表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/88

神弓

「この、アシンメトリーな装飾の配置……気になるな」


柄に施された彫刻と、埋め込まれた宝石が、左右で微妙に異なる。


剣の鞘の方を見ると、似たような装飾になっているけど、こちらは左右対称だった。


こんなヒントがあったのに、ネプォンの奴……。


俺もこんなにマジマジと見てなかったから、あの時は気づかなかった。


「装飾を触っても、ぴくりとも動かないな」


俺は埋め込まれた宝石を指の腹で押して、左右対称にしようとしたけど、びくともしない。


その部分だけ触っても、意味がないのか。


他には……と。


剣を前後左右に回転させながら、あちこち調べていると、剣の鍔がクルリと回った。


あ!


剣の柄の一番底を押し上げながら、鍔を回すとカチリと装飾が動いた。


それと同時に、剣の刃が亀裂にそって変形していく。


そのまま装飾を、左右対称になるまで動かすと、剣の刃が全く違う形に変形していった。


「こ、これは、なんだ?」


「ベル……?」


楽器になるなんて、予想外だ。

軽く振ると『リーン……』と、心に染み渡るような美しい音がする。


「いい音ニャ。神々が愛でそうな音ニャ」


ニャルパンが、そう言った時だ。


目の前に光が集まり始め、光り輝く何かが形作られていく。


「おお!」

「な、なんだ?」

「わぁ」

「これはこれは……」


みんな口々に、感嘆の声をあげた。

俺も驚いてる。


この形……弓!?


それは、大帝神龍王を模したような彫刻が施された、見事な弓だった。


弓は俺の手の中に自ら降りてくると、ゆっくりと輝きが鎮まっていく。

すごく手にしっくりくる弓だ。


「すごいニャ……これは、神々の愛でる神木『シュラルドグ』から切り出した弓じゃニャいか?」


「わかるのか? ニャルパン」


「師匠が教えてくれた特徴に、よく似てるニャ。紛れもなくこれは、兄さんの神器ニャ!」


「俺の……? 俺は、ネプォンじゃないぞ?」


「神器は自ら持ち主を選ぶニャ。この弓が兄さんの手に降りてきたのだから、問題ないニャよ」


「これが、本物の神器……」


みんなも集まってくる。ケルヴィン殿下も、興味津々で眺めていた。


「精巧な作りだな……なぁ、ちょっと貸してくれないか?」


「え? ええ、どうぞ」


ケルヴィン殿下は、構えて弓を引こうとしたけど、弦がぴくりとも引けなかった。


「びくともしないぞ」


それを聞いた聖騎士ギルバートも、ケルヴィン殿下から受け取って弓を引く。


「う……く! 何これ。鋼のように硬い。アーチロビン、引いてみて」


俺は驚きながら弓を受け取って、弦を引く。


弦は簡単に引けて、淡く輝きだした。


「まさに神器。アーチロビンだけにしか使えぬ、本物の神弓じゃな」


魔導士ティトが、感心したように俺を見る。

お、俺が神器を持てるのか?


天の選定がなかったはずなのに。


「よかったね!! やっぱり、あなたがふさわしいんだ!!」


フィオが、花が咲いたような笑顔で喜んでくれた。

つられて、俺も嬉しくなる。だけど……。


「アーチロビン? 嬉しくないの?」


フィオが顔を覗き込んでくる。

嬉しさよりも、戸惑いの方が上回っているんだよな。


「いや、あの……」


「?」


「俺は、ただの弓使いだ。伝説では、天が選ぶ英雄はその時代に一人だけ。幾重にも重ねた、転生前の苦労によって魂を鍛えた存在」


「そうだけど、それが?」


「納得できないんだ」


「ネプォン王が健在な現状に、あなたが選ばれるのはおかしい、と言いたいの?」


「ああ。あいつは、戦えないほど怪我を負ったわけでも、死んだわけでもない。なぜ、俺が神器を手にできたんだろう」


「英雄が世界を裏切った時、英雄は交代するニャんよ。『稀有な魂を持つ者』に」


「!!」


「!?」


「!!!」


「ええ!?」


裏切った? ネプォンが?

それに、稀有な魂?


