表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/88

恐慌

ネプォンが逃げた?


月の神殿を軍に包囲させていたから、みんなそこにネプォンがいることを知っていたな。


それなのに、堂々と逃げたのか? あいつ。


通りでは、ネプォンを捕まえろと、人々が騒いでいる。


「あいつ、自軍を率いていたのに、兵士たちを見捨てて逃げたんじゃないだろうな!?」


ケルヴィン殿下が、心配そうに外の様子に耳を傾けていた。


段々と騒がしくなる中、怒声があがる。


「ガルズンアース国の兵士をやっつけろ!!」


「ネプォン王を匿ってるんだろ!?」


「月の神殿に、みんなで行こう!!」


そんな声がしてきた。

市民が、恐怖からおかしくなりだしたのか!?

市民と兵士がまともにぶつかり合えば、死傷者が出てしまう。


ケルヴィン殿下が、俺たちを見回して言った。


「ガルズンアースの兵士は、我が国の民だ。見捨てることはできない。それに……彼らに罪はない」


……そうだよな。あいつらは、ネプォンに命令されて来ただけだから。


「出るのは構いませんが、我々を捕縛しようとしたら、どうしますか?」


聖騎士ギルバートが、ケルヴィン殿下に確認を取る。


「魔王の存在がはっきりした今、俺を捕まえる理由はなくなった。彼らは、私の命令に従うと思う」


「……はい」


俺たちは、意を決して表に出た。

太陽神殿の馬車に乗って、月の神殿へと急ぐ。


現場は既に、一触即発の状態だった。


「ネプォン王を出せー!!」


「魔王復活の兆しが出たのに、逃げ出しやがった!!」


「連れ戻せよ! お前らの王だろ!?」


市民に囲まれて、ガルズンアース国の兵士が、盾を翳して身を守っていた。


下手に市民と乱闘になれば、この国の兵士が出て来ることになる。


そうなれば、戦に発展してしまうかもしれない。


「鎮まれ!!」


ケルヴィン殿下が、馬車から降りるなり叫ぶ。


テレクサンドラも彼の隣に立ち、月の神殿から出て来たテデュッセアも、その横に立った。


「ケルヴィン殿下!?」


ガルズンアース国の兵士が、思わず大声で呼ぶ。


「皆様、お鎮まりください!!」


「話を聞いて!!」


テレクサンドラや、テデュッセアも叫ぶので、みんなシーンとなった。


「俺はガルズンアース国王弟、ケルヴィン・ガイラ・ホーンロックだ!!」


「ケルヴィン殿下、て、ネプォン王が探していた逃亡中の……?」


「な、なぜここに?」


「ああ、俺は理由があって国を出ていた。みんな、魔王復活の兆しが出たので不安なのだろう!?」


ざわざわと、人々はケルヴィン殿下を見て顔を見合わせる。


「そ、そうですよ、魔王が倒れて半年だ。次の魔王が生まれるまで、数百年は間隔が開くはずなのに、なぜこんなことに!?」


「ネプォン王が、仕留め損ねたのか!?」


「我々はどうなるんです?」


みんな、泣きそうな顔だ。他の国々も同じだろう。


「仕留め損ねたのではない。魔王が仕組んだ罠に、かかったのだ」


ケルヴィン殿下が、こんこんと説明していった。


みんな、納得したような、できないような不安そうな表情になる。


「必ず魔王は倒す。そのために、俺たちはここに来た。だから、どうか我が国の兵士に、手は出さないでくれ!」


「俺たち……?」


市民が怪しむので、俺たちはケルヴィン殿下のそばに立った。みんなが、目を皿のようにして見ている。


「新しい……勇者たち?」


「天に選ばれた……?」


みんなの目に、光が灯りだす。ケルヴィン殿下は、俺たちの肩に手を置いた。


「天に選ばれてはいない。だが、魔王と魔族の侵攻を阻めるのは、俺たちだけだ」


「えぇ!? 天の選定がない勇者?」


「そんな、ただの冒険者たちじゃないか」


「やられるに、決まってる! ただの冒険者が勝てるなら、勇者はいらないんだぞ!!」


「神剣は!? 神々の神器は? 伝説の武器は?」


騒ぐ人々は、石を投げてきそうだ。

ネプォンには、神剣があった。


俺たちには、目立つ象徴のような神器はない。


