鍛冶屋のニャルパン
「誰ですか? あなた」
俺は、声をかけてきた男に尋ねた。思わず、周りの人間まで避けて通るほど臭う。
フィオも、必死に我慢しているけど、鼻をつまみたくてたまらないようだ。
男は、有無を言わさず近づいてきて、俺の腕を掴んでくる。
うう! く、臭い……!
何日風呂に入ってないのか、こっちが失神しそうだ。
猫は綺麗好きのはずだ。
猫族は違うのか!?
フィオは、たまらず俺の背中に顔を埋めてしまっている。
「キョウレツー!」
オウムのフェイルノも、俺の懐に潜り込んできた。
お、おいおいみんな、俺は?
俺はなるべく、浅く呼吸しながら相手を見た。
「へへっ、臭うか。悪りぃニャ、兄さんたち。この半年、風呂に入ってニャいのよ」
「!!」
「いいから、俺っちの店にくるニャ! ほら、そこの鍛冶屋ニャ!」
俺たちは有無を言わさず、彼の言う店に押し込まれた。
鍛冶屋……。
中は埃っぽくて、あまり稼働してるように見えない。
こいつ、本当に商売してるのか?
「ニャあ、兄さん」
俺は、ポンと背中を叩かれる。
「ん?」
「その手に持ってるのは神剣ニャろ?」
「え!?」
「さっきも言ったけど、そいつは穢れを纏いすぎて、もう限界にきてる。本来なら持ち主が浄化できるはずなんだニャ……」
「あ……あぁ」
「持ち主が、勝手に手放したみたいだニャ」
「そう……だ」
「やたらと剣が哭くのが、おかしいんニャが」
「キィィィーンて、音のことか?」
「ニャ? あんた、聞こえるのニャ? 持ち主か、神器専用の鍛冶屋にしか、聞こえないはずニャのに」
「そうなのか? これはネプォンが……持ち主が持っていた時に錆びたらしくて、それで……」
「ニャにい!?」
男は俺にさらに近寄ると、襟を持ってガクガク振ってきた。
「持ち主の手にある間に、神器が錆びるニャんて、そんなおかしなことがあるかニャ!」
「そ、そんなこと言ったって、本当だよ!」
「あぁ、なんてことニャ」
鍛冶屋の男はブツブツ言うと、神剣を俺の手からもぎ取って、鞘から剣を抜いた。
「ギニャー!! こ、こ、これは、瘴気を吸いすぎて、錆びているのニャ!! 兄さん! 風呂を沸かすニャ!」
「え?」
「仕事の前に、身を清めるニャ! ついでに、ここを掃除するニャ!!」
「ええ!?」
「人手があるんだから、できるニャ!! ほれ! 急ぐニャ!!」
ちょっと待て。わけのわからない状態で、客のはずの俺たちが、こいつのために風呂を沸かして掃除を?