「ネプォンが、世界を裏切った、てどういうことだ?」


「歴史的には珍しくないニャよ。過去の英雄たちの中には、魔王と取引をして、世界と引き換えに永遠の命や富を得ようとした人もいたニャ」


「なに!? じゃ、ネプォンも?」


「あり得るニャよ? トドメを刺そうとした直前に、魔王から何か提案された可能性もあるニャ」


「でも、ネプォンはトドメを刺してる。魔王の復活を認めないくらい、完膚なきまでに倒したと自負していたのに」


「何か契約したかもニャ」


「ん?」


「例えばニャ。ネプォン王も魔王も、彼の剣が神剣ではないことに気づいた、と、するニャよ? 戦う直前になって」


「!!」


「そうなると、ニャ。今更引き返せないネプォン王と、魂までは砕かれないことに気づいた魔王は、ある一点で利害が一致するニャ」


「まさか……」


「仮初の魔王の消滅」


「!!」


「肉体は消滅するから、明確に倒したと言う実績にはなるニャ。魔王も肉体を捨てて転生ができるニャ」


「そこまではわかる。契約、って?」


「復活した魔王が真っ先にすることは、なんだニャ?」


「世界征服?」


「違うニャ。倒した勇者に復讐ニャ。自分を倒す可能性を持つ勇者を真っ先に狙うニャ」


「!!」


そういえば、以前シャーリーがそんなことを言っていたな。


“魔王は、倒した私たちを忘れない”と。


「魔王は、このままこの剣で倒してくれたら、復活してもネプォン王を見逃す、と提案したかもニャ」


「でもそれだと、復活をあそこまで否定しないだろ? 自分は安全なんだから。身分は失うかもだけど」


「もしくは、ネプォン王が『復活は自分が死んだ後にしてくれ』と頼んだかもしれニャいよ? 対決しなくて済むように」


「!!」


「だから、あいつ、復活を否定していたのか!? 早すぎる……て!!」


「かもニャ。それにこの契約は、寿命が来て死んだ後なら、魔王に世界を好きにしていいと、約束したようなものニャ」


「世界を売ったことと、同じ」


「そうニャ。世界に対する裏切り」


「あいつ……!!」


「こうならないための、お助けや導きはあったはずニャんよ。英雄には天の助けがつきものニャ」


「?」


「この剣の哭声は聞こえていたはず。倒すではなく、封印のためのアイテムも、持っていたはず」


「!!」


俺は胸を押さえた。


あの、三叉のクリスタルだな。


シャーリーが、本来は魔王ダーデュラの封印のために大聖女オベリア様に託されたと言っていた。


ところが奴は、ハクをつけるために大帝神龍王に挑み、クリスタルをそこで俺に埋め込んで封印に使ってしまった。


剣の哭声も聞こえていたはずなのに、無視して仲間に相談もしなかった。


最終的にピンチになって、魔王と取引をして世界と引き換えに自分の安全を約束させた。


なんてことだ…!!


「魔王ダーデュラは、約束を反故にしたんだな」


「ネプォン王が、なぜ、魔王が約束を守ると思ったか、理由はわからないニャ。それでも……」


「?」


「やり直すことは出来たニャンよ。もう一度この剣を調べて、彼の神器を手に取り、魔王に立ち向かうことは」


「だが、奴は売ってしまった。魔王が以前より強い相手になると、わかっていたから」


「そうニャ。戦いから逃げたニャ。だから、兄さんに順番が来たニャよ。兄さんは、神々すら予測出来ないほど、『稀有な魂を持つ者』なんニャ」


「実感ないよ。ただの弓使いなのに。それに、稀有な魂と言われても……」


「兄さんの力は、『ただの弓使い』じゃないニャん」


「はは……まあな」


「このニャルパン様の見立てでは、兄さんの魂は、突然変異ニャと思う」


「突然変異?」


「魂を管理する神々ですら、予測不可能な変異を遂げた魂。だから『稀有な魂』として、次の英雄に選ばれたニャよ」


「いや……それだけじゃないよ」


俺は、手にした神弓を見つめた。

俺がここに辿り着けたのは、俺だけの力じゃない。


大帝神龍王と、それから……。


そこにいる仲間たちを、改めて見回す。


この人たちが、いたからだ。


そして、何より。


そばにいるフィオを見る。


彼女が、俺を呼んでくれたからだ。


読んでくださってありがとうございます。

ブックマーク登録と、評価ポイント★で応援していただけると嬉しいです。とても励みになります。


(ポイントは広告の下↓にあります)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