『一目でわかる、はっきりしたもの』がないのだ。


ネプォンたちだって、神剣をひけらかしながら旅をしていたわけじゃない。


魔王を倒した実績が、名声につながっただけなのに。


それでも今、この場を鎮めるのは、『ハッキリした何か』だろうか。


群衆の一人が、俺を見つめてきた。


「待て! おい、見ろよ、弓使いを連れてる……」


「弓使いがなんだ?」


「聞いたことがあるわ……隠しチートキャラと言われた弓使いがいる、と」


「あ、吟遊詩人が歌っていたな。確かガルズンアース国から来た誠の英雄だと」


ざわざわと、噂話が広がり始めた。

吟遊詩人の歌は、そんなに影響力があるのか?


「な、なぁ、弓使いのあんた! あんたは、魔王を倒せるのか?」


「あんたは英雄なのか?」


英雄かと、問われれば違う。


天は、俺を選んだわけじゃない。

天が、かつて選んだのはネプォン。


俺は大帝神龍王と、魂が融合しただけ。


それをそのまま言って、この人たちは納得するだろうか。


「英雄なわけないだろうが!!」


その時、群衆の中からネプォンの声がした。


え……!?


逃げずに変装して紛れていたのか?


「こいつは、俺の下で使われただけの、馬鹿弓使い。雑用係の雑魚だった奴だぞ!!」


ネプォンは、ローブを纏ったまま、人々をかき分けて近づいて来る。


顔が見えにくいから、周りは気づいてないようだ。


「お前、なぜこここにいる!? 誠の英雄とは、どういうことだよ!?」


ネプォンは、俺の襟を掴んできた。

英雄と俺が呼ばれるのが、我慢ならなかったのか。


「あんたこそ、なぜここに? 逃げ出したんじゃ、なかったのか?」


「質問に答えろ! 馬鹿弓使い! お前は、大帝神龍王と一緒に封印されたはずだ! なぜここにいて、英雄なんて呼ばれてる!?」


「……話せば長い」


「説明しろよ! それに───!」


ネプォンの目が、俺の隣に立つフィオを捉える。あ、そういえば俺、フィオの姿で奴の鼻に肘鉄を食らわせてしまってたな。


「お前までいるのか? あん時は、この鼻に一撃入れてくれたよな? 王に対する暴行は、死罪に値するんだぜ?」


「……」


「神官だろうと関係ない。今夜から俺と過ごせ。お前が俺を楽しませられれば、その分死罪になる時間が延長されるぞ? わかったら、こっちに……」


「!!」


俺はネプォンの手を払って、フィオを背中に庇った。


「触るな」


「あー? なんだよ、馬鹿弓使い。いつから俺に指図できるようになった?」


「もう、あんたの雑用係の弓使いじゃない」


「生意気言うんじゃねーよ。お前は俺のパシリなんだよ」


「違う」


俺たちのやりとりを見ていた周りが、ローブを羽織ったネプォンの肩に手を置いた。


「なぁ、あんた、何してんだ? この弓使いを雑用係にしてた、てことは、名の知れた冒険者だったのか?」


「ふ……」


何を思ったのか、ネプォンは自らローブのフードを剥いだ。


「ああ!」


「あんた、確か……!!」


「ふ、愚民ども! 俺こそが、魔王を倒した真の勇者、ネプォンだぁぁぁぁ!!」


……。

……。


何、してるんだ? この人。

せっかく正体を隠してたのに。


決めポーズで、己に酔っているネプォンに、周囲は目を丸くしている。


その視線を、自分に対する羨望の眼差しだとでも、思ってるんじゃないよな?


こいつ、本当に勘が鈍ってるみたいだ。


「ネプォンだ……」


「ネプォン」


周りが口々にその名を呼ぶ。

ネプォンが、ハッとした顔をして俺を見た。


やっと気づいたのか?


「捕まえろ!!」


周りが、一斉にネプォンに掴みかかる。


「わぁぁー! よせぇー!!」


ネプォンは、掴まれたローブを脱ぎ捨てて、命からがら逃げて行った。


読んでくださってありがとうございます。

ブックマーク登録と、評価ポイント★で応援していただけると嬉しいです。とても励みになります。


(ポイントは広告の下↓にあります)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