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ネプォンの神剣

俺は咄嗟にフィオを抱き寄せて、道の脇に避ける。


「うわ! とわ! わわわ!!」


フィオに抱きつこうとした男は、勢い余っていかつい男に抱きついてしまっていた。


「おおっと。なんだよ、てめぇ」


「す、す、すみませんー!!」


「待て、こらぁ!!」


人でごったがえす通りを、二人は走り去っていく。


やれやれ……。


ガチャン!


背中に何か当たった。

固いものだ。なんだ?


振り向くと、年季の入った盾が見えた。

露店で武器と防具を取り扱う店に、来てしまったんだな。


「お客様、商品が壊れたら買い取りしていただきますよ?」


顔を顰めた店主に言われ、俺はすまないと頭を下げる。腕の中のフィオは、顔を赤くしながら大人しく収まっていた。


その可愛らしさに、俺も赤くなる。


「あ、ありがとう、アーチロビン」


「い、いいんだ、フィオ。俺のせいだし」


俺は彼女を離すと、露店の商品を見回した。

すごいな。見たところ、新品はあまりない。


キーン……キィィィーン。

また、あの音だ。

はっきり聞こえる。

すぐ近くにあるみたいだ。


「あれ? これ……」


音にひかれて、ある剣が目に留まった。

目の前で、先にその剣を抜いた人が、不満そうに鞘に戻している。


「おい、店主! こんな錆びた剣を売るんじゃねぇよ!!」


「お客様、よく見ておくんなさい。外側の装飾は見事なもんでしょ?」


「け! おい、この剣の刃をとりかえてくれよ! そしたら、買ってやるぜ」


「それがねぇ、職人にもこの剣の刃が外せなくてね」


「じゃ、いらねぇよ」


「あー……ああ、ちくしょう、また客に逃げられたか」


店主が、頭を抱えて俯いている。俺は思わず、その剣を手に取った。


「ネプォンの神剣だ……」


呟く俺の隣から、フィオが覗き込む。

興味津々な目だ。


「これが、ネプォン王の剣なの? ……て、ええ!? あの人、神器を売ったの!?」


「そうみたいだな」


その声を聞いて、店主が俺たちを見た。

騒がしかったかな。


「おや、お客様。この剣をご存知で?」


「ええ」


「本当に神剣なんですかねぇ? いや、確かに売りつけにきた本人も、そんなこと言ってたんですよ」


「本人が売りにきたんですか」


「いやー、カタリですよ、絶対。装飾は見事なんですが、この錆のせいで売れないんですよ」


ネプォンの奴……天から与えられた、無二の神剣を売るなんて。


まあ、俺と旅していた時も、そんなに大事に扱ってなかったしな。


錆びたから、いらなくなったんだろうか。


「場所ばかり取るので、お客さん、よかったら安値で買いませんか?」


店主にそう言われて、俺は少し迷った後購入することにした。


価格はなんと、俺が前に持っていた木の弓より安い。


いいのかな……こんな扱い。


仮にも神剣なのに。フィオは、俺の隣を歩きながら、首を傾げている。


「よく、気づいたね」


「音が聞こえたんだ」


「音?」


「フィオは、やっぱり聞こえないか?」


「ええ」


「そっか。気のせいかな」


確かに聞こえたはずなのに、今は何も聞こえない。


「ね、アーチロビン。神剣は、本来の持ち主以外には、抜けない剣なのよね?」


「そのはずだよ」


「でも前に、ゾンビダラボッチの結界の前で、シャーリー様にも抜けていたよね」


「そうだったな。あの時も驚いたけど、さっきの客にも抜けてたものな。おそらくあの店主にも」


「どういうことなのかな。それに、神器が錆びるなんて、あり得ないでしょ?」


「俺も聞いた事ない」


なぜ、錆びたんだろうな。ネプォンが、英雄としての資格を終えてしまったとか?


それとも、奴があまりにも怠惰な王にしかならなかったからか?


俺が知る英雄譚の裏話にも、天から授かった武具が錆びた話は聞かない。


「まるで、穢れを吸い込んだみたいだね」


不意に、フィオがそう言った。


「え……」


「そのせいで、錆びたみたいじゃない」


「そ、そりゃそうだけど」


「本来の持ち主が、アーチロビンだったら、よかったのに」


「買いかぶりすぎだよ、フィオ。今の俺があるのは、大帝神龍王の力があるからだ」


「はぁ、あなたは偉いな。決して驕らないんだもの」


「いや、そうしてないと、『兵器』になってしまいそうで」


「え?」


「俺の力を目にした他の冒険者に、『まさに兵器だな』と、言われたことがある。それが、忘れられなくて」


「アーチロビン……」


「俺の力は、それほど恐ろしいものなんだ。だから、この言葉をいつも思い出して、驕らないようにしてる」


「……ごめんね」


「あ、いや、違うよ。フィオを責めてないから。言い方がまずかったな」


「ううん、大きな力には責任も伴うもの。やっぱりあなたは、すごいと思う」


「フィオ、ありがとう」


「この神剣……やっぱりあなたの方が相応しいと思うけどな」


「はは。俺は剣を使わないからなあ。弓ならよかったのにな」


キーン……キィィィーン。


あ。また、聞こえる。でも、隣のフィオには聞こえてないようだ。


空耳……?


「そこの兄ちゃんたち、止まりニャ」


ふと、誰かに声をかけられる。振り返ると、ボサボサの頭に、汚れて破れた服を纏った背の低い猫族の男が立っていた。


「剣が哭いてる。あんた、それ早く浄化しないと、魔剣になるニャ」


読んでくださってありがとうございます。

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