「どう考えても、おかし……!」
「いい仕事をするためには、綺麗な方がいいニャろ!?」
「まさか、面倒くさいから、こうやって客が来るまで基本放置してるんじゃ……」
「はいはーい、これも世のため、人のため、俺っちのた……いやいや! 神剣の浄化のためニャ!」
俺たちは、とにかく鍛冶屋を風呂に入れて、掃除をする。
「ホコリ、ダラケ、ムシモ、イッパイ!!」
フェイルノも、食べられそうな虫が出てきたら、食べている。
お腹壊すなよ……。
「何をしとるんじゃい? お前達」
そこへ、魔導士ティトや聖騎士ギルバート、ケルヴィン殿下もやってきた。
「みんな、よくここだとわかったな」
「なにやら、半年ぶりに鍛冶屋が仕事していると、あちこちで噂されていてな。覗きに来てみたんじゃよ」
「それで、なんで掃除なんてしてるの? アーチロビン」
「ギルバート、実はかくかくしかじか……」
「ふんふん、て、ええ!? なに、そのカオスな状況」
「とりあえず、フィオを手伝って掃除をしてくれないか。俺は、鍛冶屋の背中を流すように言われてる」
「えぇ〜……」
「仕方ない、やろう、ギルバート」
「ケルヴィン殿下、汚れちゃいますよ」
「つべこべ言うな。テレクサンドラにバラすぞ?」
「はい、すぐにやります、殿下」
みんなに掃除を任せて、俺は鍛冶屋の背中を流しに行く。
とにかく綺麗にして、終わった頃には俺は汗だくになっていた。
「ニャニャ。さっぱりしたニャ」
鍛冶屋は、満足そうに仕事場に戻ると、みんなに挨拶する。
「当代きっての鍛冶屋、ニャルパン。参上」
「掃除、終わりましたよ、ニャルパンさん」
「おおー! ありがとうニャ。可愛い孤族の女の子だニャ。俺っちの彼女になる気はないかニャ?」
「なりません! 恋人がいますから」
フィオが、俺のそばにやってきて、甲斐甲斐しく汗を拭いてくれる。
「チッ。まぁ、いいニャ。今はこっちが大事ニャ」
ニャルパンは、神剣を改めて眺めた。
「酷い状態ニャ、兄さん」
「確かに」
「神器の神力は、持ち主の魂と循環している間は、枯渇することはないニャ。これは異常事態ニャ」
「異常事態」
「そうだニャ。ネプォン王は、賢王とは言えなかったみたいニャけど、だからといって瘴気で錆びたりしないニャ。ニャにをしたのか……」
ニャルパンは、そう言って炉に火を灯す。
炉の熱が鉄を打てるほど高音になるには、相当時間が要るだろう……と、思っていたら、ニャルパンは不思議な舞を踊り出した。
「ニャンニャらー、ニャンニャらー」
滑稽に思える動きでも、炉はみるみる熱されて火を噴き出し始めた。
こんな短時間で!?
嘘だろ……フイゴの力も借りずに。
「すご……!」
「腕前は確かなようじゃなぁ。製鉄の神に愛された鍛冶屋じゃ」
ケルヴィン殿下と、魔導士ティトが感心している。
そこまで愛された鍛冶屋が、仕事場を埃だらけにするなんて、バチが当たらなきゃいいけどなぁ。
「世界広しといえど、神器を扱えるのはこのニャルパン様だけニャ。この炉は、浄化の炎を起こせるニャ」
「浄化の炎……」
「とりあえず穢れを落とすニャ。真っさらにして、天に返すニャよ。さぁ」
ニャルパンが、神剣を火箸で挟んで、燃え盛る炉の炎に翳したその時だ。
ブワ!!
神剣から、ものすごい瘴気が噴き出した。
炉から立ち昇る炎が、その瘴気を舐めるように絡め取っていく。
「すごい量ニャ!! 予想より沢山出るニャ!」
「ニャルパン! 大丈夫か!?」
「ぐぬぬ……!」
炉の炎が取りこぼした瘴気が、ニャルパンを覆っていく。
「ニャルパンもうよせ! 神剣を手放せ!!」
俺が叫んでも、ニャルパンは首を横に振った。
「だめニャ! もう少しで穢れが落ちるニャ!」
「お前が瘴気に取り憑かれるぞ!?」
「神器を穢したまま、にする……わけに……は……」
ニャルパンの体の中に、瘴気が入り込んでいく。
「アーチロビン!!」
フィオが俺の名前を呼んだ。
「彼の体から瘴気を抜く!」
「頼む! フィオ!」
「慈悲深き、癒しの神よ。禍つ気を取り去り命を救いたまえ、クリナピュアフル!!」
フィオの力で、ニャルパンから瘴気が出てきた。
それは一箇所に集まって、巨大な蜘蛛のような生き物になる。
「外に出すわけには行かない! 倒すぞ!!」
俺たちは武器を構えて、巨大な蜘蛛に立ち向かった。
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