神剣ではない剣
「ギュイィィ!!」
巨大蜘蛛が、ズシン! と前足を振り下ろす。
ガキン!!
聖騎士ギルバートが、素早く聖騎士の盾で、強烈な一撃を防いだ。
俺は、いつものように床に矢を打ち込み、力場が発動して蜘蛛の動きが止まる。
一回……二回……そして三回目!!
蜘蛛は俺たちに、糸を吹きかけようとしたようだった。
自分の体に攻撃が跳ね返り、みるみるうちに糸の塊になっていく。
やがて、自分の糸で動けなくなった蜘蛛は、その場で沈黙してしまった。
俺は蒼炎を解放して、跡形なく焼き払う。
「やれやれ。怖かったニャ」
ニャルパンが、汗を拭いながら戻ってきた。
その手には、火箸で挟まれた神剣が握られている。
「浄化されたのか?」
俺が聞くと、ニャルパンは熱くなった神剣を水槽に浸して、冷やした。
ジュウゥゥ。
白い煙が上がる。
「穢れは落ちたニャ。でも、おかしいんだニャ。よく見たら、これは神剣じゃないニャ」
「!?」
ニャルパンは、冷えた剣を俺たちの前に置く。
形は確かに剣だ。
でも、よく見たら……。
「ん? なんだ? 剣の刃に、うっすらと亀裂がある。それに、この持ち手の柄の部分の装飾……微妙に歪んでないか?」
柄には、見事な宝石がいくつか埋め込んであるけど、真っ直ぐに揃っていないのだ。
俺が言うと、フィオも覗き込む。
「本当だ。アシンメトリー?」
「……いや。多分違う。これ、もしかして何か仕掛けのある剣なんじゃないか?」
「仕掛け……て、まさか……これは本当の神器へと導く道具なんじゃ?」
「!!」
「!?」
「!!!」
その場にいる、みんなが固まる。
沈黙の中、ニャルパンが手を上げて、俺たちに質問してきた。
「みんなー、俺っちにも知ってること、教えてほしいニャ。状況がわからないから、知恵を貸せないニャよ?」
俺は魔王の転生のこと、ネプォンのことを彼に説明する。
一通り聞いたニャルパンは、ふんふんと頷いた。
「これで納得したニャ。やっぱりこれは神器へと導く道具ニャね」
「道具」
「ニャ。大体、本物の神器でトドメを刺されたはずの魔王が、転生の秘術なんて放てるわけないニャよ」
「そういうものか?」
「事前に秘術を実行していたにせよ、神器は魔王の魂を消滅させる力があるニャ。魂を分けて転生させるなんて、実行不可ニャ」
「元になる魂が消滅するから、ってことか……」
「そうニャ。でも、使われた武器が、剣の形をした、ただの道具なら?」
「魂までは砕けずに、魔王の瘴気を吸い込んで錆びついてしまった……?」
「かもニャ」
「どういうことなんだ……ネプォンは、神器へと導く道具を持ちながら、それを使わなかったということか……?」
天に選ばれた英雄なんだろ? あいつ。
「今さらだが、アーチロビン」
ケルヴィン殿下が、俺を見る。
「はい?」
「お前も、神器に選ばれたんじゃないか?」
「へ!?」
「最初は、ネプォン義兄上が確かに天の選定を受けたんだろう。だが、彼は道具を受け取っただけで、神器を手にしなかった」
「そ、それは、道具だとわからなかっただけじゃ……」
「あり得るが……ネプォン義兄上の性格をよく知るのは……イルハート、お前は何が知ってるか?」
ケルヴィン殿下が、魔導士ティトが持つ、結界の鏡に向かって声をかけた。
「ふん、本当にわからなかっただけなんじゃなーい?」
大魔導士イルハートは、魔法で爪を塗りながら俺たちを流し目で見る。
「剣の哭き声が持ち主にしか聞こえないなら、あいつは意味がわからず、それを誰かに確認もせず、仕掛けも解けなかっただけかもよぉ?」
「解決のための、行動を起こさなかった?」
「私と出会う前から持ってたから、そうなんでしょうねぇ。それなりの切れ味だったし、私も特に疑問に思わなかったわぁ」
俺は、大魔導士イルハートの入った結界の鏡を魔導士ティトの手首ごと掴んで引き寄せた。
「どういうことだよ! ただの道具なら、本人にしか抜けない神剣にはならないだろ!?」
「本人にしか抜けない、て。ぼうやは確認したことあったぁ?」
「!!」
「伝説では、そう言われてる。でも、あいつは他人に神剣を触らせたことないのよ? みんな風聞で抜けないものだと、錯覚しただけよねぇ」
「じゃ、錆びたから抜けたわけじゃない、最初から誰にでも抜ける剣の形をした道具……」
「かもねぇ? あいつに、その剣の亀裂の意味を聞いたことがあったけど、神剣ならではの模様だと、言ってたわぁ」
「な……!」
「それなりに殺傷力があるから、わからなかったのねぇ」
「そんな……あいつ、わからないなら、なぜ聞かなかった?」
「ぼうや、あいつの性格知ってるでしょ? プライドが高くて、面倒くさがり、丸投げ気質。見栄だけはある。質問なんてできるタイプ?」
「あ……」
「実際、面倒くさがって、龍王を全て倒すことなく大帝神龍王に挑み、ぼうやは犠牲になったじゃなぁい?」
「!!」
「そう……なんとかなってきたのよ、あいつは今まで。ラック値が高いから、どんな状況も周りが犠牲になることで、『なんとか』なってきたのぉ」
「魔王には通用しなかった……」
「そうねぇ。魔王はそれがわかっていたから、“ネプォンに倒されて”やったのかもねぇ」
「転生の秘術を使うために……か」
「ズボラな勇者を利用した、てこと。あーあ、勝ち馬についたと、私も思い込んでたから、甘かったわぁ」
大魔導士イルハートは、塗った爪にふぅ、と色っぽく息を吹きかける。
「でも、私はぼうやという、新しい勝ち馬を……」
そう言って、ウィンクしてくる彼女が封じられた鏡を、フィオがひょいと裏返した。
「何、すんのよぉ!?」
「アーチロビン、仕掛けを解きましょう」
「お嬢ちゃん、失礼よぉ!?」
「あなたに、言われたくありません」
「んま!! ポーン風情が、生意気な!」
「くくく。いいぞ、フィオ。イルハートも肩なしじゃな」
「ティト、あんたまで……!!」
「お前なんぞ、勝ち馬に蹴られて、フラれるのがオチぞ、イルハート。他所をあたるんじゃな」
「く……!!」
女同士の舌戦に、聖騎士ギルバートが、困った顔をして俺を見た。
「アーチロビン、話を変えよう。仕掛けの謎はわかる?」
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