです」


沈黙。


ラウンジの空調音だけが、響く。



◆4 線を踏む音


男は、視線を逸らした。


「……あなたは、危険な存在だ」


「それは、最初からです」


「制御できない」


「だから、拒否権がある」


男は、ゆっくりと息を吐いた。


「では――」


彼は、低く言った。


「我々が“独自に動いた”場合は?」


その瞬間、

アリアの背中に、冷たい感覚が走った。


(……それを言うか)


「それは」


アリアは答えた。


「あなたたちが、線を越えるという宣言です」


「……」


「越えた線は、戻せません」


男は、最後にこう言った。


「あなたが動かなくても、

 世界は動く」


「知っています」


「では――」


「だから、私は“止める”んです」


その言葉に、男は何も返せなかった。


エレベーターの扉が閉まる。



◆5 報せ


部屋に戻った直後、

携帯が鳴った。


今度は、見覚えのある番号。


アメリカ。


アリアは、嫌な予感を抱きながら出た。


「……マイケル?」


ノイズ混じりの声。


「アリア……聞こえるか」


(生きてる)


それだけで、一瞬、胸が緩む。


だが、次の言葉で、すべてが凍った。


「NSAが動いた」


「……」


「公式じゃない。

 だが、“黙認”されてる」


アリアは、目を閉じた。


「どこで?」


「西海岸。

 俺の――元の管轄だ」


短い沈黙。


「……俺は大丈夫だ」


(嘘だ)


声が、無理をしている。


「だが、

 次はお前を直接取りに来る」



◆6 拒否が生むもの


通話が切れたあと、

部屋は静まり返った。


アリアは、刀のケースに手を置いた。


(拒否した結果だ)


だが、後悔はない。


拒否しなければ、

もっと早く“越権”は始まっていた。


(……次は、止める番だ)


それが、刃を持つ者の条件。


拒否権は、

逃げるための権利じゃない。


踏み越えてきた相手を、

正面から止めるための線だ。



◆7 夜の確信


窓の外。

トロントの夜景が、静かに光っている。


アリアは、低く呟いた。


「……来るなら、来い」


抜くかどうかは、

相手が決める。


だが、

抜いた後に終わるかどうかは――

自分が決める。


世界は、もう一度、選択を迫られる。



✦ 次回予告 ✦


北行編その38


『越境 ― 黙認された手』


・NSAの“非公式介入”

・カナダ政府の限界

・そして――アリアが「止める」ために動く夜




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